「いじめ」による死は朝鮮王朝時代も存在した。女装男子が美しいチマチョゴリ姿で華麗に剣を振るう!  | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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一瞬一瞬、1日1日を大切に精一杯生きることを心がけています。
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山茶花の祈り~裸足の花嫁~

著者 : 東めぐみ

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韓流時代小説「裸足の花嫁~日陰の王女は愛に惑う~」の第五弾。

女官として王宮に潜入したジアンは、無事に良人チュソンの許へ戻ることができた。
物語の舞台は再びタナン村へと戻る。
ジアンとチュソンが都漢陽に出かけている間、タナン村と隣町を含めた近隣一帯を治める県監が交替し、新任の県監が着任していた。
新しい県監は前任者と違い、まだ三十代と若いらしい。
若い県監は着任早々、年貢の比率を上げるなど、何かと強引で横暴な治世を行い、民衆からの評判は芳しくない。
ある日、ジアンは隣町で県監の行列に衝突しそうになった幼児を身を挺して庇ったことから、「女好き」だと噂の県監に眼を付けられてしまう。

だが、行列を止めたジアンを罰することもなく、県監は噂とは違い常識のある人のようだった。一見、傍若無人に見える彼が左遷され、この地方にやってきた裏には、あまりにも哀しい事情が隠されていたー。
更に、ジアンは化粧師として「あることが原因で歩けなくなってしまった」県監夫人と知り合うことになる。
やがて、県監夫妻を都で見舞った悲劇の顛末を知り、ジアンは何とか夫妻を救おうと奔走するのだがー。
********************(本文から抜粋)
こんなところで卑劣な者どもに殺されるのは、あまりにも無念だ。ジアンの眼に熱い雫が滲む。両手は後ろから県監にしっかりと押さえ込まれているため、抵抗さえできない。
 ソンがチョゴリの前紐を解き、上衣が脱がされた。無情にも、胸に布を幾重にも巻いただけのあられもない姿だ。
 ソンの鼻息が眼に見えて荒くなった。
「可愛いのぅ。怖がる事はないぞ。優しく可愛がってやるからな」
 ソンの手が胸に巻いた布にかかったそのときだ。
「そこまでだ。汚い手で私の妻に触るな」
 凜とした声が響いたのは、間違いなく廊下からだ。聞き慣れた頼もしい良人の声に、ジアンは涙が止まらない。
 県監が素早い動きで立ち止まった。一瞬、拘束が解かれ、ジアンは自由の身になった。床には無理矢理脱がされた上衣が散らばっている。急いで拾い、身につけた。
 県監が扉を開ける間でもなく、外側から扉が開いた。チュソンが踏み込んでくる。
 彼は腰に長剣を佩いている。良人が剣を持つのを初めて見た。
「貴様ら、許さん」
 チュソンが呟くと同時に、県監が叫んだ。
「曲者だ、出あえ、出あえ」
 鶴のひと声で、屋敷内から無数の男たちがわらわらと現れた。いでたちからして、役人ではなく私兵のようである。
 森閑とした屋敷に人の気配は感じられなかった。これだけの数の私兵が突如として湧いて出たようでさえある。
 県監が命じた。
「殺(や)れ」
 チュソンが長剣を抜く。彼はもう一方の手に抱えていたひと振りをジアンに放ってよこした。ジアン愛用の長剣だ。
 ジアンは発止と投げられた剣を受け止め、チュソンに倣い、剣の鞘を払った。
 チュソンとジアンは互いに背中合わせになり、剣を構える。
「悪い。遅くなった」
 チュソンが早口で言い、ジアンは応えた。
「危ないところでした。(中略)」
「この屋敷、まるで迷路みたいに作られている。ここまで辿り着くのに手間取った」
 元々、代々の県監の公邸として機能してきた屋敷だ。もしかしたら、わざと迷路のように複雑な作りになっているのかもしれない。有事の際、県監が隠れたり、逃げたりするために時間を稼ぎ敵に見つけにくくするためだろう。
「さあて、ひと暴れするか」
 チュソンが腕まくりをする。ジアンは吐息だけで笑った。
「あまり無益な殺生はなさらないで下さいね」
「その頼みは素直に聞けないな。私のジアンを薄汚い眼で見ただけで許しがたいのに、触れるとは断じて許せない」
 口ではそう言いながら、チュソンは刀を持ち変えた。
 私兵たちが一斉に刀を振りかざし、雄叫びを上げながら向かってくる。ジアンとチュソンは互いに背後を預けた体勢で、かかってくる敵を次から次へと斬り伏せた。
 二人ともに私兵を峰打ちにしているだけで、本当に斬ってはいない。刀身の背で打たれた私兵は、呻き声を上げ地面に倒れてゆく。二人はいつしか気絶した私兵に囲まれていた。
 情けなくも、ソンは上座で縮こまって震えている。逃げようにも腰が抜けて立てないようだ。
 既に自分たちを守る私兵は一人もいないのを見て、県監が剣を構えた。チュソンが進み出ようとする。ジアンは咄嗟に片手でやんわりとチュソンを押さえた。
「あの男は私が相手をします」
 チュソンは承服しかねるという顔だ。
「そうはゆかない」
 ジアンは小声で告げた。
「あの男は生粋の武官出身ですし、体格も良い。失礼ですが、生中では手に負えません」
 ジアンは県監に真剣を構えた。この男は峰打ちだなぞと悠長なことは言っておられない。斬るか斬られるか、どちらかが傷つき倒れるまで勝敗はつかないだろう。
「良いですか、死にたくなかったら、絶対に手を出さないで」
 呟きながらも、視線は県監から外さない。ジアンは刀を握りしめ、県監を真正面から見据えた。恐らく剣の技は互角、だが、いかにせん、相手の方が体力も腕力もあるのは確かだ。持久戦に持ち込まれたら、絶対にジアンが不利になる。
 かといって、無闇に動けば、隙の甘さが生まれ、待っていたとばかりにそこを突かれる。
 静かなにらみ合いは、かなりの時間続いた。互いに剣を構えたまま、じりじりと動かない。県監もジアンと同じことを考えているのは明白だ。
 ゆうに四半刻はにらみ合いが続いた。両者ともに剣を微塵も動かしてはいないにも拘わらず、二人が対峙する周囲だけに蒼白い火花が散っているようだ。
 息をするのもはばかられるような静寂、どちらかが少し動いただけで、ピシリとひび割れそうな玻璃細工のような空間が取り巻いていた。
 流石に、これ以上は無理だとジアンは判断した。持久力というのは、何も体力だけにあらず、精神力もまたしかり。緊張の持続可能な時間は限られている。精神力の限界を超えれば、犯すはずもないはずのミスを犯すこともあるのだ。
ー今だ!
 ジアンは気合いを入れ、大きく跳躍した。軽やかに飛んだジアンを、県監が驚愕の表情で見ている。相手も慌てて剣を構えたが、時は既に遅く、ジアンに利があるのは明らかであった。次の瞬間、ジアンは剣を振りかぶった。
 一瞬の出来事にすぎなかった。トンと軽やかに着地した時、県監は左肩から上腕部を斜めに斬られ、その場にくずおれていた。肩からは溢れるように血が流れている。
 チマチョゴリ姿で剣を振るう姿は、あたかも舞うかのごとく華麗であった。が、その実、ジアンの振るう剣は、少し剣術の心得がある者なら、凄烈ともいえる太刀筋であるのは一目瞭然だった。
 県監が愕然として呟いた。
「そなたは何者だ?」
 ジアンは愛用の剣をひと振りし納めた。県監の方を見もせずに言う。
「最早あなたに話すことは何もない」