【妄想小説】過保護な櫻井先輩は(15) | 彼方からの手紙

彼方からの手紙

ラブレターフロム彼方 日々のお手紙です

「翔さん!あの山ですか?」
 
助手席でつい、
はしゃいだ声を出したわたしに、
運転席から優しい笑顔。
 
「そうそうそう。
リフト動いてんの見える?
あれが目的地のスキー場でーす」
 
遠くに見えてるゲレンデに
翔さんも嬉しそう。
 
今日は朝から車で遠出して、
1泊2日のスキーデート。
 
久しぶりの1泊旅行、
嬉しくてワクワクしてるけど、
 
人生初のスキーにも、
ドキドキワクワクしてる。
 
「スキーウエア着るの楽しみです」
 
「ふははっ」
 
スキー場なんて行ったことないし、
そもそもなんにも持ってなかったから、
ウエアとか帽子とか一式、
2人で買いに行った先週末。
 
”これいいと思う”
 
翔さんが即決で選んでくれた、
濃い赤にグレーのラインが入った
オシャレなウェア。
 
全然滑れないのに赤なんて、
ちょっと派手じゃないかな、って
試着した自分を見て恥ずかしかったけど。
 
”これがいい。これにしよ”
 
翔さん選んでくれたの、
嬉しかったな…
思い出して頬が緩んじゃう。
 
「春スキーって
あんま来たことないからちょう楽しみ」
 
「そうなんですか?」
 
「うん。昔からいつも、
オレの誕生日の頃に来ること多かったから、
真冬は滑り慣れてるんだけどさ」
 
「今年はあったかかったし、
3月だと雪質も違うんだろうなー」
 
そっか。
雪質が違うとか全然知らなかった。
 
*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆
 
「手離さないで…!!翔さん!」
 
「いけるいける。
ほら滑れてる滑れてる」
 
初心者向けの
ゆるやかすぎるコース。
 
文字通り手取り足取り、
教えてくれる翔さんだけど
申し訳ないくらい下手くそなわたし。
 
さっき言われた通り、
膝を曲げて腰を落として…
おそるおそる滑ってる隣で、
ずっと声を掛けてくれる優しい翔さん。
 
「初めてにしては上出来だよ。
うまいうまい」
 
「ほんとに?」
 
「いいよいいよ。
このままゆっくり、まっすぐ」
 
ゆるやかな傾斜、
滑り降りてる感覚。
 
ちょっと怖いけど、
ちょっと…楽しいかも。
 
不安げに目線を向けたら、
大丈夫だよって頼もしい目。
 
いつでも手をとれるように
体を寄せてくれてるのが嬉しくて。
 
銀世界のゲレンデ、大自然をバックに、
着なれたウエア姿の翔さんは
ほんとにかっこよくて素敵だなぁって、
 
ぷるぷる足を震わせた
情けない姿で滑りながらも、
つい胸がキュンとなってしまう。
 
「よし、止まれる?」
 
「止まる…?え、止まるって」
 
止まるのってどうするんだっけ、
 
「…わ、」
 
思わず前傾姿勢になったら
逆に勢いよくスピードが出て
全然止まれない!!
 
「きゃっ」
 
「ああっぶねっ」
 
ザザザッ!
 
コースのはしっこ、
小高く積まれた雪の山。
 
どうしよう突っ込んじゃう!
 
