【妄想小説】あいのは(1) | 彼方からの手紙

彼方からの手紙

ラブレターフロム彼方 日々のお手紙です

そんなに大きくない旅行かばんを、
よいしょ、って玄関まで運んでたら、

電話が鳴る。

テンテンテテンテテテンテン♪

「はーい。いま行くー」

それだけ言って電話を切り、
急いで部屋を出た。

「おはよ。おまたせ」

マンション入り口前に止まってる車、
助手席からするっと乗り込む。
ばたん!って勢いよく閉めたドア。
 

「おはよー。…あ。すっぴーん」

ハンドルにもたれながら

こっちを見た雅紀がニヤニヤしてる。

「はーい、すっぴんでーす。
だって3時間しか寝れなかったもん」

「オレもそんくらいかなー?
ひさびさにやっちゃったよねー」


ほんの数時間前に別れたばかりの雅紀は、
やっぱり眠そうな目をしてて。

わたしもそうなのかな、
って思ったところでふと気がつく。

「…あ!メガネ忘れた!すっぴんなのにー」

取りに戻ろうかなって思ったけど。

 

「いいじゃん。そのままでいいよ?」

 

…なら、まあいっか。

「じゃ、行きますか!」

雅紀の運転する車が、
ゆっくりと動き出した。
 
「一緒に地元帰るのなんて
何年ぶりだろうね?おばちゃん元気?」

「元気元気。
あ、じゃあちょっとうち寄ってく?
お母さん喜ぶ、雅紀のこと大好きだから」

「やった!オレもおばちゃん大好き!」

ぴっかぴかの、
一点の曇りもない雅紀の笑顔。

朝10時の環状線は少し混んでて、
土曜日だからかな、ってちょっと思う。

青く抜けたきれいな冬の空。

image

「朝食べた?オレ腹ペコ!
翔ちゃんちなんもないんだもん」


「じゃあ朝マックでもする?
あ、だめだわたしすっぴんだった」

「ははっ!別にいいじゃん。
そんな変わんないよ?」


「コンビニ寄ろう。そのメガネ貸して」

「えーこのメガネ?でっかくない?」

言いながらも、雅紀の視線はもう
コンビニの看板を探してる。

「よしっ、とうちゃーく。…ほい」

コンビニの駐車場、
車を降りようとしたとき、
雅紀がそれまでかけてたメガネを
わたしにかけようと手を伸ばして。

「ちょ…自分でかけるってば!」

鼻がくっつきそうな距離に、
顔に近づく手に、ドギマギする。

「ぷっ。やっぱデカイって!
アラレちゃんどころじゃなくなってるよ?」


わたしの前髪に
当たり前みたいに触れる、
長くてきれいな指。

ぴかぴかな笑顔。
目じりのキレイなしわ。

「いいの!オシャレ女子は
これくらいの伊達メガネしてるでしょ」

恥ずかしくて、
かわいくないこといってドアを開ける。

「CMでさ、
なんかうまそーなやつやってるよね?
旨塩チキンだっけ」


キーをじゃらじゃらさせた雅紀が
後ろでしゃべってるけど。

コンビニのガラスに映る
自分の顔がひどすぎて、
ちょっと笑えてくる。

ほんと、雅紀の言うとおりだ。
メガネ全然似合ってない。

おかしいな。
雅紀がかけると
めちゃめちゃおしゃれなのに。

おにぎりやらサンドイッチやら、
適当に買って車に戻る。

「ちょっとここで食っていい?もー限界」

びりびりって、
サンドイッチの袋をやぶって。
 
ぱくっと豪快にかぶりつく横顔。

窓から差し込むまぶしい光に照らされた、
まぶしい雅紀。

ほっぺをぽっこりさせながら
もぐもぐ雅紀がぴってオーディオを操作して。

FMラジオからは
今流行りのバラードが流れてくる。

Stay with me、だったっけ。

「食べないの?」

もぐもぐ雅紀が袋を渡してくるけど。

「うん。まだ食欲ないや。
やっぱり飲み過ぎたよ」

ミネラルウォーターのキャップを開けて、
ひと口飲む。

透明が、しみる。

「オレ出てくるとき翔ちゃんまだ寝てたよ。
声掛けたけど、起きなかった」


「かなり飲んでたもんねー」

昨日の夜を思い出して、ちょっと笑う。
翔くんの部屋で、久々に3人で飲んだ、昨日。

「雅紀は?二日酔い平気?」

「オレは今日運転だから
後半セーブしてたし!」

ちょっとドヤ顔でもぐもぐしてる、
雅紀の笑顔。
かわいいな、もう。

カーステレオからは
甘くせつないバラードが続いてる。
Stay with me。
行かないで、ここにいて、って歌ってる。

「…やっぱショックだった?
翔ちゃんの結婚の話」

それまでよりワントーン低い雅紀の声が、
