韓流時代小説 罠wana*秘された王子と麗しの姫 央明翁主は女の子で、王位継承には関係ないはずだ | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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 連載第30回 君に、出逢えた奇跡。俺は、この愛を貫いてみせる~

流時代小説 罠wana*魅入られて~日陰の王女は愛に惑う

(原題「化粧師パク・ジアン~裸足の花嫁~」)

ーその美しき微笑は甘美な罠か?

どこから見ても美少女のジアンには、秘密があったー。
「すべてのものから、僕が貴女を守る」
「あなたと出会わなければ良かった。あなたを傷つけたくないから、身を引こうとしたのに」

 

附馬とは国王の娘を妻に迎えた男性を指す。

いわゆる王の娘婿である。難関とされる科挙に

最年少で首席合格を果たしたナ・チュソン。

将来を期待されながらも、ひとめ惚れした美しき王女の降嫁をひたすら希う。

約束された出世も何もかも捨てて、王の娘を妻として迎えたにも拘わらず、夫婦関係はよそよそしかった。

妻への報われぬ恋に身を灼く一人の青年の愛と苦悩を描く。ー彼女はその時、言った。
 「私と結婚したら、後悔しますよ」。果たして、その言葉の意味するところは? 官吏としての出世も何もかもをなげうって王女の降嫁を望んだ一人の青年。しかし、妻となった王女は、良人に触れられることさえ拒んだ。ー
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だから、王女を抱きしめ、日がな殿舎に閉じこもっていたというのか。
 チュソンには理解に苦しむ話だ。
「ですが、あなたは女の子でしょう。王位継承には関係ない。なのに何故、中殿さまがあなたを排除されるというのですか」
 幾ら嫉妬深い伯母でも、生後間もない赤児を手に掛けはすまい。
 王女がフと笑った。随分と儚げな笑みだ。
「ですから、あなたは王妃を理解していないと言うのです。私が一歳の誕生日を迎える前日、母は亡くなりました」
 その日、王妃から届け物があったとそうだ。小麦粉と蜂蜜を混ぜて揚げた菓子で、表面には粉雪のように砂糖をまぶしてあった。
 淑媛は歓んでそれを食べ、半刻後、お付きの女官が居室を覗いたときは既に事切れていた。
 チュソンは声を震わせた。
「中殿さまが賜った揚げ菓子に毒が入っていたのですね」
 王女が静かな眼で彼を見た。
「いいえ。王妃が下さった菓子から毒は検出されませんでした」
 たとい王妃とはいえ、自らが贈った菓子を食べた直後、側室が死んだのだ。当然ながら、義禁府が一通りは調査したはずだ。
「では、何故、淑媛さまは亡くなられたのでしょう」
 チュソンの問いに、王女はうつむいた。
「揚げ菓子には、桃が細かく刻まれて練り込まれていました」
 チュソンの中で閃くものがあった。
「お母君は桃に対して拒絶反応を示す特異体質であられた?」
 王女が薄く笑う。
「流石は天下の俊英ですのね。大抵の方は、ここまでお話ししても理解はできないと思います」
 王女はまた他人事のように平坦な口調で話し始める。
「おっしゃる通りです。母に仕えていた尚宮は、母の乳母です。その者が言うには、母は幼い頃から桃アレルギーがありました。普段は健やかそのものなのに、何故か桃を少しでも食べると身体中に発疹が出て、苦しみ始めるのです。食べるだけでなく、桃の樹に近づいても食べるほどではなくても、身体がかゆくなったりするので、母の両親はかなり気を遣っていたとか」
 チュソンは唸った。
「中殿さまは、お母上の桃アレルギーを知っていたのでしょうか」
 王女はかすかに首を振った。
「判りません。何しろ、もう十七年前の出来事です。桃アレルギーについては、あまり外聞も良いことではないと母本人も母の両親も他人に語った憶えはないと乳母は話していました。ゆえに、王妃が母の秘密をどうやって知ったのかも謎ですし」
 王妃という立場にある伯母だ、人を使えば淑媛の秘密を暴き出すことなぞ、造作もなかったろう。
 だが、チュソンは到底、自分の口から言う気にはなれない。また聡明な王女のことだから、その可能性はとうに考えたはずだ。
 チュソンは溜息交じりに言った。
「偶然にとしては、いささか出来すぎているのは確かだ」
 重度の桃アレルギーを持つ側室。その側室に王妃が桃入り菓子を下賜し、側室は亡くなった。単なる偶然で片付けるには、きな臭い話だ。
 しかし、当時、事件は大事にはならなかっただろう。たまたま贈った菓子に桃が入っていたとしても、死んだ側室が桃アレルギーであったのを知る者は身内以外にはいなかった。
 ならば、王妃が側室を殺す意図があって、桃を贈ったはずもないと結論づけられるのは当然だ。不幸な偶然、悲劇として処理されてしまった。
 王女がチュソンを見ながら言った。
「父が私に距離を置くようになったのは、そのときからです」
 淑媛が変死するまで、国王はしばしば淑媛の許に通っていたそうだ。日ごとに愛らしく育つ娘の存在にも眼を細めていた。
 しかし、淑媛の死を境に、お渡りは絶えた。王女はそこからは語らないが、チュソンにはすべて理解できた。
 国王は愛娘が淑媛の二の舞になるのを怖れたのだ。自分が王女を可愛がれば可愛がるほど、王妃は嫉妬のほむらを燃やす。次は小さな淑媛の忘れ形見までもが王妃の毒牙にかかるかもしれない。
 少なくとも、国王が娘に対して関心を失ったふりをすれば、王妃に余計な刺激を与えずには済む。だとすれば、国王は王妃が淑媛を殺害したと知っているか、そこまでゆかなくても、疑念を抱いているということになる。
「ある歳まで、身体の弱い母が私を産んだことで生命を早めたのだと信じていました。私に真実を教えてくれた尚宮も既にこの世の人ではありません」
 チュソンは言葉もなかった。王女に比べて、両親も揃い、母にはいささか過保護なほど溺愛されていた。自分は何と贅沢な環境に身を置いていたのかと恥ずかしくなる。
 王女が微笑んだ。
「吏曹正郎さまにとって、中殿さまは血の繋がった伯母君です。信じがたいどころか、気を悪くされるお話でしょう」
「いいえ」
 真顔で言ったチュソンに、王女が瞠目する。
「翁主さまがご存じかどうか。私の父と中殿さまは同母の姉弟ではありません」
 王女は首を振った。
「存じませんでした。そうなのですね」