韓流時代小説 月下に花はひらく~俺は、お前にとって何なんだ?単なる都合の良い同居人か? | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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☆☆連載☆☆韓流時代小説   ユン家の娘~月下に花はひらく 

第4話

 18歳という若さの一人娘を失った貴族の老婦人が哀しみゆえに狂気に囚われ、香花は災難に巻き込まれる!

☆これまでのお話☆

香花(ヒャンファ)は14歳。
早くに母を失い、下級官吏だったた優しい父と二人暮らしであったが、その父も病気で失った。

かつては名門として栄えたキム家であったが、今は没落の一途を辿るどろこか、香花に婿が見つからなければ、断絶になってしまう。
香花は没落した実家を建て直すため、高官の屋敷に奉公に出ることになった。 上流貴族の子どもの家庭教師として住み込みで働くことになったのだ。

だが、やがて、その屋敷の主人に惹かれ、恋に落ちる。。。
しかし、相手は愛妻を失い、いまだに忘れられず、二人も子どものいる男であった。
やがて、その男が怖ろしい国を揺るがす陰謀に荷担していることを知る香花。 それでもなお男を信じようとする彼女の前に、光王(カンワン)と名乗る美貌の義賊が現れる―。

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 香花は、光王のそのような過去を人づて―或いは本人から聞いて知っている。両想いだと判ったのも、いつものごとく大喧嘩した挙げ句、光王が町の妓房へ出かけて朝帰りしたのがきっかけだった。その時、光王は妓房にあがったものの、妓生を抱いてはおらず、そのまま帰ってきただけだった。
 が、香花は女の匂いを身体中に纏いつかせて朝帰りした光王の行動を誤解してしまった。
―惚れた女がすぐ側にいるのに、どうして、別の女を抱かなきゃならないんだ?
 彼は香花に、はっきりとそう言った。 
その〝惚れた女〟というのが、香花だったのだ。
 互いに慕い合っていると判ったものの、香花は今一つ、光王の真意が読めない。光王は相変わらず香花を妹のように扱うし、そんな光王に対して香花もまた一歩踏み出せないでいる。
 二人の関係は表面上は以前と何ら変わらず、相変わらず兄妹のように軽口をたたき合い、時には痴話喧嘩をする気の置けない間柄だ。
 香花にしてみれば、光王は一日中、町に出ていて留守にしているわけだし、その間、彼がどこで何をして誰と拘わっているのかまでは判らない。だから、時々、不安になるのだ。
 自分のような、さして綺麗でもなく色香もないただの子どもを光王のような大人の男が本気で愛しているのだろうか、と。
「何だ、お前。妬いてるのか?」
 光王が面白そうに言う。どこなく嬉しげに見えるのは、気のせいだろうか。
「誰が妬いてるですって? 失礼ね。相変わらず、光王の自惚れは治っていないようだわ」
 香花が軽く睨むと、光王が笑いを含んだ声音になった。
「へえ、この間、俺が町の妓房に行った夜、浮気したって腹立てたり、泣いたりしたのは誰ですかってえんだ」
「光王っ」
 香花は真っ赤になった。
「光王が別に他の女のひとと何をしても、私には関係ないでしょ。浮気っていうのは、つまり、その夫婦とか恋人とか―特定の決まった人がいるのに、誰か別の人と―」
 思わず口ごもる香花に、光王がずいと身を乗り出してきた。
「幾ら俺に学がないからって、浮気の講釈までしてくれなくても良い。香花、俺はお前の何だ?」
「え、ええっ?」
 自分でもみっともないと思いつつ、思わず声が裏返ってしまう。
「俺はお前の一体、何なんだ?」
 光王の綺麗すぎる顔が間近に迫り、香花は逃げ腰になる。
「都合の良い同居人か、それとも、相も変わらず喧嘩友達の延長のようなお兄ちゃんか?」
 香花は我知らず両眼をギュッと瞑った。
「別に私は、そんな意味で言ったんじゃ―」
「俺はお前を生涯でただ一人の女だと思ってるのに、肝心のお前は俺がどこで何をしようと平気だと?」
 光王の声だけでなく、息遣いが耳朶をくすぐる。そっと眼を開くと、いつしか香花の身体は光王の逞しい両腕の中に閉じ込められていた。
「香花、応えろ。俺はお前の何だ?」
 香花は震えながら、光王を見上げた。
 光王の切れ長の双眸が滴るような色香を含んでいる。誘惑するような蠱惑的なまなざしでありながら、同時に冷え冷えとした光を放つその瞳が今はただ怖ろしい。こんな光王は嫌だ。いつもの冗談ばかり言う光王の方が良い。
「あ、私―」
 光王のことは好きだ、大好きだ。でも、こんな風に迫ってこられても、香花はどうふるまえば良いのか判らない。
 小刻みに身を震わせる香花を見、光王が深い息を吐き出した。
「全く、いつまで経っても、ねんねだな。お前は」
 光王は苦笑めいた笑いを浮かべ、香花から手を放した。
「そんなに怯えた眼で見られたら、こっちもやってられねえよ。まるでいたいけな少女に無理強いしている助平なおじさんの心境になるだろ」
 どこまでが冗談で、どこまでが本音なのか判らないのは、いつものことだ。
 自分を拘束していた光王の腕という甘い檻から漸く解放され、ホッとしていたのも束の間。
「香花、眼を閉じろ」
 突然命じられ、香花はピクリと身を縮める。
「何をするの?」
「良いから、眼を閉じるんだ」
 強い口調で言われ、香花は仕方なく眼を閉じた。痛いほどの静寂があり、香花はきつく眼を瞑る。
 やがて、香花の額に温かなものがほんの一瞬、触れた。それは、蝶の羽根がかすめるような軽い口づけだった。
 次いで大きな手のひらがくしゃくしゃと香花の髪を撫で回す。
「―騒馬」
 〝騒馬〟というのは、光王が香花に親しみを込めて付けた呼び名だ。もっとも、香花自身は、あまり歓迎できない愛称である。
「もう、光王ったら、また、その名前で呼ぶのね。私があれほど呼ばないでって―」
 言いかけた香花の身体がふわりと抱き寄せられた。
「か、光王?」
 痛いほどの力を込めて抱きしめられる。
「香花、俺は心配だ。お前がいつかふっと俺の側からいなくなってしまうような気がしてならないんだ」
 光王の顎が香花の艶やかな黒髪に当たる。
「そんなことあるわけないでしょ、光王。私はずっと、光王の側にいるわ」
「そうか、本当にずっと俺と一緒にいると今、ここで誓えるか?」
 いつも自信過剰なほどの男にしては、珍しく気弱な発言である。香花は訝しく思いながらも、両手を伸ばし自分も光王の逞しい身体を抱きしめた。小柄な香花では、どうしても光王を見上げる形になってしまうが、爪先立って光王の端整な面を見つめる。
「だって、私は光王を大好きだもの。私のいる場所は光王の側にしかないんだもの。だから、光王も私を好きでいてくれると知った時、私はずっとあなたの側にいると決めたの」