「DNAとは」
生命の支配者である遺伝子が、DNA分子のなかにあることは、すでに述べたところでした。DNAが人それぞれにちがったものであり、その個体差がタンパク質に反映していることも、ご存じのとおりです。
では、DNAは、どんなもので、どんな働きをするのでしょうか。
DNA分子は、繩梯子のような形をしています。この繩梯子の各ステップは、まんなかではずれるようにできているので、チャックに似ています。チャックといえば、ふつうは布にとりつけられたものですが、布にあたる部分は、ここでは必要がありません。DNAは、はだかのチャックに似たもの、といったらよいでしょう。
はだかのチャックをねじった形が、DNA分子の形をあらわします。
チャックでは、両方からでた棒が、かぎになってひっかかっているでしょう。
そのかぎが、次つぎにはずれたとき、チャックは開きます。
チャックでは、かぎのついた棒は、どれも同じ形をしています。ところが、DNAのチャックでは、かぎのついた棒が四種あって、A、C、G、Tと名前で区別されます。そして、AはT、CはG、とつながる相手がきまっているのです。ここのところが、DNAとチャックとの大きなちがいになっっています。もし、ACGTが四つに色わけされているとしたら、DNAのチャックは、自然の色もようをかもしだすことでしょう。Aをアンバー(コハク色)、Cをチャコール(灰色)、Gをグリーン(緑)、Tをタン(茶色)としておいたえら、この四文字が色で覚えられて、便利かもしれません。
チャックというものは、きちんと閉じているのが正常の姿ですが、DNAの縄梯子も同じで、ふだんは、ステップのまんなかは、閉じています。そういう状態のDNAは、何の動きもしません。
もし私が、砂糖をなめたとします。すると、私の膵臓の細胞のなかにあるDNA分子のチャックの、ある部分が開くのです。
私たちがよく知っているチャックでは、端から端まで開くのがふつうですが、DNAのチャックは、一部しか開きません。それも、必要なときに開いて、必要がなくなればすぐに閉じてしまいます。
蔗糖が消化管にはいると、それは、ブドウ糖と果糖とに分解します。膵臓から小腸に分泌される膵液がふくむサッカラーゼという酵素の働きで、この分解がおきたのです。膵臓のDNAは、サッカラーゼをつくるために、チャックを開いたことになります。
一般に、DNAの縄梯子のステップがばらばらに開くのは、主として、酵素をつくる必要がおきたときなのです。もしこれが開かなければ、砂糖は消化吸収できないわけです。
(megv information vol.10 1983)