硬くこわばらせた体は、
横からぐっと伸びてきた腕に
瞬間で抱き止められて。
 
ぽすん
 
翔さんの腕の中に守られたまま
ふかふかの雪の上に2人でダイブ。
 
「びびったー笑」
 
「ごめんなさい翔さん!」
 
「全然全然。想定内です。
大丈夫?体、起こせる?」
 
ちょっと無理させすぎたねって
微笑む甘い笑顔が、
わたしの前髪を撫でる。
 
「ふはは。すげー雪ついてる」
 
優しい手のひら。
 
「どっか痛くしてない?」
 
「大丈夫です」
 
だって翔さんが、
身を挺して守ってくれたから。
 
「雪、冷たい?寒くない?」
 
「…大丈夫です」
 
どこまでも過保護な翔さんの
どこまでも優しい視線に、
寒さなんて少しも感じないよ。
 
「いつもはヤローだけで
勝手に滑りまくってるだけからさ、
こういうの、すげー新鮮」
 
ダイブした雪山の中から
わたしの体を起こしてくれるとき、
手をひっぱったイキオイのまま
ぎゅっと一瞬抱きしめられて。
 
「…こういうの、ちょっとイイデスネ」
 
照れた口調で笑う翔さんが、
好きで好きで…大好きすぎて。
 
*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆
 
「もうすぐ昼だから
そろそろロッジ降りてみる?」
 
「そうですね」
 
午前中ずっと滑ってたから
ちょっとお腹も空いてきたかも。
 
「レストランのカレーがさ、
でかい肉のカタマリが入ってて
最っ高なんだよ。
マジでうまいから食べさせたい」
 
「ふふ、楽しみです」
 
わたしはちょこちょこと横歩き、
翔さんに至っては
もう普通に歩いてるみたいな状態で
ゆるやかなゲレンデを降りながら
ロッジの方を見ると。
 
「あーー、混んでっかな」
 
お昼時だからか、
入口まで人が溢れてる気配。
 
「ちょっと時間ずらしましょうか」
 
「だな」
 
「あ、翔さん今日は全然、
ちゃんと滑れてませんよね?
上のコースで滑ってきてください」
 
「いやでも、」
 
「このままゆっくり降りてたら、
翔さん滑り終わるのと
同じくらいになりませんか?」
 
「んー…」
 
ちょっと考え込んでる横顔。
 
「せっかく来たんですから
思う存分滑ってきてください」
 
「…いいの?」
 
「もちろんです!」
 
へたっぴなわたしに
つき合ってもらってばかりで
申し訳ないなって思ってたから、
我ながらナイスな提案だな、なんて。
 
「じゃあお言葉に甘えて、
1本行ってくるかな」
 
「時間ありそうだったら、
2本くらい滑ってきてくださいね」
 
「サンキュ。じゃあー、2本。
速攻で滑ってくるわ」
 
「はい、いってらっしゃい!」
 
「いってきまーーす!」
 
颯爽と滑り降りてく翔さん、
後ろ姿もカッコイイ。
 
「…よしっ」
 
上級者コースのリフトに向かう
翔さんを見送って。
 
ゲレンデのはしっこを
へっぴり腰で横歩きしながら
ロッジを目指す。
 
*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆
 
「思ったより早く着いちゃったな」
 
ロッジの中に入ってみたら、
スパイシーないい匂い。
 
混雑もひと段落したのか、
席も充分あって。
拍子抜けしたけど、空いてて良かった。
 
とりあえずカフェオレを頼んで、
4人掛けのテーブルに腰を下ろす。
木材で組まれた高い高い天井、
端っこにはかわいい薪ストーブ。
 
初めてのロッジが珍しくて、
キョロキョロしながらも、
椅子に座ってホッとひと息ついたら、
急に足にだるさを感じて。
 
「運動不足だなあ…」
 
ぷるぷる緊張してる筋肉、
ももの辺りをトントン叩いてたら。
 
「おひとりですか?」
 
目の前の席に、
知らない男の人が座ってる。
 
「え…?あの、」
 
席たくさん空いてるのに、
どうしてここに座るのかなって
のんきに思ったのが最初で。
 
まさかナンパだなんて、
思ってもいなかった。
 
「さっきからずっと、
