韓流時代小説 月下に花はひらく~運命の再会ーレイプされそうになった香花の前に現れた美しい男とは | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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☆☆新連載☆☆韓流時代小説  月下に花はひらく

 

香花(ヒャンファ)は14歳。
早くに母を失い、下級官吏だったた優しい父と二人暮らしであったが、その父も病気で失った。

かつては名門として栄えたキム家であったが、今は没落の一途を辿るどろこか、香花に婿が見つからなければ、断絶になってしまう。
香花は没落した実家を建て直すため、高官の屋敷に奉公に出ることになった。 上流貴族の子どもの家庭教師として住み込みで働くことになったのだ。

だが、やがて、その屋敷の主人に惹かれ、恋に落ちる。。。
しかし、相手は愛妻を失い、いまだに忘れられず、二人も子どものいる男であった。
やがて、その男が怖ろしい国を揺るがす陰謀に荷担していることを知る香花。 それでもなお男を信じようとする彼女の前に、光王(カンワン)と名乗る美貌の義賊が現れる―。

 

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「先生から手を放しなさい」
「先生を苛めるな」
 桃華と林明が次々に固い石つぶてを投げつけているのだ。どうやら二人は香花が囚われている間、石を集めたらしい。それも大きな石ばかりで、それを間断なく力一杯投げつけてこられるのだから、たまらない。
「ウヘッ、止めろ」
「ガキのくせに、生意気しやがる」
 やがて、三人の男は石攻撃にたまりかね、悪態をつきながら香花から手を放した。
 ほくろの男など額にまともに石が激突し、割れて血が滴っている。
「憶えてやがれよ」
 男たちはこういう場合、大抵は負け犬が残してゆく棄て科白を吐き、這々の体で逃げていった。
 桃華と林明が駆け寄ってくる。
「先生、大丈夫?」
「大丈夫、先生?」
 桃華が口に銜えさせられた布を取ってくれ、林明が背をさすってくれた。
 香花はまだ恐怖に身を震わせながら、両脚を抱えて蹲り、顔を伏せて泣いた。
「ううっ、うっ、うっ」
 涙が溢れて止まらない。
「先生、泣かないで。先生が泣くと、私たちまで哀しくなるじゃないか」
 林明が涙声で言い、桃華もとうとう泣き出した。父が罪を犯し捕らえられたと聞いてからも、一度も人前で涙を見せなかった桃華の初めての涙だった―。
「先生」
「先生」
 近寄ってきた二人の子どもたちを引き寄せ、抱きしめながら、香花はいつまでも泣いた。

 一夜明けたその朝、香花と林明、桃華の三人は町外れの酒場にいた。
 酒場といっても、飯も食べさせる食堂も兼ねている。
 金を払えば座敷にも上がれるが、大抵の客は野外に置かれた粗末な卓と椅子に陣取り、酒を呑む。どこでも見かけるようなうらぶれた場末の酒場だが、幾つかある卓は皆、殆ど客で埋まっていて、結構繁盛しているようだ。
 若い男たちに犯されそうになった香花は疲れた身体をひきずるようにして漸くここまで辿り着いたのだ。
 香花たちは片隅の一つだけ空いた卓を囲んでいた。卓の上には適当に注文した品が幾つか並んでいるが、誰一人として箸さえつけないまま、とうに冷めてしまっている。
 最早、体力も気力も限界に達していた。
 これまで香花は自分が女々しいだとか弱いだとは思ったことはない。両班家の娘にしては気丈で少々のことではへこたれないと思っていた。しかし、この有り様はどうだろう!
 屋敷を出てからまだ夜が明けただけだというのに、もう心身共に疲れ切ってしまっている。
 このまま地面に倒れて眠ってしまいたいとすら思うほど疲弊していた。
 自分では一人で生きてゆくだけの力も甲斐性もあると思っていたのに、やはり、それは自惚れというものだったのだろう。香花もまた両班という身分に守られ、ぬるま湯に浸かって育った甘っちょろい人間にすぎなかったのだ。
 そう思うと、余計に落ち込む。
 ゆく当てもない、頼る人もいない。これから先は、本当に自分だけの力で生きてゆかねばならないのだ。
 こんな弱い自分に、そんなことが果たしてできるのか。
 と、隣の小卓から賑やかな話し声が聞こえてきた。
「―人は見かけによらないもんだな」
「全くだ。崔承旨さまといえば、国王殿下も忠臣と認め、頼りにされていたっていうじゃないか。それに、人品賤しからず、両班の身分にも驕らない情け深い方だと評判だった。そんな方がよりにもよって国王殿下への謀反を企んでいたなんて、こいつは世も末だよ」
 フラリと隣に座る林明が立ち上がった。
「貴様ら、無礼だぞ!」
 それでなくとも、両班の子息の格好は目立つ。香花は今日中には町の古着屋で自分たちの衣服と古着を交換して貰うつもりでいた。絹の仕立ても良い上等な服ゆえ、庶民の服と交換して貰うのも比較的簡単だろうと踏んでいたのだ。
「な、何だ、こいつ」
 中年のどうやら三十代後半と思しき二人連れはこざっぱりした身なりではあるが、やはり庶民には違いない。
「両班の小倅か」
 じろじろと眺める無遠慮な視線に、林明はますますいきり立つ。
「林明さま、ここは我慢して下さい。今、人眼に立つのは非常にまずいです」
 傍らから香花が囁き、林明の手を強く引っ張った。
「済みません、まだ子どもなので」
 香花が微笑むと、二人の男たちは意味ありげに目配せし合い、〝い、いや〟と頬を赤らめる。また何もなかったかのように熱心に話し始めた。
「先生、あの者たちの申すことは真なのですか?」
 林明が訊ねてくるのに、香花は慌てて林明の口を手で覆った。
「坊ちゃん、静かに。ここで騒ぎを起こすのは良くありませんよ」
「先生―、父上は本当に悪者なのか? あの者たちの申すように、国王殿下への謀反を企んでいたのですか」
 林明が呟き、大粒の涙を零す。
「ここで泣いても仕方ないでしょう」
 桃華が傍でしきりに慰めていた。
 そんな林明の姿を見ていると、香花の眼にまた涙が溢れそうになってしまう。
 と、ふいに眼の前が翳った。どうやら、誰かが座ったらしい。
  香花が緩慢な動作で顔を上げる。
「まあまあ、旦那。相席になっちまって、真にあい済みませんですねぇ」
 酒場の女将の愛想の良い声が聞こえてくる。どうやら女将は新たな客を案内してきたらしい。
 香花はぼんやりと視線を動かした。
「どうした、やけに元気がないな」
 どこか懐かしい声に、香花の虚ろな瞳に光が戻った。
「―あなた」
 見憶えのある美しい男が平然と座っている。光王だった。