【妄想小説】君のために僕がいる(3) | 彼方からの手紙

彼方からの手紙

ラブレターフロム彼方 日々のお手紙です

「おーい」


ふんわり甘い、特徴的な声。

「おーーい」

聞こえてるけど。
振り向いちゃいたいけど…

だめだめだめ。

「おいなんだよー」

「…………」

「無視すんなよー」

ちょっと拗ねてるみたいな声がかわいくて、
背中つんつんしてくる指がうれしくて、
振り向いちゃいたいけど、
だめだめだめ。
 
「…………」

今朝のこと、
まだ根に持ってるなんて
自分でもカッコ悪いと思うけどでも、でも。

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

会議室。


第一営業部・櫻井チーム、
朝の定例ミーティング。

連絡事項その他もろもろ、
手際よく終了して。

さっ、席に戻って
まずはメールチェックしよーって、
急いで立ち上がったら。

「あ、ちょいちょい」

隣にすわってた松本さんに
腕をさっと引っ張られて。
(超絶かっこいい)
 
「ここ、下がってる」

わたしが羽織ってたカーディガン、
肩から落ちそうになってたのを
さりげなく直してくれた大きな手のひら。
(超絶かっこいい)

「ん。おっけー。直りましたよ~」

いつもなにげなく優しい
松本さんの雰囲気が嬉しくて、
思わず頬がゆるみつつ、

ありがとうございますって
御礼を言おうとしたところに。

「松潤てさあ、すげーよく見てるよね。笑」

ドアノブに手をかけてた
櫻井さんの声。

「え?そうっすか?」
 
「うん。よく気がつくよなあって思う」

全然そんなつもりないけど、
みたいな松本さんの顔。
(超絶かっこいい)

「なんつーか…ラブラブだな。笑」

ぽそっとつぶやかれた発言には
全く他意がない、それくらいわかる。

だからさ、松本さん。
そこはさ、松本さん。

櫻井さんの軽いノリには、
 
”いや別に。笑”

くらいの、ふんわーりした、
なんてことなーいお返事で、
いいじゃないですか。

なのに。
なのに。

「ラブラブじゃねーし」

全否定!!

真正面から!
全否定レシーブ!!

挙句!

「あーどっちかっつーと、」

「妹的な?」

「いや、妹っつーより」

「?」

「?」

「妹っつーより、弟かな。笑」

女として見てないよアターーック!

不意に受けてしまって完全に。
打ちのめされて凹んでしまった朝。


*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆


「おーい」

「………」

「あれ。やっぱオレ無視されてんの?」

「………」

「はー。なんでかなぁー。傷つくなぁー」

しょんぼりしてる声。
(超絶かわいい)

なんだか寂しそうな顔。
(超絶かわいい)

松本さんのこと無視するなんて、
なんて大胆!って思うけど。

わたしの方が傷ついてるもん。

女として見てないよアタック、
すっごくすっごく痛かったもん。

「…コピー用紙取りに行ってきまーす」

このまま無視し続けるのも無理だけど、
でもあっさり今まで通りにするのもイヤで。

逃げるみたいに席を立つ。

ふー。

廊下をよろよろ歩きながら、
やりすぎちゃったかなって後悔。

でもわたしだってわたしだって…
傷ついてるんですからねー!!


*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆


席に戻ったらもう、
パソコンに向かって仕事してる松本さん。
(超絶かっこいい)
 
ぶつぶつひとりごといいながら
真剣に資料に目を落としてる横顔。
(超絶かっこいい)
 
さっきのわたしのことなんてもう、
忘れちゃったみたいに、仕事してるから。

無視してごめんなさい、なんて
今さら謝れる雰囲気でもなくなってる。
 
どうしよう…

自業自得のくせに
心細い気持ちでいっぱい。
 
話しかけたいけど、
あんな態度とった手前もあるしな。
 
松本さんにどう思われてるのか
気になって気になって、
全然仕事にならないけど、
いちおう机に向かってたら。

「松潤メシ行かね?」

櫻井さんの声で我に返る。
もうお昼になっちゃったのか…

「今日どうする?そばにする?」

「あー…」

「久々にオムライスにする?」

「翔さんすいませんオレ今日昼パスで」

「なんか予定あり?」

「こいつ、説教しなきゃなんないんで」

えーーーーーー!!!
説教??説教ってなにーー!!

「りょうかーい。じゃあ
オレオムライス食いに行ってくるわ」

櫻井さーーーーん!泣

あっさり引き下がらないで!!

