韓流時代小説 復讐から始まる恋は哀しくー国王からのプロポーズ承諾。親の仇に抱かれる覚悟はあるの? | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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韓流時代小説 復讐から始まる恋は哀しく

 ~謎めいた王と憂いの妃~

 ☆ 最初から最後まで、私には復讐しかなかった。あなたに出会うまではー「廃妃ユン氏」と呼ばれた少女の生涯☆

 

ー運命に導かれるようにして出逢った二人。
二人は互いの身分を知らずに、烈しい恋に落ちる。

ソファの運命を激変させた一夜ー、そのために彼女はすべてを失った。優しい両親、可愛い弟。
その夜、国王の唯一の忠臣といわれるユン・ソユンの屋敷に義禁府の兵が押し入り、ソユンとその妻、更には使用人すべてが問答無用で誅殺された。
後にソファが知った父の罪は「大逆罪」。謀反を企んだ罪により、父は王命で生命を奪われたのだ。

そのときから、ソファの復讐が始まった。*************************************************************************

 期待に満ちた王の顔から、ソファは視線を逸らした。言えるはずがない。
 書く直前までは、本当に迷ったのだ。最初はソファも王と似た願いを書くつもりだった。
 けれど、寸でのところで、変えたのはやはり提灯売りの言葉に誘発されたように、王の話の中に〝父〟という言葉が登場したからだ。
ー復讐を無事遂げ、父母の無念を晴らせますように。
 結局、ソファが書いた願い事はそれだった。
 そのときだった。
 今まで点っていた提灯の明かりが一斉に消えた。またたきほどの後、夜空に風燈が飛ばされる。祭の一番の見物はこの風燈飛ばしだ。
 色とりどりの提灯がゆらゆらとまるで水面を漂うように、夜空を飛んでゆく。
 通りを行き交っていた人たちも皆、足を止め、しばし現実を忘れて幻想的な眺めに我を忘れている。
 群衆のあちこちで、軽いどよめきが上がっていた。
「ー綺麗」
 ソファは漆黒の闇に浮かび上がるあまたの提灯を眼で追った。風燈祭の由来は、はるか昔の国王の寵姫の出産祝いだという。直宗という王さまには女官上がりの美しい妃がいた。その妃が大妃に疎まれたせいで、王は濡れ衣を着せられた妃を廃位、追放せざるを得なかった。しかし、国王は想い人が忘れられず、都からはるばる郊外の寺まで妃に逢いに通った。
 その結果、廃妃が懐妊し、王は妃の罪一等を免じ宮殿に呼び寄せることができたのだそうだ。
 復位した妃はほどなく王の第一王子を出産。都中で王子誕生の夜、提灯行列が行われた。それが風燈祭の始まりだと伝えられていた。

 

になれます。お陰様で読者総数3,000名を突破、マイナー小説書きの私の代表作? になりました。

 

