韓流時代小説 罠wana* 妻の体を王と共有する気はないー夫の怒りの激しさに、私は戸惑うばかりで | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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連載169回 韓流時代小説 罠wana*秘された王子と麗しの姫

君に、出逢えた奇跡。俺は、この愛を貫いてみせる~ 

第二部 第二話「落下賦」 

☆私が力の限り、世子さまをお守り致します!「裸足の花嫁」シリーズ第四話・王宮編。

ー「陽宗反正」。漢陽で起きた凄惨かつ痛ましい政変で、ジアンの父王や弟である世子は廃され、暗殺されてしまう。更に、外戚として専横を極めていた羅氏はことごとく粛正され、チュソンの祖父や両親は惨殺された。
奇しくも、前王、羅氏、それぞれの血を引く最後の生き残りとなったチュソンとジアンだったが。

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 長らく領議政を頂く羅氏一族に虐げられた民は、新しい王の出現をことほぎ、陽宗は早くも〝太祖大王の再来〟と聖君扱いされている。
 その一方で、両班の一部からは自らの野心を遂げるためには流血を躊躇わない非道な王と怖れられていた。中には
ー新王が座る玉座は血にまみれている。しかも、同じ王族、血族同士、血で血を洗う凄惨な殺戮をなして得た玉座だ。
 と、陽宗の冷酷非道さに眉をひそめている者もいるという。だが、そうした一部の声が陽宗に届くことはなかった。
 後宮同様、朝廷の人事も刷新され、前王の御世に前領議政と共に政治を担った人たちはことごとく罷免、或いは流罪になったからだ。今、朝廷を席巻するのは、すべて新王寄りの者ばかりだ。中でも陽宗を取り巻くのは反正に荷担して成功に導いた者たちばかりで、彼らは羅氏一族が朝廷の要職を占めていた前王時代は概して陽の目を見なかった人たちばかりだ。
 彼らは崇陽君を旗頭として担ぎ出し、前王と前王妃、更に世子を廃した。王命の下、羅氏一族を根絶やしにし、羅氏と昵懇にしていた官僚たちですら、全員辞職、或いは閑職に追いやった。今の議政府初め、六曹の高官たちはすべて反正の首謀者ばかりである。彼らは〝一等功臣〟として、王から絶大な信頼を寄せられているーというより、陽宗は功臣には頭が上がらないとさえいわれていた。
 執事から反正の詳細を聞いてから以降、チュソンもジアンも隣町へ出たときはそれとなく情報収集を行っている。むろん、その後の朝廷の動向についてだ。
 次々と聞こえてくる漢陽の噂について、果たして、どの程度信頼性があるのかは判らない。けれども、すべての噂を総合して考えてみれば、結局、民衆が〝暗君だった前王から救ってくれた英雄〟と信じる陽宗もひと皮剥けば、前王と変わらない。
 現に、前領議政に代わり議政府の筆頭、新しい領議政に任じられたのは陽宗の母方の叔父だ。六曹にも一等功臣に混じり、ちらほら外戚が名を連ねている。
 臣下たちに推戴された王がその者たちに言いたいことも言えないーというのは実のところ、特に珍しい話ではない。
 ジアンは我知らず、唇を噛みしめていた。
「今の王も父上も私から見れば、大差はありません。町で聞く都の便りはすべて父の治世とは変わらないことばかりです。門閥政治のもたらす弊害を取り除くために決起したはずの王が何故、また前王と同じことをするのでしょう?」
 反正、聖君、太祖大王の再来、どれだけ美辞麗句で飾ろうとも、結局、同じことだ。父と今の王にどれほどの差があるのだろうか。
 チュソンが心配げに言った。
「そなた、まさか王暗殺を考えているのではなかろうな」
 その問いには、ジアンは笑った。
「まさか。その点はご心配なさらず、旦那さまと同じです。復讐など無意味です。今の王を見ていれば判るではありませんか、自らこそが正しい、理想の姿だと信じ、結局、蓋を開けてみれば自分も我慢ならないと思った前の王と変わりはしない。仮に私が王を殺したとして、その後はどうなるでしょうか? また新しい王が立ち、新たな王の外戚が朝廷を牛耳るだけです。何も変わりはしません」
 チュソンが存外に静かな声音で言った。
「それでは、今の王宮を見るためだけに都に行くと?」
 ジアンは頷いた。
「王宮の有様を見たからといって、何が変わるものではないとは承知しています。宮女募集に応じて後宮に入るとはいえ、よもや下っ端の女官が国王と間近に接する機会があるとは思えませんし」
 後宮で生まれ育ったからこそ、ジアンは後宮という閉鎖的な空間を知り尽くしている。一介の下級女官が国王の眼に止まるなど、それこそ砂漠でひと粒の色の付いた砂を見つけるほど困難なことだ。
 王妃や寵愛の厚い側室付きの女官であればまだしも、下っ端は長らく宮仕えしたとしても、一生、王の顔すら見ずに終わるのが常である。
 それでも、女官になりたいと見果てぬ夢を見て後宮に入る娘たちは後を絶たない。彼女たちの誰もが我こそはただ一人の男の眼に止まり、玉の輿に乗るのを夢見ているのだ。だが、それが文字通り夢のまた夢だと現実を知るのは、娘盛りを空しく後宮で費やした後のことだ。
 チュソンが唸った。
「ジアンは私なんかより、よほど王宮には詳しい。そなたが言うなら、恐らくは間違いがないのだろう。だがな、やはり私は気が進まぬ」
 チュソンは腕組みし、天井を睨んでいる。
 ジアンは微笑(わら)った。
「ですゆえ、私を信じて、お待ち下さいませ」
「いや」
 チュソンが腕組みを解き、ジアンを見つめた。秀麗な面に不敵な笑みが浮かんでいる。
「そなたが都に行くというなら、私も一緒だ」
 ジアンは茫然とチュソンを見つめた。
「旦那さまも都に上られるというんですか」
 チュソンはしたり顔で頷いた。
「当然だ。私はいつもそなたの隣にいなければならない。夫婦は離れてはならないのだ」
 ジアンは首を振った。
「旦那さまはタナン村のこの家でお待ちになって下さいませ。チョさんの本屋でのお仕事も軌道に乗ってきたばかりですし、今、長期の休みを取るのは、お仕事にも差し支えがあるのでは」
 願わくばチュソンが翻意してくれないものかと期待をこめて見つめる。が、チュソンはニヤリと口の端を引き上げた。
「いや、そなたが何と言おうが、私はついてゆく。もし私抜きで一人で都に上るというなら、この話はなしだ。村長には明日、私から事を分けて辞退する。ソニョンには申し訳ないが、私は妻を他の男と共有する趣味は断じてない」