韓流時代小説 王を導く娘~運命が動き、真実が白日にさらされる瞬間がー彼と私はついに真相を突き止め | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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韓流時代小説 夜に微睡む蓮~王を導く娘~

 (第三話)

本作は、「復讐から始まる恋は哀しく」の姉妹編。
前作で淑媛ユン氏を一途に慕った幼い王子燕海君が見目麗しい美青年に成長して再登場します。
今回は、この燕海君が主人公です。

廃妃ユン氏の悲劇から14年後、新たな復讐劇の幕が上がるー。
哀しみの王宮に、再び血の嵐が吹き荒れるのか?

 

 登場人物 崔明華(恒娥)チェ・ミョンファ。またの名をハンア。町の観相師、15歳。あらゆる相談に乗る

         が恋愛相談だけは大の苦手なので、断っている。理由は、まだ自分自身が恋をしたことも

         なく、奥手だから。

 

        燕海君  21歳の国王。後宮女官たちの憧れの的だが、既に16人もの妃がいる。

        前王成祖の甥(異母妹の息子)。廃妃ユン氏(ユン・ソファ)を幼時から一途に慕い、大王大      

        妃(前作では大妃)を憎んでいる。臣下たちからは「女好きの馬鹿王」とひそかに呼ばれる。    

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☆本作には観相が登場しますが、すべてはフィクションであり、観相学とは関係のないものです。本当の観相学とはすべて無関係ですので、ご理解お願いします。

 翌日の夜になった。
 明華は女官のお仕着せ姿で、そっと室を出た。周囲の室はすべて明かりが消え、寝静まっている。それでも注意深く左右を見回して、明華は歩き出した。
 殿舎を忍び出て、庭園までの道をひた走った。
 庭園を抜ける小道をかなり歩いた頃、漸く目当ての四阿が見えてくる。ふと空を見上げると、今夜は小望月(こもちづき・十四夜)だった。ほぼ完璧に満ちた月が紫紺の空に昇っている。
 今夜の月は銀色ではなく、透き通った蒼色に見えた。蒼褪めた満月が随分と近く見える。表面に刻み込まれた複雑な文様まで克明に判るほどだ。
 よくよく見ると、ふっくらとした月は、子を宿した女に見えなくもない。月宮には美しい月の姫が住んでいるという。明華の本当の名〝恒娥(ハンア)〟は伝説の美しき月の姫から貰ったのだと、亡き母が話していた。
 月の模様が胎内に宿った赤児のようだと思ったのは、やはりキム淑儀のことが頭にあるからに相違なかった。
 明華は気持ちを引き締め、四阿に向かった。四阿には既にヨンが来ていた。いつもとは違い、柱に身を潜めるようにして対岸を見つめている。
 明華の位置からも、はるか向こう岸に小さく二つの人影が見えた。
「来たか」
 明華を認めると頷き、二人はしばし見つめ合ってから共に四阿を出た。十四夜の月のせいで、随分と明るい夜だ。
 今夜のヨンは王衣を纏っていない。夜陰に紛れ込むような紺碧のパジチョゴリだ。明華は早鐘を打つ胸を抱え、彼の後に続いた。
 四阿からぐるりと池岸を一週して、対岸までゆくのだ。対岸に向かう道々、ヨンは簡単に状況説明してくれた。
 楊内官とキム淑儀にはそれぞれ監視をつけていたが、二人が繋がる接点を見つけられずにいたのだという。
「楊内官という男は相当に用心深く周到なヤツだ。手練れの諜報部隊に所属する間諜にさえ、なかなか尻尾を掴ませなかった。明華が女官たちから聞いたのと同じで、内官たちの中でも、ろくな話を聞かなかったようだな、執念深い嫌みなヤツだと嫌う者が多いとのことだった」
 事態が急展開したのが昨日の夕刻だった。夜半、楊内官がキム淑儀の居室に侵入するのを監視が見つけた。あろうことか、楊内官は王の妃の寝所の窓から楽々出入りしていた。
 窓の外は庭とはいえ、樹木が植わっているばかりの淋しい場所だ。完全な死角だった。それを利用して、男は大胆にも国王の妃の許に夜な夜な忍び込んでいた。
「用心深い男だから、常にキム淑儀の室で逢瀬を持っていたわけではないらしい。間諜の聞き込みによれば、楊内官がほっそりとした女人と蓮池のほとりで密会していたのを何度か見た内官仲間もいるそうだ」
 相手の女人は頭からすっぽりと外套を被っていたため、顔は見られていないそうだ。もし女が国王の妃だと知ったら、目撃した者は愕きのあまり、卒倒したかもしれない。
 ヨンの話を聞きながら、流石は国王直属の諜報部だと感心してしまった。明華は幾ら女官仲間に聞き回っても、たいした情報は掴めなかったというのに。
 内官の中でも特に訓練され、選ばれた者たちで編成される諜報部隊がある。公にはされていない部署なので〝影〟と呼ばれる部隊に属する者たちは普段は表向きのちゃんとした部署で仕事をこなし、有事の際に王命を帯びて隠密裡に働く間諜である。
 内官はよく〝王の影〟と呼ばれるが、諜報部に属する間諜は〝影の影〟とも呼ばれるらしい。
 これまでの一連の流れを聞いている中に、目的の場所に近づいていた。ヨンの歩みが止まる。急に止まったため、後ろから付いてきた明華は危うく彼の背中にぶつかりそうになった。
 ヨンが背後を振り返り、左手の人差し指で前方を指している。つられるように、明華もその先を見た。
 池のほとりに二つの人影が見える。先刻、四阿からも遠景として見た人物に違いない。
 少し離れた前方からでも、男と女だと判る。女の方は頭から顔が隠れるように外套を羽織っている。間諜の報告した通りだ。やはり、他の内官が見たという楊内官と一緒にいた女性は、キム淑儀に間違いなさそうである。
 月が雲に隠れたのか、一瞬、辺りが暗くなった。そのため、女の傍らに立つ男の顔がよく判らない。
 明華は男の顔をよく見ようと、無意識に一歩踏み出しかけ、ヨンに肩を掴まれた。
ー焦りは禁物だ。
 見上げた彼の顔は語っていた。
 明華は頷き、心を落ち着かせてもう一度、岸辺の二人を注意深く見つめる。
 その瞬間、月が再び明るく周囲を照らした。今度は、はっきりと夜目がきくようになった。

