僕が15歳の時、見知った街を飛び出していったあの感覚。心地よかった環境(群れ)から抜け出る。それは今思えば、若さの特権であり僕だけの特権だった気がする。
本書のテーマは移動。移動は目的地の設定された移動と、とにかく今いる場所から抜け出る移動がある。
「歌うクジラ」の中のアキラは、どこか無機質でクールで何を考えているのか分からないキャラクターだ。このキャラクターは、今多くのメディアで語られている若者のイメージではないだろうか。
アキラと出会う人々には、徹底的な嫌悪感を出しながらも共通しているものを求めている者同士による、一定期間の新密さがあり、それは短時間に濃縮している。
移動するために生きているのではなく、移動そのものが生きることなのだという強引なメッセージには、出会いによって齎される智識の充実や、サバイブするためのスキルと情報の獲得という快楽的な描写も含まれている。
村上龍の本を読んだ後にいつも、僕はこのままが間違いなく幸福だと絶対に思えなくなる。
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