【妄想小説】あいのは(8) | 彼方からの手紙

彼方からの手紙

ラブレターフロム彼方 日々のお手紙です

「1週間なんてすぐだって!」

恋人になってたった1日で
離れ離れになるその日。

駅で、お互いぎゅっと握った両手を
離せないままで、雅紀はそう言った。

「すぐすぐ!
来週またすぐ逢いに来るんだから
そんな顔しないの。笑」


マフラーに絡まる髪、
また優しく直してくれながら、
小さい子をあやすみたいな、柔らかい声。


困らせたいわけじゃないのに。

雅紀が好きで好きで
大好きが溢れすぎてるのに、
全然笑顔が作れない。

ただたださみしくて、
全然笑顔が作れない。

「ぜんぶ夢だったみたい」

幸せな時間が終わってしまうこと、
離れ離れになってしまうこと。

現実に押しつぶされそうで
自嘲気味に言ったわたしを、
長い腕が優しく引き寄せて。
そっと抱きしめられる。

「夢じゃないよ」

直接からだに響いてくる、
雅紀の必死な声。

「そんなこと言わないでよ…」

ごつごつした雅紀の広い胸の中に
ぎゅっと包まれて、
ようやくわたしは素直な言葉が出る。

「ごめんね」

駅で別れを惜しむカップル、
自分たちしか見えてないなんて
恥ずかしいって思ってた。

でも同じ立場になって初めてわかる。


雅紀以外なんにも見えない。
離れたくない。

「ごめん…」

「すぐだから」

顔を上げたら真剣な瞳の雅紀がいて。

「またすぐ逢えるんだから」

しっかりとした声。
未来を信じさせてくれる声。

雅紀は…

優しいだけじゃなくて
すごくすごく強いな。

「じゃあもう行くね」

「うん!1週間だからね!ね!!」

「ふふ。笑
運転気を付けて帰ってね」

改札口から階段を登って
見えなくなるまで。

長い腕、ぶんぶんぶんぶん振ってた
雅紀と遠距離になって。

今日でちょうど、2ヶ月。
逢えないままで、もう2ヶ月。

あの日以来、
雅紀に一度も会えないまま。

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

「お疲れーい」

目の前の翔くんが
ビールジョッキをぶつけてくる。

嬉しそうにごくごく飲む喉元。
相変わらずいい飲みっぷりだな。

「年度末からすげー忙しくてさ、
飲みに来たのちょうひさびさだわ」


ネクタイを緩めながら、
リラックスした表情。

「ごめんね急に誘っちゃって」

「いや別に。
マジで無理だったら
ちゃんと断るから心配ご無用ー」


ふざけた雰囲気で笑いながら、
お通しに箸を伸ばしてる。

「で?どーよ」

ポテトサラダもぐもぐ。

「ノロケは聞かねーよ?笑」

「ノロケ、」

ノロケ話…したくてもなにもない。
なんにもないんだよ翔くん。

「ん?…なになになに」

浮かない顔のわたしに気がついて、
ちょっと真剣なトーン。

ガヤガヤガヤ。
小さな居酒屋の、混んでる店内。

 