「ーっ」
 明華は愕きのあまり、声を上げそうになった。慌てて両手のひらで口許を押さえる。
 あろうことか、月光にくっきりと照らし出された男の顔には見憶えがあった。実際に見たわけではない。キム淑儀を観相中に観た映像に登場した男と一致していた。
 ヨンが眼を瞠っている。
「どうした?」
 小声で囁かれ、明華もまた声を落として応えた。
「キム淑儀さまの観相を行った時、淑儀さまが別の男と一緒にいる映像を観たとお話ししたのを憶えていらっしゃいますか?」
 ヨンがすかさず頷いた。
「ああ、憶えている」
 観相中、男の顔が凶相なのを見て、明華は妙な胸騒ぎを憶えたものだ。この凶悪な相の男がもしや内官殺人事件にも関与しているのではとちらりと思ったのも確かである。
 明華は低めた声で言った。
「キム淑儀さまと一緒にいたのは、あの男でした」
「やはり、ということかー。あの男が楊内官だ」
 ヨンは呟いた。懐妊が判明したときから判り切っていたことだが、時ここに至り、キム淑儀の密通は確定したということだ。ヨンとしては複雑な心境だろう。
 女官仲間から聞いた限りでは、楊内官の評判は極めて悪かった。キム淑儀という想い人がいるから、他の女性の好意を受ける気がないにしても、断るならもう少し感じよく断っても良かったはずだ。にも拘わらず、楊内官は相手の女官に恥をかかせるような断り方をした。