【妄想小説】Summer Soldier(完結) | 彼方からの手紙

彼方からの手紙

ラブレターフロム彼方 日々のお手紙です

「櫻井さんを、

好きに…なってしまいました」

 

先輩の顔が見られない。


「だからもう…

もう3人で会えませんごめんなさい」

 

「ちょっとまって、違うの、」

 

がたっ

 

先輩の言葉を遮るように

立ち上がる。

 

逃げる。
逃げるしか方法がわからない。

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

混んでるレジの前で足止めされて

動けないでいる先輩の大きな声が

背中に聞こえるけど。

 

走る。

逃げる。

 

もう逃げるしか方法がわからない。

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

「どした?」

 

席に戻ったわたしを

ビックリした顔で見つめるニノに

焦って言い訳。

 

「ちょっと具合悪い…早退する」

 

「リョウちゃんは?」

 

「ごめんニノ。

先輩に謝っておいてほしい」

 

自分の気持ち、

言うだけ言って逃げるなんて

最低最悪だってわかってるけど。

 

ごめんなさい。

ごめんなさい。

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

ピリリリリリ

ピリリリリリ

ピリリリリリ

 

もう何度目かわからない

リョウ先輩からの着信音。

 

出ることができないのに、

電源を落とす勇気もない。

 

最低。

最悪。

 

”櫻井さんを、

好きになってしまいました”

 

言うだけ言って、

逃げ出して。

 

言われた先輩は

どんな気持ちだった?

 

櫻井さんのこと諦められないのに

リョウ先輩にも嫌われたくないなんて

都合が良すぎるけど。

 

この期に及んで

先輩に嫌われたくないなんて

ずうずうしすぎるけど。

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

「つきあってなかっただあ?」

 

(リョウ こくんと頷く)

 

「バカなの?

ねえリョウちゃんバカなの?」

 

「だって、」

 

「だってじゃねーわ」

 

(リョウ 電話をかけ続ける)

 

プルルルル

プルルルル

プルルルル

 

「やっぱり出ない。どうしようニノ」

 

「どうしようって…

まあ別に…大丈夫じゃない?」

 

「結局は両想いってことでしょ?

リョウちゃんの彼氏と。

あ、彼氏じゃねえのか」

 

「なんだ?元カレ?いやちげーな」

 

「友だち!

ただの、昔からの友だち」

 

「ただの友だちと

彼氏彼女のフリとか

なんでそんなややこしいことを…」

 

「あ!そっか。そうだ。

あっちに電話かければ…」

 

(リョウ あらためて電話をかける)

 

プルルルル

プルルルル

プルルルル

 

「…ああっこっちも出ないっ。

なにやってんのよもー…ちっ」

 

「こらこら。舌打ちしない。笑」

 

(リョウ 電話をかけ続ける)

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

薄暗い部屋の中。

電気をつける気にもなれない。

 

ベットに突っ伏してたら、

鳴り響くLINEの通知音。

 

ピロン

 

「…え?」


暗がりの中、

そこだけぼんやり光を放つ

iPhoneの画面。

 

 

櫻井:会ってほしい

 

 

どうしよう。

心臓が止まりそう。

 

ピロン

 

櫻井:今から向かいます

 

「え?え?え?」

 

やだ。

どうして?

 

どうして櫻井さんがくるの?

