小説 石榴の月~愛され求められ奪われて~夜風に混じる花の香りは、俺に女の素肌を思い出させるー | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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小説 石榴(ざくろ)の月

~愛され求められ奪われて~ 第三話

完全版はコチラからご覧いただけます。

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http://kanno-novel.jp/viewstory/index/466/?guid=ON

夫のある身で殿さまに見初められ、期間限定の側妾になった私

 

★ あなた以外の男が相手なのに、私の身体はどうしてしまったの。。。? 
 夜ごとに淫らに作り替えられて
ゆく私の、身体★

 お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。
 源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。
長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。
 そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。
 明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。
〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。
 だが、現実は苛酷だった。
 夜ごとの嘉門から受ける巧みな愛撫で、お民の身体はこの上なく淫らになり―。

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 お民が長屋を出てふた刻ばかり後。
 源治は月を見上げながら、鼻歌混じりに夜道を歩いていた。
 今夜の月は本当にきれいだと思った。
 棟梁の一人娘お和香は十八になる。聟となった弟子の佐七はお和香より三つ上の二十一、棟梁が将来を見込んでいる腕も人柄も申し分のない男だ。あの二人であれば似合いの夫婦(めおと)となるだろう。
 お和香の白無垢姿に、棟梁は感極まって、おいおいと声を上げて泣いていた。その姿に、源治を初めとした他の若い連中も貰い泣きしてしまうほどだった。
 お和香は取り立てて器量良しというわけではないが、棟梁に似て気立ての良い娘だ。白無垢姿も初々しく、よく似合っていた。
―お和香ちゃんもきれいだったけど、やっぱり、あいつの方が上だ。
 つい思い出してしまうのは、お民の花嫁姿だ。
 源治がお民と祝言を挙げたのは四年前のことになる。当時、源治が二十一、お民が二十三だった。長屋の差配彦六を仲人として徳平店の店子たちが集まり、簡素ではあるが心温まる祝言を挙げることができた。
 彦六の女房がその昔、着たという白無垢を借りたお民はたいそう美しかった。白磁のようなすべらかな膚に白無垢が映えて、輝くばかりの美しさであった。
 惚れた女と晴れて夫婦となったあの日を、源治はけして忘れはしないだろう。お民の最初の良人兵助が亡くなってから丸一年、源治は源治なりに男としてのけじめを守ったつもりだった。斜向かいに暮らしながらも、祝言を挙げるまではお民に指一本触れないと決めていた。
 晴れて夫婦となった夜、恥じらいながら源治を受け容れたお民に触れながら、源治はこの女を一生離さないと誓った。
 それが、どうだろう。この四年間、お民は辛いことばかりの連続だった。所帯を持って初めの一年だけは人並みに貧しいながらも穏やかに暮らしたものの、一年が過ぎた頃にお民は石澤嘉門に見初められ、その屋敷に妾奉公に上がらなければならなくなった。
 年季前に嘉門の屋敷から返されてきたお民は、夜毎、悪夢を見てはうなされた。それが嘉門の屋敷にいたときの日々が原因だとおおよその見当はついたものの、どうしてやることもできず、源治が触れようとすれば逃げるお民に苛立ちを憶えたこともあった。
 そして、嘉門に再び犯され、予期せぬ懐妊をしたお民が源治に黙って姿を消してしまった。そのお民を追って江戸から遠く離れた螢ヶ池村まで行き、お民を説得して再び二人で暮らし始めたのだ。
 江戸に戻ってからも苦難の連続だった。
 折角授かった龍之助を石澤家に奪われ、龍之助は夭折という最悪の結果を迎えて今に至っている。
 一体、あの女が何をしでかしたからといって、天は次々に苛酷な試練を与えるのだろうか。
 自分は傍にいながら、結局はいつも何もしてやれず、惚れた女を守ってやることすらできない。
 だが、これでもう何もかも上手くゆくはずだ。龍之助はいなくなってしまったが、自分たち夫婦にはまだ松之助が残されている。これから先は龍之助の分まで、松之助に愛情を注いで大切に育ててゆくことが逝った子への供養にもなるはずだ。
 源治は琥珀色に染まった月を眺めながら、つらつらとそんなことを考えていた。
 そのときの源治には、明るい未来への希望があった。
 夜風に乗って、花の香りが漂ってくる。
 まるで一糸纏わぬ女の素肌を思わせるような妖しい香りで―源治はつい、閨の中でのお民の白い身体を連想してしまった。
 自分でも苦笑しながら、徳平店までの帰り道を歩いてゆく。
 
