小説 My Godness~俺の女神~彼の男友達に呼び出された私ー警察にボディガードを頼むべきだ | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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一瞬一瞬、1日1日を大切に精一杯生きることを心がけています。
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小説 My Godness~俺の女神~

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キョロキョロ下矢印下矢印下矢印下矢印

 

 ☆ 早妃(さき)にとって悠理は最後の男で、悠理にとって早妃は最高の女だった ☆

―心が、壊れてゆく。
 俺の中で、何か大切なものが音を立てて壊れてゆく。―
 
 不幸な事故がきっかけで運命に導かれるようにしてめぐり逢った男と女。
 けして心奪われてはいけない相手に惹かれた男の心のゆくえは?

 ☆ カテゴリ選択については、愛欲か純愛か迷いましたが、
  筆者としてはホスト青年の亡き妻に対する純愛を描きたかったので、
  この選択にいたしました。
  ご寛恕、ご理解いだたければ、幸いに存じます  作者より ☆

「いいえ、お気になさらないでください。ですが、何故、急に?」
 柊路はここまで来ても躊躇うことがあるのか、逡巡する様子を見せた。それから覚悟を決めたようにひと息に言う。
「最近、何か身の回りで変わったことはありませんか?」
「変わった―こと、ですか」
 やはり真っ先に浮かんだのは、昨日の出来事だ。しかし、そのことを当の悠理の親友であるこの男に打ち明けても良いものかどうか、即断はできかねた。
 実里の表情に何か感じるものがあったのだろう、柊路はわずかに身を乗り出してきた。
「心当たりがあれば、何なりと言ってください」
 それでもまだ言うだけの勇気はない。
 柊路が溜息をついた。
「あるんですね? 気になることが」
 実里は口を開きかけ、また黙り込む。
「もしかして、悩んでいるのは悠理のことですか?」
 沈黙が何よりの肯定となる場合もある。柊は、やれやれといった表情で首を振った。
「多分、そんなことになってるんじゃないかと思っていました」
 刹那、実里はバネ仕掛けの人形のように顔を上げた。
「何で判るんですか?」
 柊路が笑っている。
「まあ、あいつ―悠理とはもう長い付き合いですからね。あいつの考えてること、やりそうなことくらいは判ります」
 柊路はいきなり押し黙り、実里を見つめた。
 気まずい沈黙が漂う中、それを破ったのも柊路の方だった。
「こんな言い方は誤解させてしまうかもしれませんが、悠理は今、まともな状態ではありません。奥さんを失って、常識的な判断というものが全くできなくなってる」
「私のせいですね」
 うなだれると、柊路は力強い声で否定した。
「僕は違うと思う。悠理には僕が他人だから、そんな冷たいことを言えるのだと言われましたけどね。確かに、それもあるかもしれない。もし僕が悠理の立場だったら、今のように公平に物事を見られるかどうか? 自信はありません。ただ、今の僕は客観的に考えられる立場にあるので、言わせて貰いますが、あなたは悪くはないでしょう。それは警察の調べでも十分すぎるほど証明されたはずだ」
 柊路はそこで既に運ばれていたコーヒーに口をつけた。とっくに生温くなっているはずだが、砂糖もミルクも入れずに飲んでいる。
「だが、僕は悠理の気持ちもよく判る。あれだけ愛していた奥さんを急に―しかも、赤ん坊ごと失ったんだ。その哀しみややりきれなさを誰かにぶつけることで、自分の気持ちに折り合いをつけようとしているんです」
 柊路はまだ、ひと口ブラックを飲み、今度はカップをソーサーの上に置いた。カチリと小さな音がする。
「だけど、それはけして許される行為じゃない。先日、悠理に逢いました。勤め先もずっと休んでるし、携帯にかけても通じないしってんで、気になって様子見にいったんです。そうしたら、またこういう言い方はどうかと思いますが」
 柊路は小首を傾げ、続けた。
「まるでドラッグをやったヤツのように訳が判らなくなってるんですよ。急に凶暴になったかと思うと、次の瞬間には嘘みたいに大人しくなって、どん底まで落ち込む。要するに、浮き沈みというか感情の起伏が異常なくらい激しくなるんです」
「ドラッグ―」
 実里には、眼前の男の口から次々と飛び出す言葉が異国の別世界のもののように聞こえた。
 柊路が薄く笑む。
「あなたのような根っからのお嬢さまには縁もゆかりもない世界のことでしょうけど。俺たちがいる世界では、さほど珍しくはありませんよ」
 彼が頭をかいた。
「ああ、地が出ちまったな。済みません。あまり慣れてない言葉遣いしてたもんで。普段どおりでも良いですか?」
 実里は頷いた。
「気にしないでください」
 少し悩んだ挙げ句、思い切って訊ねてみた。
「あの、失礼かもしれませんが、何のお仕事を?」
 柊路が笑った。
「知りたいですか? あまり聞いても、良い気分にはなれませんよ。ホストですよ、俺たち」
 〝俺たち〟というのがこの男とあの悠理を指すのだとは判る。小説や映画、ドラマでは耳にしたことはあるけれど、現実に本物のホストに出逢ったことはない―それが実里の生きてきた世界の限界であった。
 実里の胸中を見透かすかのように、柊路がやや自嘲気味に笑った。
「軽蔑する?」
「いいえ!」
 即座に大声で言ってしまい、実里は慌てて口を押さえた。
「ごめんなさい。大きな声を出したりして。でも、私、そんなことで人を決めつけたりはしません。だって、どんな仕事をしていても、それがその人のすべてじゃないでしょう。大切なのは職種ではなくて、どれだけその仕事を頑張ってやっているかだと思いますから」
 柊路が眼を丸くした。
「へえ、そんな考え方をする子もいるんだ。君って珍しいね」
 実里は少しムキになり過ぎたことを後悔して、紅くなった。
 柊路はふと真顔になった。
「君みたいな良い子なら、尚更、忠告しておく必要がありそうだな。良い、今の悠理は本当の悠理じゃなくなってる。だから、気をつけて。入倉さんもさっき、悠理について何か悩んでることがあるような感じだったけど?」
 この人なら信用できる。実里は昨日の出来事を包み隠さず柊路に話した。
 話を聞いていた柊路の顔が徐々に蒼褪めていくのを、実里は不安そうに見た。
「こんな話して、気を悪くされました?」
 悠理はこの男にとっては無二の親友なのだ。もしかしたら、実里の被害妄想的な作り話だと思われたかもしれない。
 が、柊路は予想外のことを言った。
「今の彼なら、やりそうなことだ。入倉さん、しばらくは一人で行動しない方が良い。何なら、警察にでも伝えて、ボディガードして貰ったら?」