【妄想小説】ルビー(23) | 彼方からの手紙

彼方からの手紙

ラブレターフロム彼方 日々のお手紙です

(side翔)

 

 

「んー…」

 

窓からの光が眩しくて、

だんだんと目が覚めてくる。

 

やけに広々と感じる

デカいベッドの左側。

 

浅い眠りの中で手を伸ばして、

柔らかいぬくもりを探すけど

手に触れるのは

乱れまくってるシーツのしわ、

しっとりしたシーツの感触だけで、

 

となりで眠ってるはずの

さくらさんの姿がなくて、

 

ガバッ!!

 

あわてて飛び起きる。

 

「………びびったー…」

 

飛び起きた目線の先。

 

さくらさんはソファに座って

窓の向こうを見ていて、

心の底から安堵する。

 

マジでびびった…

 

「起きた?おはよう」

 

「…おはよ」

 

おはようと挨拶するのは

初めてだなって嬉しく思いつつ、

 

ベッドの中で裸を抱き寄せて

甘い目覚めを迎えられなかったことに

若干の寂しさを感じつつ…

 

オレを見て微笑むさくらさんは

すっかり身支度を整えてる。

 

いつも通り、いちばん上まで

きっちりと留められてる、

ワンピースのボタン。

 

すっと伸びた背筋、相変わらず

きれいな姿勢で座ってる姿に

思わず見とれてしまう。

 

彼女はちゃんと眠っただろうか。

 

もしかしたら

ほとんど寝てないのかもしれない。

 

「おなかすかない?」

 

「…むちゃくちゃすいてる。笑」

 

「ルームサービス頼もうか」

 

彼女の左手の小指には

昨日オレが贈ったルビーが

ちゃんと光ってて安心する。

 

指輪をつけてくれてることに…

心の底から安心してる。

 

”ルビー、ずっとつけてて。

会えない間も絶対外さないで”

 

絶対外さないで、なんて

緊張したイキオイで口走ったこと、

思い出したらすげー恥ずかしいけど。

 

オレの正直な気持ち。

 

 

きっと、彼女のことだから。

 

オレがいくら

揺るぎない気持ちを

はっきりと告げたところで、

 

互いの気持ちを確認して

今の想いを重ねたところで、

 

彼女の事情が

全て解決するまでは、

その身を委ねたりしないだろう。

 

安易にオレに

寄りかかりはしないだろう。

 

もうあと数時間で

物理的に距離が離れる事実は

変わらない。

 

”いつか”

 

その日がくるまで。

 

オレとさくらさんが

別れるという事実は変わらない。

 

変わらないけど…

 

言葉にしなくとももう、

想いは重なってると信じられる今は、

すげー嬉しい。

 

 

今はそれぞれ、

別の道を歩くオレたちだけど。

 

はなればなれになるけど。

 

いつかの未来。

いつかの約束。

 

”いつか”

 

それはオレの、

希望そのものの言葉。

 

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

 

ルームサービスでとった

見目麗しいサンドイッチに

豪快にかぶりついたら、

さくらさんが嬉しそうに笑って。

 

「口いっぱいに

入れすぎじゃない?笑」

 

「ほーかな。(もぐもぐもぐ)」

 

「そうだよ。笑」

 

「…ふっ。笑

さくらさんここ、ソースついてる」

 

「え?どこ?

やだなもう、恥ずかしい。笑」

 

くちびるの脇を指で拭って、

ソースがついた人差し指を

ちゅっと舐めるさくらさん。

少しだけ見えた赤い舌。

 

キスしてーな…

 

昨日さんざんしたのに、

やっぱりそう思ってしまう。

 

「いつもニノくんのお店で、

ランチ食べる翔くんのこと、

よく見てたんだよ」

 

「え?なにそれ。

初耳なんだけど。笑」

 

恥ずかしそうに

はにかんで笑う顔がかわいくて、

目が離せない。

 

「ほっぺいっぱいにして、

もぐもぐ食べる姿がかわいくて、

でも真剣な顔で新聞読んでる時は

すごくカッコ良くて、すごく…

素敵な人だなあって」

 

「………」

 

「だから翔くんに

初めて話しかけられた時、

びっくりしたけどそれ以上に、」

 

「すごくドキドキしたんだよ。笑」

 

「………」

 

答え合わせのようにまた

そんな話をしてくれるの。

 

いつか、

今日の日の気持ちも

聞かせてもらえる日が

くるだろうか。

 

答え合わせしてくれる日が

くるだろうか。

 

「翔くん」

 

「ん?」

 

「昨日言おうと思ってて…

泣いちゃって言えなかったこと、

今言ってもいい?」

 

「…うん」

 

緊張してる表情に

オレも居ずまいを正す。

 

