【妄想小説】甘い色(7) | 彼方からの手紙

彼方からの手紙

ラブレターフロム彼方 日々のお手紙です

<第7話>
奇跡
 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

肩にくっついてるおでこに、
ぎゅっと握られてる手に、
感じる潤の体温。


頭を抱き寄せられたままで、
そっと目を閉じて。
 
ぽつりと言葉を口にする。
 
 
「わたし、したことないの」
 
「なにを?」
 
「セックス」
 
「…………え?」
 
 
言い慣れない単語を口にした途端、
潤の空気が変わった気がして、
すごくすごく心細くなる。
 
握っててってお願いした手が、
ぱっと離されて、
ぐっと肩を掴まれて。
 
至近距離で合う目と目。
 
 
「したことないの、1度も」
 
 
大きく見開かれた
きれいな瞳を見つめながら
潤てほんとにまつげ長いな、なんて。
 
こんな時なのに
そんなことをぼんやり思いながら
言葉を続ける。
 
 
「この年で経験ないとか
引くでしょ。引くよね。笑」
 
「え?…ちょ…、だって、」
 
「だってお前彼氏、」
 
「してない」
 
「…………」
 
「してないの」
 
「…………」
 
 
おいマジかよ、って
混乱してるみたいな表情。
 
ただまっすぐに見つめられて、
ぐっと心が痛くなる。
 
さっきまで握られてた手の
離れてしまったぬくもりが、
心細くてさみしくて、涙が出そう。
 
「びっくりするよね。笑」
 
ははっ、なんて
空虚に笑った自分の声が
部屋に小さく響いてもう、
恥ずかしくてただ、言葉をつなぐ。
 
「わたしずっと女子校だったし、
出会いとかつきあうとか
昔からそういうの、なくて」
 
「誰かを好きって思う感情も、
10代の頃からよくわかんなくて」
 
「そういう、恋愛みたいな気持ち、
ずっとピンとこなくて…でも」
 
「潤に会って初めて、
好きって気持ちがわかったの」
 
「…え?」
 
「同期の顔合わせで
初めて潤に会ったとき…
初めて好きって思ったんだよ。笑」
 
「初めてだったの」

 
ただひとり、特別な人。
ただひとり、特別な、初恋。

 
「生まれて初めて
好きって思ったのが潤だから、」
 
「ちょ、」
 
何か言おうとしてる潤が怖くて
勝手に言葉が止まらない。
 
「潤のことずっと、
すごくすごく好きだったから、」
 
「こんなに好きな人と
そういうことするって思ったら、」
 
「マコト」
 
「嫌われたらどうしようって
そう思ったら怖くて、」
 
「マコト…!」
 
瞬間、ぎゅううっと!
痛いくらいに強く強く、抱きしめられる。
 
 
「マジで?」
 
「マジで…
初めて好きになったのが、オレ?」
 
こくん
 
頷くだけで、精一杯。
 
「マジで…今まで誰とも?」
 
こくん
 
「奇跡だろ」
 
「え?」
 
「なんだよそれ…奇跡だろ」
 
耳もとに小さく聞こえる声。

「あーーー……やべえ」
 
「潤…引いてる?」
 
「なんでだよ。逆だよ。笑」
 
「お前が今日まで
誰にも抱かれてないって知って
むしろテンションあがってる」
 
「ええっ?」
 
「いや、まあ、
テンション上がってんのもまあ、
自分でもどうかと思うけど。笑」
 
ふはははって
照れくさそうに笑う潤の声。
 
「ごめん。
手握っててって言われてたのに」
 
そっともう一度、
左手が優しく包まれる。
 
ぎゅっと手と手を握り合う。
きゅっと指が、絡み合う。
 
潤の大きな手は
さっきよりずっと熱い。
 
こてん、とおでこ、
さっきと同じ態勢で
Tシャツの肩に乗せたら、
 
潤もさっきと同じく、
後頭部をそっと優しく、
引き寄せてくれる。
 
話す前と同じ態勢なのに
話す前よりずっとずっと、
親密な雰囲気。
 
 
「正直オレはすっげー嬉しい」
 
「マコトのはじめてをもらえること」
 
 
「……ほんとに?」
 
 
当たり前だろって
力強く頷く表情に胸がキュン。
 
 
「わたし上手に…
できないかもしれないよ?」
 
「上手にってなんだよ。笑」
 
「だって、」
 
「お前はそんなこと
気にしなくていいから。笑」
 
 
よしよし、なんて雰囲気で
潤が頭を撫でるから、
 
結局いつもの
かわいくないわたしが顔を出す。
 
「潤のそういう、余裕な感じがイヤ」
 
「は?」
 
「潤はいつも、
そうやって余裕な顔して、
いつもいつもわたしばっかり、」
 
ぐっと一気に
顔の距離が近づく。
 
潤のまっすぐな瞳が
あまりにもキレイで
目を逸らせない。
 
くちびるが今にも
触れちゃいそうな距離。
 
 
「余裕なんてねーよ」
 
「………、」
 
「余裕なんてあるわけねーだろ」
 
「じゅ、」
 
 
潤、と言おうとした声は、
迷いなく近づいてきた
熱いくちびるに阻まれる。
 
「…ん、」
 
初めて触れる、
潤の甘いくちびるから、
熱い熱い、初めてのキス―

 
<第7話>
奇跡
 
 
(初出:2019.6.20)
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読んでいただき
ありがとうございます(^^)


【小ネタメモ】

この7話と次の8話は写真悩みに悩んで(^^;)
今日のコーヒーの写真はよーく見ると
泡がハートの形に見えるので使ってみました、
ほんとり甘い雰囲気を思ってもらえたら(^^)

次でマコト編ラストです。
何事もなければ明日アップします、
どうぞよろしくお願いします(^^)