「見事なものだな」
 夜空を飛ぶたくさんの提灯は、あたかも極彩色の蝶が一斉に飛翔しているかのようでもある。王も感嘆したように空を振り仰いでいた。
「ソファ」
 王が視線を彼女に戻した。周囲に人の壁ができているため、自然に人に押される形で王とソファの身体もぴったりと密着している。
 彼がまた唇を耳許に近づけた。
「俺の妻になってくれないか」
 よもや、今夜この場でまた求婚されるとは考えてもいなかった。
「そなたさえ良ければ、近々、寝所に呼ぼうと考えている」
「ーっ」
 ソファは愕きのあまり、大きな眼で王を見上げた。
「そなたがその気になるまで待つと言いながら、随分と性急で恥ずかしいが、俺はもう待てぬ」
 吹きかけられる息は、相変わらず熱い。ソファの身体まで彼の熱が感染ったかのように火照っている。
 まるで我がものではないような声が虚ろに響く。気がつけば、ソファは頷いていた。
「判りました」
ーコノオトコハ、ニクイカタキナノニ、オマエハ、オヤヲコロシタカタキニ、ダカレルトイウノカ?
 別の声がソファの中でしきりに囁く。
 ソファはもう一人の自分に向かって応えた。
ー王が気を許しただけ、殺りやすくなるわ。
 そうなれば、思う壺ではないか。王に隙が生まれれば、父母の敵を討つことも可能になる。
 〝王命〟を下したのは、そも誰なのか? かすみ草の野原で王の出生の秘密を知った後、ソファはひそかに先輩のムスリに接近し、王の生まれた当時について聞いて回っている。
 だが、何しろ二十七年前のことで、そんなにも昔からムスリとして仕えている者は少なく、いても数人ほどだ。上級女官と異なり、雑用係のムスリは採用試験もあるかないかの簡単なものである。その代わり、出入りも烈しいのだ。
 勤めても嫁入りなどで辞めてゆく者が多いのが実情である。当時のことを知るとすれば、後宮の生き字引だと噂される後宮女官長くらいのものだというが、最下級のムスリは、後宮の最高責任者たる提調尚宮(チェジヨサングン)の顔を見る機会さえなかった。
 また、ムスリの先輩たちに事情を訊くにしても、あまりあからさまにやると人目に立つ。そのため、余計に捜査は遅々として進まない。
 つまりは、依然として、敵討ちも王の秘密を探るのも、思うような成果はないということだ。
 後宮に侵入してひと月、そろそろソファの中でも焦りが極限に高まっていた。
 いっそのこと王の妃になってしまえば、王に最も近い場所にいることになり、何か極秘捜査にも進展があるのではないか、などと自分に都合の良い展開を期待してしまう。
 想いに沈むソファとは裏腹に、王は歓びを隠そうともしなかった。
「本当に良いのか?」
 その愕きぶりからは、たいして期待せずに求婚したのが予想外に承諾を得られたといった感じである。
「ーはい」
 ソファが慎ましく面を伏せたのも、王には恥じらいとしか映らないだろう。
ー本当に親の仇に抱かれる覚悟はあるの?
 問いかけても、別の自分はもう応えなかった。
 大丈夫、側室になったとしても、自分は心までこの男に明け渡すわけではないのだ。たとえどれだけ王が優しい思慮に富んだ男であったとしても、それだけで親の仇ではないという理由にはならない。
 ならば体当たりで探すしかない、それは王の懐に飛び込んで、もっと彼という人間を知るということだ。側室になるのも敵討ちのためであって、けしてこの男への情にほだされたわけではない。
 けれど、ソファは知っている。こうして物言わぬ、もう一人の自分に言い訳ばかりすることがはや本心をごまかすためにすぎない。ソファの心の奥底には、相反する二つの感情が流れている。それは、両親を殺した〝王〟への恨みと同時に彼女のよく知るイ・ヒョルという男への恋情であった。
 ソファが我に返った時、既に風燈祭は終わっていた。あれほどごった返していた往来も今は人影もまばらで、閑散としている。
「俺たちもそろそろ帰ろうか?」
 王が差し出した手に少し躊躇った後、手を重ねる。大きな手と小さな手だった。
 彼女の手をやわらかく握りしめた王の手は、ほんのりと温かかった。
 自分はこの男を裏切ろうとしているー。
 今なら、まだ引き返せる。復讐を諦め、ひっそりと後宮から姿を消せば、少なくとも彼も自分もこれ以上傷つかずに済む。けれど、この先に進めば、もう二度とは戻れない修羅の橋を渡ることになるだろう。
 この温かな手と同じ、優しい心を持った男を自分は騙すのだ。
 ソファがいつになく沈みがちなのを勘違いし、王が気遣わしげに言った。
「長く人混みにいすぎたかな。顔色が悪い」
「いいえ、大丈夫です、殿下」
 無理に微笑むと、王は心配げに言った。
「早く宮殿に戻ろう。数日後には俺の花嫁となる、大切な身体だ」
 王に手を引かれ、ソファは宮殿までの帰り道を辿る。その道が永遠に尽きることなく続けば良いと心から願った。