トランジットを未来予想のために使用することは広く行われています。皆さんもそうであろうと思います。

 

石川源晃先生は「トランジットは人生のタイミングを計る上で最も大切な役割がある」「世の多くの人にとってはトランジットによる人生の選択が占星学を使用する上で重要なものになる」」(演習73P)と記しています。

 

一方、私は先日の代々木レッスンで「トランジットは信頼できるものとはいえない」ということを事例を挙げて説明しました。そして、数度の広いオーブや、ディレクション(進行)した感受点に対するトランジットを見ることなどは邪道であるとお話ししました。

 

多くの方は「トランジットが当たっていた!」という経験をお持ちであろうと思います。しかし私たちは次のことを忘れてはいけないのです。

 

トランジットが当たっていたと思われる経験以上に、当たっていないことの方が圧倒的に多い、という事実を。私たちは当たっていたと思われる事例のみを記憶し、その裏にある圧倒的な外れを無意識にパスし、忘れてしまうのです。

 

トランジットの信頼性について、事例を挙げてみます。

 

故・ダイアナ妃 1961年7月1日、19時45分、52N50 000E30 ―1:00 ASC=18射手座24

 

1997年8月31日、事故死

 

当日の外惑星T(トランジット)は次の形成を見せていました。

 

① T冥王星 90 N火星(01分離16)

② T海王星 0 N土星(00分離14)

③ T天王星 0 N木星(00接近25)

 

①と②が「表示」に見えるかもしれませんね。しかし、②などは命の問題にさらされない数えきれない人々のチャートで普通に形成されるものです。この「0度」が危険であるなどとは決して言えないのです。

 

①は形成の意味自体は的中しているといえます。ただ、誤差が1度16あります。もしこの誤差を有効とすれば理論的には少なくとも「2度00まで」は許容度としなくてはならないでしょう。そうすると何が起きるか。T冥王星 90 N火星に±2度のオーブを許容すると該当期間は1994年12月~1997年10月となるのです。約3年間。これでは未来予測に使用できません。T冥王星は2度でも3年間になるのですから一部の研究者のようにTスクエアのオーブを5度も6度もとると”その期間”は10年間にも及ぶでしょう。ジョークでしょうか。もちろん、より正確に時を示す内惑星Tは微弱であり、とても死の説明には使えません。

 

P(プログレス)ではいくつかの形成があります。最も簡明な形成は、P太陽/P冥王星=P天王星(直接、00分離14)です。P太陽とP冥王星は22度差ですからこの=は事実上3星の合(コンジャンクション)です。

 

これまで占星術のプロたちの多くはハーフサムを極めてきませんでした。世は女性週刊誌の星座占い全盛時代でハーフサムという”面倒なこと”をしなくても十分「食えていた」のです。しかし、ハーフサムなくしては事象の説明が十分にできません。そこで彼らはいろいろと考え出します。その1つがトランジットのオーブを広げることでした。そのことによって「いつでも事象の説明」ができるようになりました。しかし、オーブを広げると「特に何もない時期にもたくさんのハードが作られる」ことになります。この問題に対して彼らがとった行為が沈黙です。「見ないことにした」のです。そして「当たっているように見える事例だけを集めて本にした」のです。それを見た読者は「なるほど~、当たっているじゃない!」と感じる。かくして「トランジット信奉者」が生まれます。

 

私も外惑星トランジットは見ます。しかしそれはあくまで「参考程度に見る」にすぎません。外惑星Tのハードを深刻に受け止めることもありません。それは、未来予測はプログレスが絶対と知っているからです。

 

トランジットを未来予想に使用することはあまりお勧めできません。石川先生の「最も大切な役割」という言葉は明らかに過剰表現です。今でも、トランジットを未来予測の重要なツールとして教えている教室がたくさんあります。生徒さんが気の毒です。「不確かなもの」を重要なものとして教えられているのですから。

 

占星術には信頼できない教義、過剰表現がたくさんあります。それらに引っかかると上達が遅れます。正しい視点に立つことが大切です。

 

 

「トランジット信奉」はやめましょう。