 

ピリリリリリ

ピリリリリリ

ピリリリリリ

 

リョウ先輩からの着信。

 

混乱する気持ち。

 

すがる思いで

通話ボタンを押す。

 

さっき散々無視したくせに

結局リョウ先輩に頼ってる。

 

「もしもし、」

 

「良かった!つながった!」

 

「先輩…」

 

「ごめん。ごめん。

ほんっとにごめん!」

 

「…先輩が謝ることなんて、」

 

「つきあってないの」

 

「え?」

 

「わたしと櫻井、

もともとつきあってないの。

ただの友だちなの」

 

櫻井、と呼ぶリョウ先輩の声。

 

そういえばリョウ先輩が

櫻井さんのこと呼ぶの初めて聞く…

 

「もっと早く言うべきだった。

ほんとにごめん」

 

先輩の優しい声。

 

「あとは直接、

本人から聞いてね?」

 

「……あの、」

 

ピンポーン

 

インターホンの音。

ドキン!と跳ねる心臓。

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

ガチャ

 

恐る恐るドアを開けたら。

 

眉を八の字に下げた

櫻井さんの顔。

 

久しぶりに会う櫻井さんに…

胸がトクンと音を立てる。

 

まっすぐ合う目と目。

 

きれいな目に、

まっすぐな目に。

 

櫻井さんの

大きな目に見つめられて。

ドキドキしすぎて倒れそう。

 

 

「…やっと会えた」

 

 

ホッとしたように

微笑む笑顔。

 

 

「すげー…会いたかった」

 

 

つぶやく声に、

会いたかった、って言葉に。

 

ドキドキドキドキ

心臓の音。

 

”もともとつきあってないの、

ただの友だちなの”

 

リョウ先輩の言葉。

 

目の前の櫻井さんの

切実な、まっすぐな瞳。

 

ほんとに…?

ほんとに…?

 

「マジでもう

会ってくんねーのかなって」

 

「すげー…焦った」

 

焦った…?

櫻井さんが…焦ってくれたの?

 

玄関に立ってる

スーツ姿の櫻井さんの。

 

目の前まで近づいて、

ひじのあたりにそっと触れる。

 

きゅっと掴んだ

スーツの袖越しに感じる

櫻井さんの腕。

 

しなやかに硬い筋肉の感触。

 

どうしてこんなことしてるんだろう。

 

自分でもわからない。

わからないけど、でも。

 

ただ櫻井さんに。

櫻井さんに、触れたくて―

 

「………」

 

瞬間。

 

ぎゅううっと、

強く抱きしめられる。

 

ぎゅううっと抱きしめてくれる、

櫻井さんの熱い腕。

 

ぴったりと

隙間なく触れてる身体。

 

からだじゅうに感じる

櫻井さんの匂い。

 

わたしのからだ全部を

包んでくれる男っぽい香り。

 

櫻井さんの匂い。

 

「つきあって、なかったって…

本当ですか?」

 

「うん。ごめん。

もっと早く言うつもりだった」

 

本当だったんだ…

 

がっちりした胸に

顔を埋めて。

 

信じられられない気持ちで

櫻井さんの背中にそっと腕を回す。

 

さらにぎゅっと

わたしを強く抱きしめる

櫻井さんのガッチリした身体。

 

「櫻井さん」

 

「ん?」

 

「…好きです」

 

伝えることを

あきらめていた言葉。

 

「櫻井さんが、好きです」

 

素直な気持ちだけが

こぼれる。

 

トクトクトク

 

くっついてる胸から聞こえる

心臓の音はどっちの音だろう。

 

 

「聞いてほしいことがあって」

 

「…はい」

 

「聞いてくれる?」

 

「…はい」

 

 

触れあってるからだに

直接響いてくる低い声。

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

どうしよう。

櫻井さんが、
櫻井さんが…うちにいるなんて。


玄関で
抱きしめあってたこと


ついさっきのことなのに
急にドキドキして
急に恥ずかしくなってくる。

 

「………」

 

「………」


「あ、暑いですか?」

「ああ……うん」

櫻井さんも、
きっと同じなのかも。

リビングに漂う緊張感に
ドキドキが収まらない。


どうしよう。


エアコン操作しながら
すっかり挙動不審。

「……あっなにか飲み物、」


ドキドキして

ドキドキしすぎて

とりあえずキッチンに
行こうとしたわたしの手。

 

