○最近読んだ本に「防諜憲兵」(潮書房光人社)があります。筆者の工藤胖氏は上等兵から憲兵になり、終戦時は憲兵大尉になっています。兵から将校になるのはかなり困難なことで、准尉で成績の優秀なものの中から選抜されて、陸軍士官学校(憲兵は中野の憲兵学校)で教育を受け少尉に任官します。大尉まで進む人は希で「兵隊元帥」と兵からは恐れられ一目を置かれました。

 

○工藤氏の論述はこの手の戦記物が派手な戦闘や自慢に満ちたものが多い中に、冷静に事件の経過や当時の状況を伝える貴重なものです。この中に、尾崎秀美につながる満鉄職員の記録があります。

 

   ゾルゲ事件はご承知のようにソ連のスパイゾルゲが、近衛文麿のスタッフの一人だった尾崎秀実を通して、帝国の戦争遂行国策が南進(インドシナ方面)であることをつきとめソ連に伝えます。ソ連はナチスドイツとの東部戦線の戦闘が進行中だったため、南進情報から満州国国境に配備した軍を東部戦線に転用することができました。

 

○ゾルゲと尾崎そして連絡員などはのちに検挙されます。ゾルゲと尾崎は死刑になりますがソ連はゾルゲの活動を高く評価し英雄として戦後は記念切手を発行したほどです。

 

○陸軍は伝統的にロシア(ソ連)を仮想敵国として軍事計画を立てていたのですが、なぜ南進論になったのかは疑問でした。南方の資源を優先したというのが一般的理解でしたが、本書は別の視点を示しています。私は謎が解けたように思いました。

 

○次回はそれについてお話しします。