「分子栄養学とは」
そのことばをつくった私は、分子栄養学の意味を、栄養物質を分子レベルで考える学問としたわけではありません。そんな考えなら、昔からあったわけで、いまさら、新しいことばをつくるのは無用のわざです。
分子栄養学というからには、分子レベルの考え方がどこかにあるにちがいないと、誰しも想像されることかと思います。その分子が栄養物質側のものでないことは、もうおわかりでしょう。それは、受入側の分子だったのです。
栄養物質を受入れるのは、いうまでもなく私たちのからだ以外のものではありません。分子栄養学は、からだを分子レベルで考える栄養学のこと、と理解していただきたいと思います。
分子生物学という新しい学問が誕生したのは1958年ですが、ここまで生体のことがわかってみれば、栄養学も書き換えられるべき運命にありました。分子栄養学とは、分子生物学によって書き換えられた栄養学という意味の命名なのです。
分子生物学とは、生物を分子レベルで考える生物学にちがいありませんが、その分子の根幹におかれるのが遺伝子なのです。
私たちのからだは、遺伝子分子をかかえた分子の集合体です。栄養物質分子の受入側には、そういう特徴があるのです。
ここからすぐにわかることは、遺伝子のもつ要求にこたえることが、食品の条件だということです。分子栄養学の本領は、遺伝子をフルに活動させるのに必要な栄養物質は何と何か、めいめいにそれがどれだけいるか、の手がかりになる理論を提供するところにあるといっておきましょう。
(megv. information vol.3 1983)