〇大正8年全生庵発行。これは昭和38年に復刻されたものです。大正8年当時には山岡にかかわった人たちも多数存命の時期で貴重な文献です。

 

〇現代口語文に近い形になおしました。

〇鉄舟本の多くが引用している部分がありますがそのまま載

せます。

 

●居士は三十四五才の頃より胃病にかかっておられたが、五十二歳即ち明治二十年の八月に至り、右わき腹の内部に一大硬結ができた。そこで千葉立造氏はこれを胃がんと診察し、ベルツ博士は肝臓硬化症と診察した。

 

〇エルビン・フォン・ベルツ1849-1913 お雇い外国人として来日。東京帝国大学医学部教師。宮内省侍医を勤める。

 

●これより食物を飲み下すことが困難になり、翌二十一年二月より全く流動物のみを摂取されるようになり、身体は日一日衰弱を増した。が紀元節にはこれが最後ならんといって例のごとく参内した。その後聖上よりお見舞いの勅使並びに侍医を差し遣わされたので、居士は聖旨のありがたきに感泣した。

 

●数ならぬ身のいたつきを 大君のみことうれしく

   かしこみにけり

と詠じて奉られた。(御礼の和歌を天皇に奉る)

 

〇鉄舟の最期の時が近づいてきました。天皇が侍医を遣わすときには戦前までは臣下の老臣の病気の回復の見込みがない時に限られました。