ぐっと強く掴まれて
また、心臓がドキンと跳ねる。

「なんか」

「?」

 

「なんかずっと逃げられてたから…

離したくないんだけど。笑」

 

拗ねたみたいに笑う

櫻井さんの顔に

ますますドキドキが止まらない。

 

「つかまえてていい?」

 

「あ、あの、」

 

手首に感じる大きな手。

櫻井さんの熱い体温。

 

「逃げない、ですよ?」

 

「あー……ごめん」

 

「?」

 

「オレが触ってたいだけ。笑」

 

「………!!」

 

男の子みたいな

ちょっといたずらな顔。

 

胸がキュンキュンしすぎて

息が出来なくなりそう。

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

「結果的に

ウソついてた形になったこと…

ごめん」

 

ふるふる、

首を振る。

 

さっきわたしの手首を掴んでた

櫻井さんの右手は今。

 

ソファに隣り合って座る

わたしの左手と繋がってる。

 

触ってたいって言われたとおり、

ずっと繋がれてる手と手。

 

櫻井さんの熱い手のひら。

 

からだが触れあってるぶん、

気持ちも素直になるのかな…

 

「リョウ先輩のこと

部長から守ってくれてたんですね」

 

櫻井さんが

彼氏のフリをしてた理由が。

ストンと心に収まる。

 

粘着質なあの部長に

睨みをかせる櫻井さんを想像したら

頼もしくてドキドキ胸が高鳴ったりして。

 

「…いや、守ってたとか

そんなカッコイイもんじゃなくて」

 

ふっくらしたくちびる、

一瞬んってした櫻井さんの

真剣な表情。

 

「正直、オレにとっても

都合が良かったんだ」

 

「?」

 

「彼氏彼女のフリしようって

あいつに提案したのオレでさ、」

 

バツが悪そうに

うつむきがちに言葉を紡ぐ

キレイな横顔。

 

「オレも”彼女います”って言っとけば

ラクな場面がいっぱいあったから」

 

「ちょっと会っただけの、

良く知らない人からの告白とか。

取引先での合コンの誘いとか。

出張先で”誰か紹介します”とか」

 

…モテるんだ、櫻井さん。

 

当たり前か。

こんなカッコイイ人、

周りがほおっておくわけない。

 

「そういうのが…けっこうあって、

めんどくせーなと思ってた時期で」

 

「だからあいつのためなんて

カッコイイもんではなくて、」

 

「都合のいい言い訳のための…

彼氏彼女のフリだったんだ」

 

 

繋がれてる手。

 

櫻井さんの手がきゅっと

力を入れてわたしの手を握る。

 

「あの日。

メロン持ってったあの日」

 

初めましての、夜を思い出す。

 

「同じ会社の後輩なら、

彼氏として会った方がいんじゃね?って」

 

「電話で。

オレがそう言ったんだ」

 

またぎゅっと、

力を入れて握られる手。

 

「どうせすぐ帰るし…って」

 

”メロン置いたら
すぐ帰るって言ってたから大丈夫”

 

思い出す、

リョウ先輩の言葉。

 

「すっげー後悔してた。

もうずっと」

 

チラッと

櫻井さんの目線。

 

「言い訳、聞いてもらいたくても

会えませんって断られ続け」

 

「あの、それは、」

 

「嫌われたかなって」

 

小さくつぶやく櫻井さんの声に。

 

嫌うなんてそんな。

そんなこと…

 

「でももしも、」

 

「もしも会えない理由が、

嫌われたわけじゃないとしたら、」

 

「早く、」

 

櫻井さんが。

 

わたしの髪を…

優しく撫でる。

 

胸がぎゅううっと痛い。

 

「早く、誤解を解かないとって」

 

ポロポロポロ

 

こぼれる涙。

 

優しくあたまを

撫でてくれる感触に、

涙が止まらない。

 

「櫻井さん」

 

「ん?」

 

「あの…リョウ先輩に」

 

「リョウ先輩に、

電話しても…いいですか?」

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

プルルルル

 

「もしもしっ」

 

ワンコールで聞こえてきた

リョウ先輩の必死な声に。

 

「ふっ…うううっ…うっ」

 

涙が止まらない。

 

「え?ちょっとなんで泣いてんの?

