
池袋西武のアート・ギャラリーで開催中の『松﨑 融 木漆展』に行ってきました。
松﨑さんは、著名な漆芸家で、栃木県茂木町にお住まい。陶器の町、益子の隣町です。
松﨑さんの漆は、輪島などのようにつるっとした、まるで鏡のような表面の漆ではなく、木の力を生かした素朴で力強い漆。木から生まれたような作品。
まず、入口のウィンドーで松﨑さんの作品・・・11月のお茶会用に作ったという立礼卓とお点前のお道具一式が飾られています。

松﨑さんに許可を頂いて、写真を撮らせていただきました

お道具はもちろんのこと、立礼卓も炉縁も結界も、松崎さんのお作品。
ご自身の漆作品だけでお茶会が出来てしまうのだ

お茶碗ももちろん松﨑さんの作品。普通の漆なら茶筅を振る際に傷が入ってしまうが、松﨑さんの作品は丈夫なので、心配しなくて大丈夫とのこと。
なぜそんなに丈夫なのか。欅など丈夫な木を使っていることもあるが、日本の漆を何度も塗り重ねることで強くなるそう。
ほとんどの木漆作家は中国の漆を使っているが、丈夫さや硬さは日本の漆に勝るものはないそうです。
やはり、日本は漆の国

漆=japanで、日本は漆器が有名だったから、Japanと呼ばれるようになったのは皆さんご存知ですね。
そして、松﨑さんの漆は一見黒っぽく見えても、決して真っ黒ではない。
黒の下に別の色を塗り重ねているため、それが深い色を醸しだし、真っ黒にならないのです。
また、松﨑さんの作品はおおらかです。まるで、桃山時代の根来と同じ質感を感じます。
だか、その一方で、とても緻密です。
蓋物(ふたもの)はきちんと合わさりガタガタしません。
どの器も、座りがよくカタカタすることはありません。
一見おおらかなのですが、実は緻密なのです。
一度見たら忘れられないのはそういうところから来るのかもしれません。


実は最初は、人間国宝・島岡達三さんのお弟子さんだったそう。最初は陶芸家を志していたのですね。
そのせいか、松﨑さんの作品は他の作家さんと比べるとフォルムが立体的です。

こちら↑の黒漆丸鉢は、内側に銀が塗ってあります。最初はピカピカの銀色でしたが、1年くらいすると、銀が焼けてきてなんともいえない色がついてきます。この丸鉢はちょうど1年たったもの。銀が変色してなんともいえないいい色

そしてこの丸鉢、実は建水にもなるんです

中の花入れを外すとこんな感じ↓
まさに建水ですよね~。

松﨑さんの漆器は日本の漆を使っているので、それ相応のお値段がします。
松﨑さんはおっしゃいます。
「私の漆は丈夫です。だからどんどん使ってください。しまってないで毎日使ってください。油を使ったお料理をのせてもOK!中性洗剤で柔らかいスポンジで洗えば大丈夫。使えば使うほど、いい色になってくる。でも木だからいつか壊れる。壊れたら持ってきてください。修理したらずっと使える。」
たしかに、お茶碗が欠けた時にする金継ぎも、金と漆を使ってするものだから、木の掛けやヒビなどは何事も無かったかのように直せるのもうなずける。

こちらは、朱漆四方皿。お茶事のときは八寸としても使えます。
机や畳に置いても取り上げ易いように、側面が指の形に窪んでいる。こういう所が緻密なのです。
実はシバーシブルで、裏も使えます。
1品で3倍楽しめます

松﨑さんは、私のような素人にもいろんなことを教えてくださり、気さくに話してくださいました。
作品がおおらかなのは、ご本人がおおらかだからなのですね。
茶道は、流派にこだわらず、ご自分のお茶をなさっているそうです。
松﨑さんのお道具を使ったお茶会は、来る人をおおらかに温かく包んでくれる気がします。
明日、お正月にしか使わなかった 松﨑さんのお皿を納戸から出して、毎日使ってみよう。
私の心もおおらかになれる気がします。
そして、欠けたら修理に出そう。
そのお皿とともに素敵に年を重ねていけたらな、と思います