松本さんもオムライス!
連れてっちゃってくださいよー!!

切実な願いも虚しく、
櫻井さんはさっさと席を立つ。

どうしようお説教。
お説教なんてどうしよう。

どうしよう!!

「…………」
「…………」

ランチタイム、
みんな出払ってしまったフロアは
がらんとして。
 
あっという間に、
松本さんとふたりきり。

「よっこいしょ」

すぐ隣の席に腰を下ろした松本さんは
おどけた口調っぽいから
少しだけ安心するけど。

ドキドキうるさい、心臓の音。
 
なんて怒られるんだろうって
ドキドキドキドキ縮こまってたら。

「なあ…ちゃんと言ってよ」

え?

思ってたよりもずっとずっと、
さみしそうな声。

「なんかあんだったらさ…
全部ちゃんと、言ってほしんだけど」


「………」

「オレには全部、話してくれよ」

思ってたよりもずっとずっと、
哀しそうな表情の松本さんに、
胸がぎゅうううっと痛い。

「ごめんなさい」

わたしを見つめる、
まっすぐ真剣な、きれいな瞳。

「反抗期です」

「?」

「弟は、反抗期でした」

ちょっと低めの声で言ってみる。

弟っぽく、
男の子っぽく、言ってみる。

「…そこ気にしてたのかよ。笑」

大きな目、さらに大きくなって
まじまじと見つめられて恥ずかしい。

なんだそこかよーあーびっくりした、
とかなんとか、

ぶつぶつ言ってると思ったら
さっと伸びてくる、長い腕。

 

「かわいいなあ!!」

言いながら大きな手で、
わたしの頭をわしわし撫でるから、

いたずらっこみたいな笑顔で笑って
わたしの顔をのぞき込むから、

「ちょ…な、なんですかっ」

顔と顔の距離が急に近くて、
ドキドキが倍増。

「照れ隠しだろ、あんなの」

「え?」

「恥ずかしかったから!
翔さん唐突なんだよいつも」


「照れ隠し…?」

「そう」

嬉しくて嬉しすぎて、
胸がドキドキ痛いよ。

「じゃあ弟だなんて思ってない?
思ってないですか?」

「当たり前だろ」

「妹でもない?」

「………」

「妹でもない、ですよね?」

まっすぐ見つめる。

瞬間、松本さんの手が
さっきより柔らかく、
優しく髪を撫でてくれるから、
思わず固まってしまう。

「…妹でもない」

たぶんちょっと
赤くなってるわたしの頬、
熱さを確かめるみたいに
松本さんの人差し指が触れる。

「妹とか…そんな風に思ってねーし」

ほっぺに触れてる、長い指。

目尻に向かってそっと撫でる指先が、
優しくて、熱くて、甘くて、

ドキドキドキドキ
 
「…………」
「…………」

ど、どうしよう。

こんな、
こんな甘い雰囲気なんて、


ガチャッ

「やっべ財布忘れたー」


声が聞こえるのと同時に、
コントみたいに身体が ぱっっ!!と離れて!

「………」
「………」

どう見ても不自然に離れた距離が、
すごくすごく恥ずかしい…!!

もーなんてタイミングで現れるの!?
櫻井さーーーーーん!泣

「ごめんごめん。まだ説教中だった?笑」

ニヤニヤしてる、
カンがいい上司の視線を感じつつ、
松本さんを見たらもう
しれっと冷静な、きれいな横顔。

「もう終わりました」

「えっ」

「翔さんやっぱオレもオムライス行こっかな」

「えっ!?」

「マジ?行こ行こ行こ」

櫻井さーーーーーん!泣
あっさり連れて行かないでー!

切実な願いも虚しく、
松本さんはさっさと席を立つ。

並んで歩いているだけで
絵になるふたりのスーツ姿、
ふたりの背中を呆然と見つめながら。

ちょっとホッとしたような、
ちょっと残念なような…

“妹とか…そんな風に思ってねーし”

さっき触れてた松本さんの長い指、
ドキドキの感触を思い出すように
ほっぺをそっと手のひらで包んだ。



(初出:2016.12.19)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
 
読んでいただき
ありがとうございます!

ひさびさにじゅーんに会いたくて、
松本さんのお話でした(^^)

GWの合間に、
楽しんでもらえてたら嬉しい♪

わたしは明日までおやすみです。
まだまだいろいろ落ちつかないけど、
お互いがんばってゆきましょね。