韓流時代小説 めざめ~偽りの花嫁は真実の恋を知る~薔薇の温室で国王とデートー王様は淋しい方なのね | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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韓流時代小説 二人の彼に囚われて【めざめ】

 ~偽りの花嫁は真実の恋を知る~(前編)

王にはかつて愛した女がいた。
王妃には今も忘れられない男がいる。
そんな二人が夫婦になって、その関係のゆきつくところは?
☆幻の花、蒼い薔薇を巡る恋物語☆
ー「偽装結婚しないか?」
 好きな男がいると打ち明けた私に、あなたはそう言ったー

礼曹参判の一人娘、申美那(シン・ミナ)は17歳。ある日、父に「明日は見合いだ」と告げられた。だが、ミナにはひそかに将来を言い交わした恋人テギルがいる。
しかも、見合い相手というのは今をときめく朝廷の権力者、領議政の孫だと聞いている。
ミナは渋々、父に言われた通り、領議政の屋敷に赴くがー。

******************************

 何ともはっきりと物を言う王女である。ミナ自身、歯に衣を着せず物を言うところはおよそ深窓の令嬢らしくないと父やスングムにたしなめられるが、雲の上に住まう王女にも自分と同様変わり種がいるのだ。ミナはすぐにいずれ義妹になる王女を好きになった。こんなにも最初から好意的に迎えられたなら、警戒心も何もあったものではない。
「お言葉ですが、私は側室として後宮入りする身ですゆえ」
 中殿、つまり王妃として入内するなら王女より格上とも言えようが、ミナは昭儀、あくまでも側室として迎えられる。昭儀は側室の中でもかなり上の位階だ。縁故で迎えられる側室は父親や後見の官職に見合った位階を与えられるのが通例だから、相応の処遇ではある。
 だが、幾ら高位であろうと、側室は側室だ。あまり考えたくはないけれど、我が身は正妻ではなく側妾として迎えられるのだ。
 と、王女がクスっと笑った。
「最初だけよ。母上さまも仰せだったけど、あの堅物の兄が妃を持つことを素直に受け入れたのはこれで初めてだもの。そこまで気に入られたあなたなら、間違いなく将来は中殿になるわ」
「ー」
 またしてもズバスバと言われ、ミナも返す言葉がない。それにしても、大妃がミナに向けた言葉を知っているということは、王女は物陰で母と義姉のやりとりを聞いていたのだろうか。深窓の姫君にしては、この王女、やることなすことが規格外だ。お転婆を持って任ずるミナでさえ、気圧されっ放しである。
 ミナの戸惑いを見抜いたものかどうか、王女が急に笑いを納めた。
「母上さま(オバママ)を悪く思わないでね、お義姉さま。あれで、お兄さまのことを心から心配しているの。でも、素直じゃない性格だから、自分の気持ちがなかなか表に出せないで、ああいう物言いになってしまうのよ」
 王の母たる大妃を〝素直じゃない〟と言うのにもまた度肝を抜かれるが、言ってしまえば、大妃は生まれたときから姜氏の長女、いずれは王妃になるべく大切に后がねとして育てられたひとだ。自分と違って、予期せず国王の妃になるべく、あまりありがたくはない玉の輿に乗った身とは違う。
 おしとやかな姫君ほど喜怒哀楽の感情を表に出すのは美徳とされない。大妃が持って回った物言いしかできないのも高貴な生まれ育ちを考えれば、納得はできる。
「だから、王妃になるまでの少しの辛抱よ」
 王女の言葉はありがたいけれど、生憎とミナはそんなにも長く後宮にいるつもりはない。いずれ後宮を去るこの身が中殿になるなど間違ってもないだろう。が、ミナの緊張を少しでも解(ほぐ)そうしてくれている王女の気持ちは、ありがたかった。大妃から受けた冷淡な印象、衝撃的な勧告を受けたばかりだから、余計に王女の明るさに救われる。
「公主さまは近々、嫁がれると国王殿下からお聞きしました」
 自分のことよりはと王女自身の話題をふれば、案の定、王女は雪膚を染めた。
「いやね、お兄さまのお喋り」
 王女はミナより一歳下と聞く。王宮に嫁いで短期間しか一緒にいられないのは残念だが、慣れない環境で頼もしい義妹がいれば心細さも少しは減りそうだ。
 王女もまた母大妃の美貌を受け継ぎ、なかなかの美少女である。年頃の少女が婚約者を想い頬を染める姿は微笑ましいものだ。たとえ政略結婚であれ、王女が未来の夫君と心を通わせ合っているのは疑いようもない。
 ミナはそんな王女を見て、歳の近い義妹が少しだけ羨ましかった。ミナの恋人は都からはるか遠く離れた山寺にいる。これまでにもテギルに逢えるのはせいぜいがひと月に一度だったのに、これから何年かは更に逢える回数は減るのだ。考えると、つい心も沈みがちになる。
 王女が意味ありげな笑みを浮かべた。
「次は私が案内するわ」
