【妄想小説】甘い色(6) | 彼方からの手紙

彼方からの手紙

ラブレターフロム彼方 日々のお手紙です

<第6話>
剛速球
 
 
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
 
その日は突然やってきた。
 
仕事終わりで、
潤と2人でごはんを食べた夜。
 
平日だったし、
特別デートという雰囲気もなくて。
ただ普通にごはんを食べて、
そのまま普通に帰る予定だった。
 
「え…?すげー雨降ってんだけど」
 
「うそ?あ、ほんとだ」

お店の外に出たら
ものすごい勢いで降ってる雨。
 
雨粒が激しく飛び跳ねて
アスファルトを濡らしてるから、
お店の前で思わず立ち往生。
 
「ちょっとひどい雨だね」
 
「ゲリラ豪雨って感じだよな。
マコト傘持ってる?」
 
「ううん。だって今日天気予報、
降るなんて言ってなかったもん」
 
「だよなー。
オレも傘ねーから…とりあえずこれ」
 
ぱさっ
 
頭の上に
ふわっとかけられる
潤のグレーのジャケット。
 
さっと今、
潤が脱いだばかりのジャケット、
ぬくもりの中に香る甘い匂い。
 
潤の匂いに
頭からすっぽり包まれて
急に胸がいっぱいになる。
 
「……、」
 
「ほら。濡れないように
ちゃんとかぶっとけよ。笑」
 
優しい声に
急に胸がいっぱいになる。
 
「駅まで走るぞ」
 
「…待って」
 
ぎゅっ
 
走り出そうとした潤の
シャツの腕をぐっと掴む。
「どした?」
 
「今日…話したい」
 
「…え?」
 
「今日これから、話したい」
 
 
突然心が決まったのは。
 
潤があまりにも自然に、
雨から守ってくれたから?
 
ぱさりと頭にかけられた
グレーのジャケットから
甘くて優しい香りがしたから?
 
自分でもよくわからない。
わからないけど―
 
 
「潤の家で話したい」
 
「…………」
 
「潤の家に行ってもいい?」
 
「…………」
 
ザーーーーー
 
「…ダメかな」
 
「ダメなわけねーじゃん」
 
 
わたしの声に
かぶせるように答える潤が
強い返事とともに
ぎゅっとわたしの手を握る。
 
左手を包み込む大きな右手は、
いつもより熱い。
 
ドキドキしながら
わたしもきゅっと…
熱い潤の手を握り返す。
 
 
*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆
 
 
「寒い?」
 
「大丈夫」
 
「タオル新しいの使う?」
 
「ううん。これで大丈夫」
 
「ドライヤーも使っていいけど」
 
「もう乾いてきてるから。大丈夫だよ」
 
ソファに座るわたしに
キッチンから何度も何度も
声を掛けてくる潤がくすぐったくて、
ちょっと笑っちゃう。
 
潤も緊張してるのかな。
 
ほんとはわたしだって、
潤のこと言えないくらい
すごくすごく…緊張してる。
 
服乾くまでとりあえずこれ着てろって
出してくれた黒いTシャツと、
ハーフパンツ。
 
メンズサイズは
当たり前だけどわたしにはぶかぶかで、
なんだか心もとない。
 
潤の服に着替えた自分の姿は
意識しちゃうと有り得ないくらい
恥ずかしいし…
 
「ん。コーヒー」
 
「ありがとう」
 
ぽすんとソファ、
わたしの隣りに腰を下ろす潤も
ラフなTシャツ姿。
 
雨で濡れてしまった潤の髪は
前髪が重く下りてて、
いつもより幼い雰囲気になって、
なんだかかわいい。
 
「タクシー使ったのに、
結局すげー濡れたよな。笑」
 
「ほんと。ひどい雨だったー」
 
「まあでもそのおかげで、
マコトは今うちにいるわけだから、」
 
「オレ的にはラッキーだけど」
 
「…このコーヒーおいしいね」
 
不自然すぎるってこと
十分わかっていてもつい、
話を逸らしてしまう悪いクセ。
 
そんないつも通りのわたしを
すぐ隣から見つめる潤の、柔らかい表情。
 
 
「前に、ニノがさ」
 
「ん?」
 
「マコトって、普段は高校球児なのに、
時々急にプロ野球並みの剛速球
投げてくるみたいなヤツだって言ってて」
 
「えー?なにそれ。
どういう意味?笑」
 
「とんでもない剛速球受けて、
オレは今すげーやられてるってこと」
 
「さっき突然不意打ちで
家に来たいって言われてから、」
 
「オレはお前に
すげー翻弄されてるって意味」
 
「………」
 
とんでもない剛速球、
投げてくるのは潤のほう。
 
わたしをいつも、
甘く翻弄するのは潤のほうだよ…
 
「…ここまだ濡れてんじゃん」
 
伸びてきた人差し指が
前髪にちょんと触れる。
 
キュンと胸が、切なく高鳴る。
 
大きな左手は
そのまま首すじに回って、
ゆっくりと頭を引き寄せられて。
 
潤のTシャツの肩に
こつんとあたるおでこ。
 
「話、聞いてもいいの?」
 
「…うん」
 
「オレの誕生日まで、
待たなくていいの?」
 
「…うん」
 
頭を抱き寄せられた状態のままで
潤の肩におでこを寄せたままで、
小さくつぶやく。
 
「このままで話してもいい?」
 
「全然いいよ」
 
 
顔を見られない方が
話せる気がする私の気持ち、
わかってくれるみたいな
潤の強い返事に、安心する。
 
ドキドキドキドキ
ドキドキドキドキ
 
髪をそっと
撫でてくれる大きな手。
節ばってる指の優しい感触。
 
 
「ごめん潤、」
 
「ん?」
 
「もうひとつだけ、お願いがある」
 
「なに?」
 
「こっちの手、握ってて欲しい」
 
「お前マジかよ…」
 
 
つぶやきながら潤が、
わたしの手をぎゅっと
強く握ってくれる。
 
包み込まれる感触に、
ほっと安心するわたしの耳に、
小さな小さな潤の声。
 
 
「それメジャー級の剛速球だろ…笑」
 
 
<第6話>
剛速球
 
 
(初出:2019.6.19)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
 
読んでいただき
ありがとうございます。
 
【小ネタメモ】
 
自覚なく潤くんをドキドキさせちゃう、
天然小悪魔なマコちゃんです(^^)
潤の誕生日に、と言われてたから、
なんだかんだ言いながらも
2ヶ月待つつもりだったじゅーんが
オトコらしくて素敵よね…♡
そういう優しさありそうだなーって、
わたしの中の潤くんのイメージです。
 
お話のこと考えながら寝たからか、
今日はお潤が夢に出てきて。笑
白いセーターを着たじゅーんと、
J2の、知らないサッカーチームを
応援しに行くとか行かないとか
そんな話をしてた夢でした(^^;)
 
マコト編はあと2話です。
引き続きおヒマな時間に
楽しんでいただけたら嬉しい(^^)
 
今日もお付き合いありがとうー感謝です!