カスケード(段々畑)モデルなんてことばをここで初めてみた人もいるだろう。まさか前の週を読んでほしいともいえないから、そのメリットだけをここに書く。
カスケードモデルはビタミンの量がたりないとまずいことがおこることをおしえてくれる。ビタミンCの持ち場は約五十といわれるんだが、もっとおおいだろう。もしそれが百あるとしたらカスケードの段の数も百だ。ビタミンCがじゅうぶんないと、いちばん下の段までながれていかないことになるだろう。そうなれば、百段目の仕事はできっこない。いや、五十段より下はパスだ、なんてことになるかもしれない。
カスケードモデルが頭にあると、こんなことまでわかってくるんだな。
カスケードの段の順序がひとによってちがうことはもうわかったはずだ。では、その順序をきめるのはなんだ。ボクの栄養学には三本の柱があるといった。順序をきめるのは、その一本目の柱なんだ。でもその説明はしんどいからここではやめにする。もったいつけているわけじゃないがね。
カスケードモデルのメリットの第二は体質といわれるものの正体の一面があかるみにでたことだろう。カスケードの段の順序のちがいが体質のちがいとしてあらわれるってことだ。ビタミンCをたっぷりとっていたら、ボクは白内障にならずにすみ、家内はやたらにカゼをひかずにすんだんじゃないかってことだ。
そんなふうに考えてくると、ビタミンCの役割がしりたくなるのが人情だろう。まとめってやつは役にたつもんだ。
抗ストレスホルモンをつくる。カゼをふせぐ。白内障をふせぐ。がんをふせぐ。壊血症をふせぐ。頭脳をよくする。農薬や添加物などの毒をけす。妊娠をうながす。細胞に脂肪をとりこませる。血中コレステロール値をさげる。アレルギー反応をおさえる。身長をのばす(こどもの)などなど。
びっくりするほどいいことずくめだろう。とりわけ気をひくのは「がんをふせぐ」じゃないかな。ところがどっこい、ビタミンCのはたらきには「がんをつくる」もあるんだ。例のポーリング(ノーベル化学賞、平和賞受賞者=先週は編集部のミスで物理学賞となっちゃた)のおくさんは、カゼをひくと一日に四〇グラムのビタミンCをとっていた。かの女が全身のがんでなくなったのはビタミンCの発がん性による、とボクはおもっている。
ビタミンCに発がん性があるわけは?来週につづく。
本原稿は、1994年4月8日に産経新聞に連載された、三石巌が書き下ろした文章です。