 王女は宣言すると、スンナムに言った。
「国王殿下が温室庭園でお待ちです。私がご息女をご案内するように殿下より承っておりますので」
 臣下に対していささかも臆することなく、先刻までのミナに対する態度とはまったく違う。流石は生まれながらの王族といえた。
 スンナムはにこやかに笑んだ。
「承知しました。私めは先に退出します。ふつつかな娘ですが、よろしくお願い申し上げます」
ー間違っても地を出して粗相をするんじゃないぞ。
 父の眼が言っている。ミナは小さく肩をすくめ、父に軽く頭を下げて王女についていった。
 大勢いた女官はこの時点で、ミナに付いている尚宮だけになった。人目がなくなったせいか、王女はますます饒舌になった。
「あなたにお願いがあるの」
 ミナは頷き、王女を見つめた。
「私にできることなら何なりと申しつけて下さい」
 王女は少し思案げに眼を伏せて言った。
「お兄さまはとても淋しい方よ。母上さまも普段から心配されているの」
「殿下がお淋しいのですか?」
 春の日だまりのような暖かさを感じる王だが、確かに時々酷く淋しげな眼をするときがある。初対面でミナも感じた。
 王女は頷いた。
「母上さまと同じね。王として生まれ、王になるべくして育った方だから、ご自分の感情を上手く表すすべをご存じないのよ。とても不器用で、傷つきやすい心をお持ちなの。今まで私も母上さまも何とかお兄さまに心を開いて欲しくて努力してきたの。だけど、兄は王という立場を理由に心の周りに何重も壁を築いてしまって、誰も容易には近づけないのよ」
 でも、と王女が明るい声になった。
「あなたのような優しい方がお兄さまの側にずっといて下さったら、きっと兄の孤独も癒やされると思うわ。お義姉さま、どうか、殿下のことをお願いね」
「私にそのような大役が務まるかどうか」
 ミナの精一杯の応えに、王女は微笑んだ。
「お兄さまがあなたならと言った理由が私に理解できる。あなたといると、自然体でいられるのではないかしら。何というか」
 王女は言葉を選ぶように眉根を寄せた。
「固くなっていた心がふんわりと柔らかくなってゆく感じ。兄はきっとそんなあなたにずっと側にいて欲しいと思ったのでしょうね」
ーずっと側にいて欲しいと思ったのでしょうね。
 王女の言葉が心に痛い。もちろん、当の王本人は自分たちの関係が一時的な契約結婚だと知っているはずなのに、誰かを騙すのはこんなにも心が軋むものなのだとミナは初めて知った。
 王女とミナはいつしか王宮庭園まで来ていた。ここら一体は庭園の中でも許された一部の者しか立ち入れない禁域だ。王女が手前を指さした。
「あそこがお兄さまの一番の宝物。でも、もう直、何より大切な方ができるから、一番ではなくなるわね」
 またも意味深な笑みを見せた。
「じゃあ、私はこれで失礼するわ。正式に入内したら、お茶でも飲みましょう。あなたとはゆっくりとお話ししたいわ」
 王女はもう一度笑顔を見せ、どこからともなく現れた別の尚宮を引き連れ、去っていった。
「私めはここでお待ち致します」
 お付きの尚宮が控えめに言うので、ミナは正面の建物に近づいた。さほど大きくはなく、ミナの邸内にある物置ー国王占有の温室を物置に例えるのも畏れ多いだろうがーほどの大きさである。
 横に小さな扉がついており、ミナは礼儀として扉を軽く叩いた。
「ああ、入って」
 すぐにいらえがある。ミナは扉を押した。
 一歩入るなり、思わず声を上げそうになり、慌てて手のひらで口許を押さえる。
 狭い室内は噎せ返るような花の香りで満たされていた。まずひときわ眼を引くのは室内の壁をぐるりと伝っている薔薇の蔓だろう。しかも今が季節なのか、蔓には無数の薔薇が付いて咲き誇っている。壁に咲いているのは主に深紅の薔薇ばかりで、王が座っている机の周囲の花壇や鉢には純白や黄色、ピンク、雪のような白に所々赤が混じっている珍しい品種の薔薇が咲いている。
 どこから入り込んだものか、蒼い蝶がひらひらと忙しげに薔薇の花たちの間を飛び回っている。薄い羽には精緻な模様が描かれた、溜息の出るように綺麗な蝶だ。
 蒼い繊細な蝶と溢れんばかりの色とりどりの薔薇は、さながら図画署の絵師が描いた名画にも引けを取らないだろう。
 とにかく薔薇以外の花はない、まさに薔薇づくしの温室だ。王は色とりどりの薔薇に囲まれ、机に向かって何やら難しげな表情で書き物をしている最中だった。
「何をなさっているんですか?」
 つい興味を駆られて訊くと、漸くミナの存在に気づいたらしい。自分で入るように言った癖に、良い加減なものである。
「うん、ちょっと新種の花について気づいたことを記録していたんだよ」
 王が手招きするので、ミナは近づいた。
「新種って、殿下が作ったんですか?」
 まさか国王が新種の薔薇作りをしているとは、この国の民は考えたこともないに違いない!