○本書は戊辰戦争六十年を期して出版されたものと思います。新潟市の幕末明治の古老の聞書としては唯一のものと思います。
○編者の鏡淵九六郎1869-1940です。医師の傍ら談話収集に努めました。本書は少数出版であったために、古書店では高値となり、入手困難になったそうです。
○のち平成三年に復刻されました。この稿は復刻本を基にしています。復刻に当たっては医師の蒲原宏氏が努力されています。蒲原氏は郷土史家で日本医学史を研究されました。私は講演を拝聴したことがあります。
○この中から戊辰戦争の聞書をいくつか紹介することにします。
●水戸浪士 広木松之助 古町三 池上隆太郎翁 六十七才
●私の家は昔から宿屋業に兼ねて目明かしをしていましたから、江戸相撲や千両役者の勧進元はおおかたしました者で、ある年(文久元年)の事なるが、今も同様冬枯れになると小窃盗が出没するから、それを警戒するために手先の者が厳しく夜回りをしていたところ寺町広小路付近にて見慣れぬ旅姿の男にであった。
○これが広木松之助の変装した姿です。桜田門外の変に加わった浪士はもう一人関鉄之助が越後岩船で捕らえられています。「広木松之介」という表記もありますが、ここでは原本のママの字を使います。
●宿は何宿かと聞いたら返事をしない。二度目に彼はしばらくして、宿屋は脱奔(だっぽん)小路だと言い放ったから、怪しんで捕らえようとするとかえって一人はねじ伏せられて他の一人はすぐさま彼の後ろへ廻り、捕らえようとすると、彼は最早手が廻っては致し方なしと観念したらしく縛についた。
●小泥棒を捕まえたつもりで、引き立てた所、これが桜田の雪を血に染めた水戸十七士の一人広木松之助であって、大物を捕らえたのでかえってこちらが驚いた。
○新潟港はいわゆる「抜け荷」事件もあり、奉行所の目明かし、手先の目が厳しかったのかもしれません。