わたしを気遣ってくれてるのかなって思うと、
胸が痛くなる。

「ショックっていうのとはちがうのかなー。
ちょっと寂しい?そんな感じ」

「わかる。俺もなんかちょーさみしいもん!」

俺たちもなんだかんだ
長い付き合いだからねーって雅紀が笑う。

うん、そうだね、ほんとに長い付き合い。

「中2からだから…何年?
もう15年以上かー」

指折り数えてる。

「でもさ、翔ちゃんは…初恋だったんでしょ?」

「………」

「やっぱ特別に…思ってるんでしょ?」

ああ。
何でも話せる、
すっぴんも見せちゃえる雅紀に。

たったひとつ。
たったひとつ、言えないほんとのこと。

わたしの初恋。

わたしの初恋は、ほんとうは…
雅紀、なんだよ?

初恋からずっとずっと、
雅紀だけが好きなんだよ?

「特別は、翔くんだけじゃないよ。
雅紀も一緒だよ」

「うっそだー!」

オレ何でも知ってるんだもんね、みたいな
妙なしたり顔でこっち見てくる。

「昨日だってさ、
キッチンでなんかこそこそ!
ふたりで話してたじゃん」


…それは。

それは、翔くんに、
雅紀のことツッコまれてたわけで。

「おまえらいつまで
友達以上恋人未満なんだよ」

って、心配してくれたわけで。

「いけると思うよ?」

勇気づけてくれるように
翔くんはこっそり言ってくれたけど。

ほんと?
いけると思うって、
わたしどうしたらいいの?

ここまで友達期間が長いと、
今さらなにをどうしたらいいか…わかんない。

「はー食った食った!」

満足そうにちょっと伸びをした雅紀は

長い腕をうーん!って伸ばして。

「高速のったら2時間でいくかなー?

渋滞してないといいね」

翔くんの話はもう忘れちゃったみたいに、
車を出しながらつぶやく横顔。

ほら。
きっかけが掴めない。

雅紀が好きなんだよ、なんて。
どんなタイミングでいえばいいの?

車はゆっくりと走る。
雅紀の運転は、

雅紀とおんなじで優しくて、心地いい。


「…メガネ、返す」



赤信号で、メガネを外して差し出す。

「ん。かけて」

「え?」

「かけてってば。」

ふざけて顔をぐっと、

助手席に寄せてくる、雅紀。


ああっ!もう!

ほっぺに、ちゅっ、てキスをした。

「…え?」

びっくりした、顔。

「初恋は、翔くんじゃなくて、雅紀だよ」

「え?」

「初恋は!雅紀なの!」


プップー!


信号はとっくに青に変わっていて、
うしろのセダンから派手なクラクション。

あっ!!って慌てふためいた雅紀が
急いで車を発進させて。

「…あせったー」

真顔で、まんまるな瞳でつぶやく。

「ふふっ」

なんか、笑えてきた。

セダンのクラクションにも、
大胆な自分の行動にも。

「ちょ…きゅうになんだよ!!」

赤くなってる横顔が、かわいくて。

「ずっと好きだったんだよ、雅紀」

あれこれ考えてたのが嘘みたいに、
素直な気持ちだけがぽろっとこぼれたら。

「オレの方がずっとずっと

好きだったっつーーの!!」

とんでもない大音量で、

見たことない男っぽい表情で。

まさかの告白が、
ぴかぴかと降ってきた。


(初出:2015.2.17)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

読んでいただき
ありがとうございます(^^)/
 
【小ネタメモ】
 
6年前が初出しでした、
時の流れにびっっくり。笑
 
お話書き始めたばっかりの頃のだから
読み返すといろいろ気になって
あーここ直したいな、とかもあったんだけど、
なるべくそのままでのRebornにしました。
 
昔からずーっと読んでくれてるお友だちが
Reborn喜んでくれたのが
なによりとっても嬉しかったのでね(^^)
懐かしいよねーほんとに。
 
ラジオから流れてくる「Stay with me」は
当時グラミーもとったサム・スミスです、
これももう、もろ2015年という感じ。
ひさびさに聞いたら
懐かしすぎて胸がすんとなったわ
 
あと小ネタとしては、
ローソン旨塩チキンのCMは
当時は大野さんがやってたってことと、
 
この「あいのは」があったから、
翔くんのお話「502」が出来たってことかな、
どちらも同じ、14才からの幼なじみです。
 
小ネタまでお付き合いありがとう。
「あいのは」は全9話、
楽しんでもらえたら嬉しいです(^^)