「翔くんに…

すごく助けてもらったよ」

image

「翔くんに出会えて、」

 

「毎日がすごく大切になって、

毎日がすごく愛おしくなって」

 

「幸せって

こんな気持ちなんだって、

生まれて初めて知ったの」

 

「…………」

 

「思うだけで

こんなに強くなれるんだって

初めて知ったんだよ」

 

「ありがとう」

 

「…………」

 

「ありがとう翔くん」

 

「…………」

 

「こんな好きな人に

出会えるなんて思ってなかった」

 

「…………」

 

「ごめん……やっぱり涙が、」

 

ぽろぽろ涙をこぼしながら

何度もありがとうを言うなんて、

 

まるでほんとにもう

これが最後みたいで。

 

 

未来は誰にもわからない。

この先どうなるかなんて誰にも。

 

 

思わず手を伸ばして、

彼女の左手をぐっと握る。

 

小指には

オレが結んだ、赤い糸。

 

赤いルビーが、光ってる。

 

どうかどうか、この赤い光が

運命の赤い糸であるように。

 

はなればなれになるオレたちを

ちゃんと結んでてくれますように。

 

祈るような想いをこめながら、

ひたすらにぎゅっとその手を握る。

 

泣いている彼女に、

体を寄せて。

 

「ん…」

 

想いを込めたキスを。

 

ありったけの想いを込めて

そっとくちびるを重ねる。

 

ありったけの想いを込めて

強く強く…抱きしめる。

 

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

 

空港までの道。

 

まだ人も少ない午前中の

静かな道を並んで歩く。

 

デカいスーツケースひとつ。

数時間後にはもう、ニューヨーク。

 

ほんとにもう、これでしばらく

会えなくなるんだな…

 

 

見上げれば、

抜けるような青空で。

 

 

さわやかすぎる空の色は

別れの朝とは思えなくて。

 

はなればなれになるなんて

とても現実味がないのに。

 

 

曲がり角の手前で、

さくらさんが立ち止まる。

 

あの角を曲がれば、

彼女は駅へ。

 

そしてオレは、空港へ。

 

 

「体に気をつけて…元気でね」

 

「さくらさんも」

 

「仕事がんばって。

ずっとずっと応援してる」

 

「オレも応援してる。

きっとうまくいくように」

 

「うん。ありがとう」

 

「………」

 

「………」

 

「好きだよ」

 

「……翔くん」

 

「いつか、」

 

今はそんな、

曖昧な言葉しか言えないけど。

 

信じてる未来は

信じるこの気持ちしか…

確実なものはないけど。

 

「うん」

 

彼女が小さくうなずいたことに、

そっとルビーを触った仕草に、

 

これは決して、

哀しい別れではなく、

 

新たな未来のはじまりなんだと

強い気持ちをもらう。

 

叶えたい未来を。

強く強く願う。

 

「じゃあ…いくね」

 

彼女はオレに、背を向けて。

ゆっくり歩いて、離れていく。

 

「…………」

 

小さくなってく

華奢な背中を見つめていたら。

 

角を曲がる直前に

彼女が振り向いて。

 

「翔くん!!」

 

大きな声で彼女が叫ぶ。

 

「いってらっしゃい!」

 

「…………、」

 

「いってらっしゃい、翔くん!」

 

彼女は大きく、笑っていた。

 

大きく笑いながら、

涙をぽろぽろとこぼしていた。

 

「いってきます!!」

 

彼女はすぐ、

曲がり角に消えて。

 

オレの視界からもう

いなくなってしまったけど。

 

「いってきます!!」

 

負けないくらい大きな声で。

 

もしかしたらその角の向こう側で

うずくまって泣いてるかもしれない

彼女に向かって、

 

必死な声で想いを届ける。

 

「ありがとう!!」

 

思いっきり大きな声で、叫ぶ。

 

 

「いってきます!!!」

 

 

ねえ、さくらさん。

 

いってらっしゃい、と

いってきます、は。

 

おかえり、と

ただいま、に。

 

結ぶための言葉だよ。

 

いってらっしゃい、と

声を届けてくれたあなたに。

 

涙をぽろぽろこぼしながらも

大きな大きな笑顔で

見送ってくれたあなたに。

 

いつか必ず、ただいま、と。

 

再会する未来を。

いつかの未来を。

 

信じてオレは、旅立つよ―

 

 

(初出:2019.10.18)

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

いちばん書きたかったシーンでした。

 

1年ぶりに読み直して

新鮮に泣きそうになってます…

(自分で書いたクセに)

 

読んでいただき

ありがとうございます。

 

明日最終回です。

想いのいろいろは

あとがきに書きますね。

 

最後までどうぞ、

よろしくお願いします(^^)