韓流時代小説 月下に花は開く~花は涙するー誘拐された美少年が。事態は最悪の悲劇にー許せない | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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Every day is  a new day.
一瞬一瞬、1日1日を大切に精一杯生きることを心がけています。
小説がメイン(のつもり)ですが、そのほかにもお好みの記事があれば嬉しいです。どうぞごゆっくりご覧下さいませ。

 

 香花は断じると、景福に声をかける。
「さ、こんな判らず屋なんて相手にしないで、さっさと昌福を見つけに行きましょう」
「なっ、誰が判らず屋だと?」
 光王の美しい顔が引きつる。
 景福が傍らで急に始まった二人の喧嘩を愕いたように眺めていた。
「判らず屋を判らず屋と呼んで、何がおかしいのよ」
 香花がプイとそっぽを向くと、光王がわざとらしい溜息を吐いた。
「全く、話にならないな。どうせ言い聞かせたって聞きっこないからな、うちの騒馬は」
 光王は仏頂面で呟き、頷いた。
「良いよ、どうせなら、俺も手伝ってやる。お前一人で行かせるよりは一緒にいた方がまだ安心できるからな」
「ありがとう、光王!」
 花がほころぶような笑顔を見せ、香花が光王に飛びつく。途端に、光王の整った面輪が柄にもなく紅くなった。
「ったく、現金な奴だぜ。いつもなら騒馬って呼べば、カンカンになって怒るくせに」
 光王は一人でぶつくさと呟いた。
「ま、けど、怒った顔も可愛いが、香花は笑顔がいちばんだな」
 そういう光王の表情はどこまでも嬉しげで―早くも女房に鼻の下を伸ばしている亭主そのものの顔である。
 喧嘩したり、仲直りしたりと忙しい二人を、景福は奇妙なものでも見るような眼で唖然と見つめていた。

 十六夜の悲劇

 とりあえず三人は町に向かった。景福は一旦、一座に戻った。もしや昌福が戻っているのでは―と儚い期待を抱いていた香花は、いたく落胆することになる。気を取り直して座員と手分けして再度昌福を探すことにし、香花と光王は二人で独自に捜索を始めた。
 既に陽はすっかり落ち、群青色の空に十六夜の月が浮かんでいた。月が燃えるように紅い。美しいといえばいえる眺めだが、紅く染まって煌々と地上を照らす月は、どこか禍々しさを秘めているような気がしてならなかった。
 あまりに美しすぎるものには魔が潜んでいる―と、まだ幼かった香花に真顔で話してくれたのは叔母香丹であったかもしれない。極めて現実的に見える叔母は、あれでなかなか迷信深い一面を持っているのである。
 香花は胸騒ぎを憶え、傍らの光王に話しかける。
「光王、昌福は、どうしちゃったのかしら」
 何か話していないと、不安に押し潰されそうになってしまう。
 景福と共に一座のいる町中まで行った二人は、いつしか町の外れまで戻ってきていた。
 と、光王の歩みが止まった。
「待て」
 光王が手でゆく手を制する。香花は眼を瞠り、光王を見た。
 光王が片手を上げたまま、顎をしゃくった。
 その瞳がわずかに眇められている。獲物を見つけた猛禽のような鋭い双眸が油断なく光っていた。
 光王は数歩進んだところで、しゃがみ込んだ。そこは道端で、例のピンク色の小花が群れ咲いている場所である。野原とまではいえないが、子どもたちが昼間、鬼ごっこをして遊ぶ程度の広さには十分だ。花の他にも雑草が丈高く生い茂っていて、明るい月の下でも草むらの中までは見通せない。


「―酷いことをしやがる」
 光王は生い茂った草をかき分けている。
 その手許を覗き込んだ香花は悲鳴を上げた。
「光王、昌福が、昌福が!」
 可憐な薄紅色の小花に囲まれるように、昌福の小さな身体が横たわっている。丁度、草に隠れて人眼にはつかない場所だ。しかも、こんな町外れの昼間でも殆ど人通りがない場所である。夜ならば、尚更、犬の子一匹さえ辺りには見当たらなかった。
 これでは、幾ら探し回っても、昌福が見つかるはずがない。
 香花は震える手で昌福の身体に触れた。
 昌福は―何も身につけてはいなかった。思わず眼を背けた香花をちらりと見、光王は昌福の身体をあちこち引っ繰り返して検分している。
「光王、こんなことをしてる場合じゃないわ。早くお医者さまに見せないと」
 漸く衝撃から立ち直った香花が叫ぶと、光王は沈痛な面持ちで首を振った。
「もう遅い。ここを見ろ」
 言われたままに光王が差し示す場所―昌福の首を見ると、何とも惨たらしく紐の跡が残っている。誰かに強く首を絞められたのだ。
「お前には酷な話かもしれないから、心して聞け。昌福は何者かに陵辱されている。しかも一度ならず、何度も犯された痕跡が身体に残っているようだ」
「誰が―誰が、こんな酷いことを」
 香花は涙が止まらなかった。
 まだ八歳の少年を無情にも欲しいままに犯し、挙げ句に殺す。そんな酷いことをする鬼畜のような輩がこの世にはいるのだ。人ひとりを殺して、平気な顔でのうのうと生きている。
 香花にはその犯人が誰であるか、おおよその見当はついている。
「鬼ね、まるで人の面を被った鬼の仕業だとしか思えない」
 香花が呟くと、光王が頷いた。
「―そういえば、あの両班宋与徹とかいったか。あやつの従者が綺麗な旅芸人の子どもにを連れていたのを見たと町中で話している者がいた。おかしいとは思ったが、まさか、ここまでやるとは流石に俺も思わなかった」
 光王の沈んだ口調には深い自戒の念がこもっていた。話を聞いたのは、光王がまだ小間物を売り歩いている昼下がりのことだった。あの時、すぐに何かを感じて手を打てば、昌福の生命が失われることはなかった―と自分を責めているのだ。
「しばらく昌福の傍についていてやれるか?」
 問いかけられ、香花は涙ながらに頷いた。
「俺は引き返して、景福や恵京を連れてくる」
 〝本当に一人で大丈夫か?〟と眼で訊ねられ、香花は無理に笑顔を作った。
「私なら、大丈夫、早く、呼んできてあげて