韓流時代小説 罠wana* 王に深く愛された淑嬪ー世子の母となるも、第二子妊娠中に儚く散った寵姫 | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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連載174回 韓流時代小説 罠wana*秘された王子と麗しの姫

君に、出逢えた奇跡。俺は、この愛を貫いてみせる~ 

第二部 第二話「落下賦」 

☆私が力の限り、世子さまをお守り致します!「裸足の花嫁」シリーズ第四話・王宮編。

ー「陽宗反正」。漢陽で起きた凄惨かつ痛ましい政変で、ジアンの父王や弟である世子は廃され、暗殺されてしまう。更に、外戚として専横を極めていた羅氏はことごとく粛正され、チュソンの祖父や両親は惨殺された。
奇しくも、前王、羅氏、それぞれの血を引く最後の生き残りとなったチュソンとジアンだったが。ー

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 まだ十六歳で相応の両班家から妻を迎えたものの、結婚して一年後、流産が元で亡くなっている。その後、再婚はせず、当時はまだ健在であったやはり王族の父から勧められ、中流両班家から側室を迎えた。それが最初の側室仁嬪だ。
 しかし、どういうものか、陽宗は仁嬪を同じ屋敷には置かず、別邸に棲まわせた。自らは屋敷で一人暮らしをしていた。つまり通い婚という形ではあるが、仁嬪との間には次々と子をなし、立て続けに五人の姫が生まれた。
 仁嬪の次に側室となったのが第一王子の生母となった淑嬪だ。淑嬪は女中、しかも隷民であった。儚げな細面の美女で、陽宗に深く愛され、すぐに懐妊した。生まれたのが世子である。
 キョンシムは顔をしかめた。
「私はまだ十にもならない中にお屋敷に来たから、仁嬪さまも淑嬪さまもどんな方かはよく知っているの。殿下は早くに亡くなられた奥方さま以外の女君とは絶対に同居されない主義だけど、淑嬪さまだけは違っていたのよ」
 元々、屋敷で働いていた女中だからというのもあるかもしれないが、淑嬪に対してだけは何もかもが特別であったという。
 キョンシムが哀しげな口調で言う。
「世の中、上手くはゆかないものね。偉そうで鼻持ちならない仁嬪さまは元気過ぎるくらい元気だけど、淑嬪さまはあっさり亡くなられてしまった」
 第一王子出産の歓びも冷めやらぬ三ヶ月後、淑嬪はまたすぐに身籠もった。陽宗の寵愛がそれほど厚かったという証にもなろうが、淑嬪は蒲柳の質を地でゆくような女だった。立て続けの妊娠出産は淑嬪の寿命を明らかに縮めることになった。
 キョンシムの声が沈んだ。
「奥方さまと同じね、妊娠四ヶ月の時、流産してしまって、結局ひと月後に亡くなられたわ」
 ジアンは乏しい知識を総動員しながら言った。
「でも、仁嬪さまには男の子がいらっしゃるのよね」
 キョンシムが嫌そうに頷いた。
「どこまで悪運の強い方なのかしら。どうせ産むなら、女の子ばかり産んでいれば良いのにね。丁度、殿下が即位されるひと月ほど前かしら、漸く六人目で男の子が生まれたのよ。そりゃもう、真綿にくるんだ宝物みたいに大切に育てているわ。上の五人の女の子なんて眼にも入らないみたい」
 陽宗には他の女に産ませた第二王子がいたが、これは生まれてまもなく夭折している。従って、亡き淑嬪の忘れ形見である世子ー第一王子と仁嬪の産んだ第三王子がいるというわけだ。
 そこでジアンは今更な質問をした。
「殿下はお幾つなのかしら」
「二十八におなりだと思うけど」
 キョンシムが訳あり顔になった。
「なるほど、ジアンの腹が読めたわ」
 ジアンは眼を丸くした。
「一体、何の話?」
 キョンシムが笑った。
「あなた、殿下の側室になりたいんでしょ」
 ジアンは危うく吹き出すのを堪えた。
「まさか。何で私が」
 キョンシムの顔から笑いが消えた。
「だって、ジアンはすごく美人でしょう。今回の大々的な宮女募集でこの国の至る所から選りすぐりの美女が後宮に集められたわけよね。でも、どの娘もジアンに比べれば、月とスッポン、花と石ころくらいの違いよ? 他の子が玉の輿になりたいと言えば、鏡をよく見てから言いなさいと笑い飛ばすけど、ジアンが言えば応援するわ」
 ジアンは真顔で首を振った。自分の父親を殺した男の側室にだなぞ、たとえジアンが本物の女であったとしてもご免蒙りたい。
「私には、そんな野心は少しもないの」
「あら、そうなの。殿下のご身辺についてあれこれと訊くから、私はてっきり」
 キョンシムは明らかに拍子抜けしたようである。訝しげな様子から、これは誤解は解かないままの方が怪しまれなかったかと後悔しても遅かった。
 ジアンは半ば呆れ気味で言う。
「二十八歳で仁嬪さまとの間には六人、淑嬪さまとの間にも世子さまが生まれているのよね」
 陽宗が女色に溺れる王だとは聞いたことがないけれど、どこまで女好きなのかと勘繰りたくもなる。
 と、キョンシムの言葉は更にジアンを愕かせた。
「あら、近い中にはまた御子さまが増えて賑やかになるわよ」
 今はまだ即位したばかり、しかも順当な王位継承ではなく政変によって即位した背景もある。何かと政情も世情も不安定だ。なのに、陽宗は政権安定よりは子作りに励んでいるらしい。
 ジアンは眉をひそめた。
「そうなの?」
 キョンシムが我が事のように誇らしげに言った。
「ご即位されたのが七月でしょう、即位と同時に娶られたお妃さまが二人、同時にご懐妊されたの。お二人ともまだ妊娠初期だけど、経過は順調みたいよ。だから、仁嬪さまは気が気じゃないと思う」
 どうやら、仁嬪には個人的に恨みがあるらしいキョンシムに、ジアンは少し話を変えてみた。
「淑嬪さまは、どんな方だったの?」
「優しい方だったわよ。ご嫡男の母君になられても、私には女中時代のように気さくに優しく接して下さった。もし淑嬪さまが生きておられれば、中殿さまになられたかもしれないのに」
 奴婢出身であるのを考えれば、王妃に冊立されるのは難しいかもしれない。だが、陽宗は即位と同時に世子の母に側室では最高位の嬪の位階を追贈している。
 もしや奴婢出身の王妃が誕生した可能性も皆無ではなかった。キョンシムの言葉からも、淑嬪の人柄は王妃にふさわしい徳を備えていたようで、残念ではある。