うるさいから、狭い席だから、
長年の友だちの前だから、
本音が出る。

「忙しいし、予定があわないのは
しょうがないと思ってるんだけど…
約束してた日がダメになるでしょ」

「うん」

「ほんとにごめんって雅紀が謝るから」

電話の向こう、
申し訳なさそうな声を思い出す。

「ごめんごめんって、
雅紀が何度も謝るから、」

「………」

「それがしんどくて、
電話もできなくて、」

「会いたいって言えなくなった、と」

「そう」

「正直に言やあいいじゃん」

「言えないよ」

ビールをぐいっ。
目の前の人に負けないように、
わたしもぐいっと飲み干す。

「わがまま言えばいんだよ」

「会いたいなら会いたいって

言ったほうがいいって」

「会いたい」

「オレに言ってどーすんだっつの。笑」

「会いたい会いたい雅紀に会いたい」

「うっせ!オレに言うなよ。笑」

あきれたみたいに
笑ってくれる翔くんの顔に、
ますますぽろぽろ気持ちがこぼれる。

「どこでもドアがあったらなー…」

酔ってる。

「どこでもドアがなくてもいいや、
雅紀が飛んできてくれたら!」

久しぶりに飲んだからかな、
頭がふわふわ。

どうせわたしのたわ言なんて
翔くんはたいした聞いてないんだから

別にいっか。

「飛んできてくれたらなー…」

「あーもしもし雅紀?」

「え?」


突然聞こえてきた
翔くんのはっきりした声に
ばっと顔を上げると、
電話を耳に当ててるドヤ顔。

「ちょ、ちょ、ちょっと…!!!」

焦ってるわたしを横目に
にこにこ楽しそうな悪い顔。

「雅紀に会いたい会いたいって、
お前の彼女うるせーんだけど」


”お前の彼女”なんて…


ドキドキドキドキドキ、
心臓が痛い。

「うん、うん…大丈夫大丈夫。
雅紀に飛んできてほしいんだってさ!笑
ん?ああ、いまかわる」


ほれ、って

わたしにスマホを握らせて、
トイレトイレーってさっさと席を立つ。

もう。
どこまでイイ男なのよ…。

毒づきつつ、

心の中で翔くんに感謝する。
だってもうわたしからは
電話なんてできなかった。

「もしもし?」

優しい雅紀の、久しぶりの声。

「…うん」

声を聞いただけで
胸がいっぱい。

「飛んでく」

「え?」

「飛んでくよ」

意志の強い声。

「待ってて、今行くから」

「今行くって…」

「新幹線、最終間に合うから!」

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆
 

「はー!すっきり!」

洗い立ての髪、
少ししずくを滴らせて、
リラックスした顔。

嘘みたい。

数時間前は

電話の向こうにいた雅紀が今、
うちにいるなんて。

嬉しくて嬉しくて、涙がでそう。

すごく嬉しいのに、
きっと無理させちゃったよなって
苦しくなる。

「明日も仕事だよね?
始発で帰らなきゃ…」

「いいから」

腕をぐっと引き寄せられて。


お風呂上がりで熱い体温の中に
すっぽり包まれる。

「もうなにも考えないで」

ゆっくりゆっくり、
頭を、背中を撫でてくれる
大きな手のひら。

久しぶりに抱きしめられる感触に
息ができなくなりそう。

「……ん」

ちょっと強引に唇が重なる。
反射的にこわばったからだを
優しく包んでくれる長い腕。

おでこに、まつげに、頬に。
ちゅっちゅっちゅっ、ってキス。

「あ、」

キスの雨と一緒に、
雅紀の濡れた前髪から

ポタポタとしずくが落ちてきて、

わたしの頬を濡らすから。

肩にかかったままの白いタオルに
手を伸ばして、
少し茶色い髪に触れる。

「ちゃんと乾かさなきゃ、」

風邪ひいちゃうよって言い終わる前に
雅紀がでっかいわんこみたいに
ぶるぶるぶる!ってアタマを振って
わざと水滴を飛ばしてくる。

「冷たい!!もう!!笑」

瞬間、ぎゅーーっと、
強い力で抱きしめられるからだ。

「笑った顔…すげー見たかったの」

「………」

「笑ってる顔、ずっと見たかったから」

小さくつぶやく雅紀の声。

どうしよう。
泣いちゃいそう。


「雅紀」


「ん?」

「ほんとに飛んできてくれて…
ありがとう」

「うん」

髪に触れてたわたしの右手に
そっと重なる雅紀の大きな左手。

 

 

ずっとずっと、

会いたかった人。

 

ずっとずっと、
雅紀に触れたかった。
 
見つめる目が優しくて、
それだけで胸がいっぱいになる。


「夢みたい」


「…夢じゃないよ」

両手をぎゅっと握りあう。


あの日手を振った
駅の改札を思い出す。

「夢じゃない」

またそっと触れるキス。
だんだんと熱を帯びて、深く重なって。

キスだけでもう、
どうにかなっちゃいそう。

「ごめん」

なんのごめん?

ごめんなんてもう、
なにもないのに。

「ごめん。マジで止まんない」

少し切ない目の雅紀に見つめられて、
からだの奥が熱くなる。

ぎゅっと広い背中に腕を回したら、
トクトク早くなってる
雅紀の鼓動が、耳に聞こえた。


(初出:2016.4.22)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

お付き合いいただき

ありがとうございましたm(_ _ )m
昼間っからほんとに失礼しました。

ちょっとでも一緒に
ニヤニヤしてもらえていたら、
これ幸いです。

このお話しは
葉担のKちゃんから
「このananの雅紀で!」と
お写真リクエストをもらっていて

書いたお話でした。

Kちゃん遅くなってごめんね、
こんな感じになったよー。
ちょっとでも、

気分がまぎれてくれていたらと思います。

しかしあれよね、
あいのはの翔くんは
ほんっとにイイ男よね…
(わたしの偏った趣向がモロ出し)
 

【小ネタメモ】

 

これを書く10日ほど前に、

熊本地震があって。

九州に住む葉担Kちゃんに

ちょっとでも楽しんでもらえたらなあと思って

書いたお話でした。

 

次がラスト、最終話です。

今日も読んでいただき

ほんとにどうもありがとーう(^^)/