〇明治神宮崇敬会編 昭和37年刊 明治天皇50年の式年に近侍の当時生存者の記録。

 

◎出席者

園池公致  侍従職出仕

坊城俊良  侍従職出仕

平松時賢  侍従職出仕

岡崎泰光  侍従職出仕

久世章業  侍従職出仕

山川三千子 女官

甘露寺方房 侍従職出仕 受長の弟 ここでは甘露寺と表記します。

穂僕英子   女官

山口節子   女官

甘露寺受長 侍従職出仕 方房の兄 ここでは明治神宮宮司在職

         中により、宮司と表記します。

 

●園池 御内儀のお座敷だけは鳥の子のすかし入りの障子をわざわざお作らせになって張らせました。

 

●山川 あれは煤払いの時も経師屋に張り替えさせませんで、吉田(金+玉)さんが上手に濃い糊で張ってそのままだとゆがみますので、水をたくさんかけて乾かされていました。

 

●坊城 私たちは夜など表から奧に行くとき、廊下が長いのでこわかったものですが、窓が開いていると猫が入って暖かい行灯の上に乗っていて、いきなり飛び出すんです。

 

●宮司 階段の下にある部屋から化け物が出るという伝説があったが。

 

●穂積 本当ですよ。

 

●司会 山川さんがお局で寝ていられて妙な体験をされたそうですから。

 

●山川 あったんでございます。私一人かと思いましたら前に見たかたもあったのです。

 

●宮司 何も使われていない部屋で、日光なんて全然当たらない部屋だった。

 

●穂積 紅葉さん(原注 藪嘉根子 掌侍)があすこの怪談で何か物の怪が憑いたということで腰を抜かしました。

 

●長谷 御内儀まで二百メートルくらい廊下がありましたからこわかったです。

 

●坊城 最後のところはかけて来たものです。

 

●山川 按摩は夜更けてまいりました。紋付き羽織でした。侍医寮の御用掛で二人でございました。按摩がすみますとわれわれも下がることが出来ました。

 

〇電気の無い宮中は薄暗い蝋燭の火が明かりとして灯るのみで無気味な空気が伝わります。幽霊や妖怪の世界に住んでいたといってもいいでしょう。