 そのわずか後、源治は、お民と松之助が待っているはずの我が家で茫然と立ち尽くしていた。
 当然ながら、狭い四畳半には恋女房と我が子の姿はなく、もぬけの殻である。灯りも点っておらぬ我が家の前に立ったときから、源治は何故か胸騒ぎを感じたのだ。
 寝静まっているには早すぎる時間だし、眠っているにしては人の気配がなさすぎた。
 案の定、腰高障子を開けると、家の中には誰もおらず、森閑とした闇がひろがっているばかりだった。
 とりあえず行灯に火を入れると、片隅の小机に小さな紙片が残されていた。
 たどたとしい平仮名が並んでいたが、何とか源治にも読むことはできた。ざっと眼を通した源治の貌がさっと蒼褪める。
 書き置きには、松之助が侍らしい男に昼間、連れ去られたこと、自分はこれから松之助を取り戻しに石澤邸に乗り込むつもりだと走り書きされている。
 詳しいことは、花ふくの岩次にすべて話してあるから、花ふくへ行って欲しいとも書いてあった。
 しかし、これだけで十分だ。
 お民の残したこの短い文面だけで、源治はすべてを悟った。
 龍之助を失った石澤嘉門は今度は、残された松之助にまで魔手を伸ばそうとしたのだ!
 源治は、松之助を攫わせた張本人が嘉門ではなく、その母祥月院であることを知らない。
 お民が単身、石澤の屋敷に乗り込んだと知り、源治は慄然とした。
「―馬鹿野郎」
 呟きとも取れぬ独り言が洩れる。
 お前はまた、俺に何も言わねえで、一人で行っちまうのか?
 嘉門はいまだにお民に惚れている。同じ男だから、源治にも判るのだ。あの男は今でもお民への恋情を棄ててはいない。
 そんな男の許にたった一人で乗り込んでゆくなんて、あまりにも無謀すぎる。松之助のことはともかくとして、嘉門が飛び込んできたお民をみすみす屋敷から出すだろうか。
 お民の残した走り書きを握りしめ、源治は紙片の置いてあった小机に安置された位牌をそっと手に取った。
 〝龍之助童子〟と書かれた小さな位牌を額に押し当てた。龍之助の遺髪はお民がいつも懐に収め、肌身離さず持っている。
「龍、母ちゃんと松を守ってやってくれ」
 本音を言えば、今すぐにでもお民の後を追い、石澤嘉門の屋敷に乗り込んでゆきたい。
 だが、それは、けして、お民の望むことではないだろう。
 あの女は、そういう女だ。
 たとえ源治がお民と共に嘉門の許に乗り込んでいっても、龍之助を取り戻しにいったときのように滅多討ちにされ、半殺しの目に遭うのが関の山。下手をすれば、今度こそ間違いなく生命を奪われることになる。
 つまり、今、源治が激情に駆られて飛び出していっても、何の意味もないどころか、かえってお民を哀しませることになるだけだ。
 源治が死ねば、お民は泣き、哀しむ。
 今の源治には祈りながら、待つしかできない。
 お民の、松之助の無事を願いながら。
 源治は何もできぬ我が身を口惜しく思いながら、拳を握りしめた。