韓流時代小説 罠wana*秘された王子と「女」になった彼は、清楚ながら色香漂う人妻にしか見えない | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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一瞬一瞬、1日1日を大切に精一杯生きることを心がけています。
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連載122回 韓流時代小説 罠wana*秘された王子と麗しの姫

君に、出逢えた奇跡。俺は、この愛を貫いてみせる~ 

第二部 第一話「十月桜」 

~十月桜が咲く頃、笑顔で家を出ていった夫は二度と妻の許へ戻ってこなかった~
韓流時代小説「裸足の花嫁」第三弾!!

 

今夜も咲き誇る夜桜が漆黒の夜空に浮かび上がる。
桜の背後にひろがる夜のように、一人の男の心に潜む深い闇。果たして、消えた男に何が起こったのか?
「化粧師パク・ジアン」が事件の真相に迫る!
****王妃の放った刺客から妻を守るため、チュソンは央明翁主を連れ、ひそかに都を逃れた。追っ手に負われる苦難の旅を続け、二人が辿り着いたのは別名「藤花村」と呼ばれる南方の鄙びた村であった。
そこで二人はチョ・チュソン、パク・ジアンと名前を変えて新たな日々を営み始めるがー。
 

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パク・ジアン(央明翁主)美少年バージョン

  ジアンが男性に戻ったときのイメージ画像です。

 チュソンが心配そうに言った。
「あまり思い悩むな。酷なようだが、そなたには、どうしてやりようもない話だ」
 ジアンは頷いたものの、それではカナムがあまりに憐れだと思った。今も彼女は愛する良人の帰りを一人で待ち続けているに違いないのだ。
 チュソンが立ち上がった。
「さてと、私はこれからひと仕事するよ」
 ジアンが眼を瞠った。
「お仕事、ですか?」
 今はもう夜だ、私塾は昼間だけだから、子どもたちが来るとは思えないが。疑問をこめて見つめると、チュソンが笑った。
「代書の仕事を見つけてきた」
 どうやら、チュソンは本屋の曹さんに自分たちの暮らしぶりまで話したらしい。もちろん、氏素性までを話すはずもないが、都から来た元両班くらいは話したのではないか。
「妻ひとりに苦労を背負わせているようで、男として情けないとつい愚痴をこぼしてしまってな。ならばと曹さんが代書の仕事をくれた」
 代書とは、いわゆる代筆屋だ。字の読めない書けない人に代わって手紙や重要書類を書いたり、または筆耕ー書籍の写本などをやって儲ける。
「私としても丁度良かった。幾ら無償で貸してくれるといっても、親切に甘えてばかりでは私の気が済まない。曹さんは本屋と代書屋を兼業しているから、私が手伝って得た報酬から幾ばくでも本の借り賃を差し引いて欲しいと頼んだ」
 いかにも律儀なチュソンらしい考えだ。でも、ジアンはチュソンのこういう真面目で義理堅いところも好きなのだ。受けた恩はきちんと返すという彼の考え方には共感できる。
 チュソンがにんまりと笑った。
「この仕事なれば、そなたも文句はないだろう?」
 チュソンが慣れない野良仕事で早々に手を荒らした時、ジアンは言った。
ーいつか旦那さまは私に仰せでしたよね。私には私らしくいて欲しいと。今、私もあのときと同じ言葉を旦那さまにも申し上げます。私は旦那さまには、いつまでも旦那さまらしくいて欲しいのです。私のために無理をなさってはいけません。
 ジアンはチュソンの手を押し頂き、鍬を振るい続けてマメのできた両手にそっと唇を寄せた。
ー旦那さまの手は鍬を持つためではなく、筆を握るためにあるのですから。
 チュソンはジアンを守るために、将来どころか両親さえ捨てた。けれど、ジアンはもうこれ以上、自分のために彼には何も諦めて欲しくない。
 たとえ官吏にはならずとも、都でなくとも、チュソンの類い希な才を活かす生き方はあるはずだ。そして、ジアンは愛する男にはその道をまっとうして欲しいと願っていた。
 ゆえに、百姓仕事は止めて村の子どもたちに教えるように勧めた。たとえ無報酬だとしても、愛する男にはその生き方が似合っていると思ったからだ。
 現に、子どもたちに指南するときの彼は生き生きと輝いていた。まるで水を得た魚だ。
 その姿を見て、やはり百姓仕事を止めさせて良かったのだとつくづく感じた。チュソンは本来、彼が生きるはずだった学問の世界で生きるべき人だ。
 幸いにも、ジアンの稼ぎだけで夫婦二人の慎ましい暮らしは何とか成り立ってゆく見込みは立った。
 けれど、チュソンが生きる場所をみい出して良かったと思う反面、自分はとんでない思い違いをしていたことも知った。
 ジアン一人の稼ぎに頼ることは、チュソンの男としての誇りを傷つけていた。たとえジアンが納得していても、チュソンは忸怩たるものを抱えていたのだ。
 責任感の強い彼だからこそ、余計に妻の背に背負われているようで、やるせなかったのだろう。
 今日のチュソンの何げない言葉には、これまでの彼なりの葛藤が滲み出ていた。
 今ここで、それを指摘すれば、尚更チュソンに恥をかかせる羽目になる。だから、ジアンはもう何も言わず微笑んだ。
「また新しいお仕事が見つかって、良かったです。ですが、くれぐれも根を詰めすぎてお身体を壊さないように気をつけて下さいね?」
 チュソンがジアンの身体を引き寄せる。大きな手のひらがそっと愛しむように頭を撫でた。ジアンはこうやって良人に髪を撫でられるのが好きだ。そう言うと、チュソンは
ーまるで子どもだな。
 と、ジアンをからかうのだけれど。
 ジアンを腕に閉じ込めたまま、チュソンが言った。
「私の綺麗な奥さんを置いては、心配でおちおち死ねやしない。邪魔な私がいなくなれば、村の男どもが我先にとそなたを奪いに夜這いにやってくるだろう」
 ジアンがクスリと笑った。
「まさか」
 だが、村の若い男がジアンに向ける好奇の眼差しの中には、獣めいた欲が混じっている。チュソンはそのことをよく心得ていた。若者だけではない、良い年をした男たちの中にも、チュソンが隙を見せれば牙を剥いてジアンに襲いかかりそうな不心得な輩はいる。
 ジアンは年の割に初(うぶ)で奥手だから、自分が男たちにどんな眼で見られているか気づいていないのだ。
 女姿のジアンは清楚ながら、そこはかとなき色香が漂う若妻にしか見えない。しかも、生まれ育ちの高貴さは幾ら木綿の粗末なチマチョゴリでも隠せない。鄙びた農村には不似合いな典雅な美貌は、村の男たちの眼を否応なく惹く。