「そんなにハイテクノロジーなもの持ってるなら、楓にいちいち浄化作業させなくても一気にこう・・・ブワーーっと地球を浄化できないのか?」
テツは思いもよらないものを目撃して興奮気味にリョウに訊ねた。
「無理だな」
一刀両断だ。
「なんで」
「そもそも外部の文明から地球に干渉できないんだ。進入すら難しい。楓の実体化からヒントを得て、やっと俺やチームの技術を持ち込めるようになった」
「ただし・・・」
「ただし??」
「俺以外のシンや他のチームの干渉も制限付きだ。蛇族に気づかれないように幾重にもダミーを仕掛けてごまかしながらなんだ。気づかれたら此処にいる皆アウトだ」
「アウト・・・」
「そうだ。今頃言って申し訳ないが危険が伴っている。手伝ってくれと俺は言ったが命の危険があるならやめたいと言うならそれでもいい」
リョウは一旦、一呼吸おいて続けた。
「勝手に巻き込んでしまったな・・・本当に申し訳ない。だが、今の俺と楓にはお前達が必要なんだ・・・」
そして・・・沈黙が続いた。
リョウはテツ達の意志を聞きたいようだ。じっと待っている。
辺りはしんと静まり返り、楓の寝息が聞こえてくる。
「美由紀は・・・巻き込みたくない」
テツがぼそっとつぶやいた。
「俺とユウジは役に立てるかもしれないが・・・美由紀は・・・美由紀は普通の人間だ・・・それに・・・」
テツのそれに・・・という言葉にリョウが目線を上げる。
「それに、美由紀は身重だ」
その言葉に美由紀とユウジが驚く。
「なんと、このタイミングで・・・」ユウジが言う。
美由紀が「知ってたの?!」とすっとんきょうな声を出した。
不思議な感覚を持った過去の魂の片鱗を思い出すような男だ、きっと勘で新しい命が美由紀に宿っているのも感じ取っていたのだろう。
この先どんな危険が待っているかわからない。
美由紀と腹の子だけは安全に人生を全うして欲しいと願うのは父として夫としてごく普通の考えだ。
それにテツは自信が無かった。未知の脅威を前に愛する人を守りきれるかわからなかった。
「今からでも間に合うなら美由紀をメンバーから外して欲しい」
そうリョウに伝えるテツ。
「待って」美由紀が話に割って入ってきた。
「勝手に決めないで。私は確かになんの能力もないけど、何か役に立てるかもしれない。それに、私は真実が見たい。この星がいまどんな状態でどんな脅威に直面しててどんな人達が何と戦おうとしているのか・・・」
「しかしなぁ」そう言うテツを遮って美由紀はこう続けた。
「それに、皆がおいしいお茶が飲みたい時に私が居なきゃダメじゃない。この子にも真実を見せてあげたい。楓の物語を教えてあげたい。私は逃げないからね」
美由紀の意志は固いようだ。曇りのない眼でリョウを見つめている。
「うむ・・・感謝する。最大限、危険の無いように俺も気を配る。テツよ・・・それでいいか?」
テツは不服そうな表情を浮かべている。だが、言い出したら手に負えないのが美由紀なのも知っていた。
「くれぐれも無理をしてくれるなよ」そう言いながら美由紀を見つめるテツ。
その目の奥には愛おしさと困惑と不安と決意が入り混じっていた。
「わかった」笑顔で答える美由紀だった。
「それ、私も感じてたよ。おめでたいよね♪」聞きなれない声がする。
皆ハッとし一斉に楓を見る。
起きた。楓が起きた。
辺りがパッと一瞬で明るくなったように感じた。
皆それぞれに「おぉー起きたか!」や「まったく、寝坊もいいとこだ寝過ぎだぞ」や「やった!楓ちゃんが目覚めったっス!!」、「おはよー楓ちゃん気分はどう?」
同時に声を上げて楓を囲む。
「はぁ・・・寝てたのにすごく疲れたよ・・・おはよう」よっこらせと楓は上半身を起こす、まいったまいったと小言を言いながら辺りを見まわし、そして皆の顔を見た。
「リョウ、先導ありがとう。心強かったよ・・・やっと自分に戻ったって感じがする」
力強い眼光と不思議なオーラをまとい自信に満ちた雰囲気を発している。
短い時間の中で長い長い魂の記憶を取り戻した楓はもう、以前の楓ではなかった。
「それはよかったな。やっとだ。これからだぞ楓」
リョウはそう言うとニヤリと笑った。
「うん」楓も笑顔を浮かべた。
美由紀は「お茶!淹れてくるね!」とまた台所へ走っていく。
ユウジは心配し過ぎて禿げそうだったと言って「確かに500円玉位の禿があるな・・・」とテツにからかわれ「うそ!まじっスか!!」と慌てている。
「楓、あらかた話はリョウから聞いてる。俺達も惜しみなく力を貸すぞ。役に立つかわからんがな」フフッと鼻で笑うテツに
「ありがとう。本当にありがとう。お世話になります」と微笑む楓だった。
楓が目覚めた事によって一帯の土地が癒され喜びの声を上げているかのような清々しさが感じ取れる。
土地の精霊たちが楓の覚醒を祝福しているかのようにも思えた。