がんの問題にまでビタミンがからんでくると、メガビタミン主義者は、わが意をえたりと気をよくする。前回は、細胞の突然変異をビタミンAがもとにもどすって話がでた。
いつか、インターフェロンやキトサンはNK(ナチュラルキラー)細胞を活性化するって話があったろう。ビタミンはNK細胞にもかかわっているんだ。
このあたりのことはすこし、大ぶろしきをひろげざるをえなくなる。がまんがたいせつになったぞ。
こんどはNK細胞をふやす方法じゃなくて、こしらえる方法だ。といっても人の手でできるものじゃない。骨髄につくらせるわけなんだがね。
体ってものが、いつも合目的的に動くものだってことは、さんざん書いてきたつもりだ。NK細胞にしたって、用もないのに、やみくもにつくられるはずはないだろう。がん細胞やウイルス感染細胞があったら、それをやっつけるのが目的でつくられるにちがいあるまい。酸素のうすい高地にうつり住んだら、赤血球がふえるってことを考えたらわかるだろう。
こんなふうに、必要に応じて事がおきるのを、『フィードバック』とよぶことになっている。冷蔵庫がいいサンプルだ。温度があがれば、スイッチがちゃんとはいる。フィードバックってことばは、もともと電気工学用語なんだよ。『冷蔵庫は、フィードバックシステムによって合目的になっている』っていわれたら、ピンとくるかな。
われわれの体も、フィードバックシステムのおかげで、合目的なものになっているってことだよ。これには、ちょっと感心してみてもいいんじゃないかな。
人体がどんなからくりでフィードバックができようになっているか。この問題をといたのは、モノーとジャコブのフランスの頭脳だった。一九六一年のことだから、ふるい話じゃないんだな。
われわれの体の運営がDNAによって完全ににぎられているってことが、ふたりによって示された。
生命のナゾだと昔はよくいったもんだ。生命は物理や化学の法則をこえた、べつの法則によってうごくと考える学者が、いないではなかった。二十世紀の科学者は、そのナゾをといて、これまでの科学の法則がぴったり、あてはまることを教えてくれたってことさ。
これで、いままでの生物学はほうむられちゃった。分子生物学の誕生ってことだ。栄養学も分子生物学ぬきじゃ、学問にゃならんよ。
本原稿は、1994年11月4日に産経新聞に連載された、三石巌が書き下ろした文章です。