ひとりで座ってますよね?
僕も今日、ひとりなんですよ。
友達が急に来れなくなっちゃって」
 
「いえ、あの」
 
翔さんと同年代くらいだけど
ちょっと軽い感じのその人は
わたしに話す隙を与えてくれない。
 
「ここのカレーすげー上手いんで
良かったら僕と一緒に、」
 
「何の御用ですか?」
 
「翔さん…!」
 
待ち望んでた声がして、
パッと振り向いたら、、
 
わたしのすぐ後ろに立って、
男の人と視線を合わせてる翔さん。
 
帽子を脱いだおでこに、
こめかみに、大粒の汗。
 
急いでここまで来てくれたのかな、
息を切らしてるように、
肩が大きく動いてるけど。
 
 
「何の御用ですか?」
 
 
低い声で同じセリフ、
もう一度言った翔さんからは、
なんていうか、すごい、殺気…!
 
「なんだ、ツレがいたのかよ」
 
そそくさと退散する背中に、
ものすごい殺気の翔さんが、
ぽつりとつぶやく声。
 
「…ふざけんなよ」
 
その声は、その目線は、
氷のように冷たくて、強くて。
 
初めて見る
翔さんの鋭いオトコっぽさに
ドキドキがとまらない。
 
守ってくれるみたいに
背中にそっと触れてる手が、
すごくすごく嬉しくて。
 
 
*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆
 
 
「ん…、待って…翔さ、」
 
 
ホテルに戻って、
部屋に入った瞬間に、
 
ぐっと頬を両手で固定されて
キスの雨が降ってきて…
びっくりして思わず身をよじる。
 
くちびるに、鼻に、頬に、
ちゅっと甘い、キス、キス、キス。
 
「翔さん…?」
 
「ごめん」
 
至近距離で見つめあったら、
困ったように眉を下げた翔さん。
 
「ふざけんなよ、はオレだよな…
さっきはひとりにしてごめん」
 
「そんな、大丈夫ですよ?」
 
「オレが大丈夫じゃありません」
 
見つめあう目。
 
翔さんの表情は、
傷ついたような、哀しげな、
真剣な瞳の色。
 
「見つけた時はマジで焦ったー…」
 
ぎゅううっと抱きしめてくれる
広くてたくましい胸。
 
厚い胸に頬をくっつけて、
わたしもぎゅっと、
翔さんの背中を抱きしめる。
 
伝わってくる熱い体温。
わたしを包む翔さんの匂い。
 
大好きな大好きな…
オトコっぽい香水の香り。
 
「真っ赤なウエアにしといて良かった
 
ジジジ…
 
呟きながら、
わたしのウエアのファスナーを
静かに下ろす、大きな手。
 
「すぐ見つけられて
マジで良かったけど、」
 
「もう絶対、ひとりにはさせません」
 
「翔さん…」
 
ふっくらしたくちびる、
大好きな翔さんから
柔らかいキス。
 
熱い手のひらに
うなじをそっと引き寄せられて、
 
甘いくちびるが、深くなる。
 
深く深く重なって、
熱く甘く、撫でられて…
 
ぱさっ
 
体から落とされる、
真っ赤なスキーウエア。
 
「翔さん…大好きです」
 
強く抱きしめてくれる腕の中で、
小さくつぶやいたら。
 
翔さんからの大きな愛が、
甘い甘い時間が…
 
わたしをぎゅっと、
包んでくれた。
 
 
過保護な櫻井先輩は(2020早春)
 
 
(初出:2020.3.2)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
 
読んでいただき
ありがとうございます(^^♪

【小ネタメモ】
 
外出自粛の話題が出始めた
去年の3月に書いた櫻井先輩でした。
 
春スキーのお話だから
今月中のRebornがいいかなと思って、
今日は土曜日だし、上げてみたよ。
気分転換に楽しんでもらえてたら嬉しい♪
 
独占欲強めの過保護な翔さんが
やっぱりとってもいいよねー♡

夏は毎年、翔くんで別の物語を書いてたから
過保護な〜を夏に書くことなかったのよね。
なのでいつもだいたい、
冬か春のシチュエーションっていう(^^;)

最後までお付き合いありがとう!
またどうぞよろしくお願いします(^^)