櫻井と…会えたんだよね?」

 

「先輩…せんぱいー…うううっ」

 

恥ずかしい。

恥ずかしい。

 

櫻井さんの顔が見られない。

きっとひどい泣き顔してる。

 

「先輩…ごめんなさい」

 

「どうして謝るの?

謝るのはわたしだよ?」

 

「もし、

もしも先輩がほんとうに、

櫻井さんとつきあってたとしても、」

 

「わたし絶対…

櫻井さんを…好きになりました」


ポロポロポロポロ

 

涙が止まらない。

 

「櫻井さんを好きになって、」

 

「櫻井さんのことが、

欲しいって気持ちを…

止められなかったと思います」

 

ずっとずっと、

思ってた気持ち。

 

もしも本当に、

リョウ先輩と櫻井さんが、

つきあっていたとしても。

 

好きという気持ちを。

 

止めることなんて、

出来なかったと思う。

 

その目で見つめてほしいと。

その手でふれてほしいと。

 

願う気持ちを止めることなんて

きっと出来ない。

 

「…………」

 

電話しながら、

大泣きしてるわたしを見つめる

櫻井さんと目が合う。

 

ど、どうしよう。

恥ずかしい。

 

電話に集中するフリで

目線を外す。

 

「ぐすっ。先輩ごめんなさい」

 

「…謝ることないでしょ。笑」

 

バカな子ねえ!

 

大きな声でからから笑う

リョウ先輩の声がちょっと、

震えてる気がするのは。

気のせいかな。

 

「今日。

あなたがサボったおかげで

わたしとニノは今残業中だからね?」

 

「あ…!!

ごめんなさい!!」

 

「うん。そこは謝るとこ。笑」

 

”オレもいるよー”

 

後ろからニノの高い声。

 

「ほらもう泣かないの。

…櫻井に代わってくれる?」

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

「…ん、」

 

ぎゅううっと再び、

強く抱きしめられてる腕の中。

 

「ん…ん、」

 

ふっくら赤いくちびるが。

深い深いキス。

 

夢の中の櫻井さんより

ずっとずっと強引な…

そのくちびるが。

 

甘い甘いキス。

 

ぎゅううっと

急に抱きしめられて、

 

ソファの上で体勢を崩した

わたしなんかにお構いなしで

深い深いキスが降ってくる。

 

首の後ろ、

支えてくれる大きな手。

 

甘い甘い、

甘い、キス。

 

大好きな大好きな…櫻井さん。

 

 

至近距離で、

見つめあう目。

 

「…好きだよ」

 

ちゅっ

 

おでこに、頬に、キス。

 

「……っ、」

 

涙が、また浮かぶ。

だってこんな幸せ…

 

「やっべ」

 

「?」

 

「大事な妹、

泣かしたらぶっとばすって」

 

「今電話で言われたばっかり。笑」

 

ちゅっ

 

優しいくちびる。

優しい目。

 

 

「…大好きです」

 

 

目の前の太い首筋に

ぎゅっと腕を回したら。

 

強引にぐっと、

ソファにぽすん、と

押し倒されて…

 

幸せな涙がまた、

目じりからこぼれた。

 

Summer Soldier・終わり

 

 

(初出:2017.8.18)

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

m(_ _ )m

 

最終回でした。

 

おつきあい本当に

ありがとうございました!

 

3週間、

無謀なチャレンジを走り切れたのは

読んでくださっていた

あなたのおかげです。

 

…やばい泣きそう。

(相変わらずの作者)

 

はーーーー!!

 

読んでいただき本当に

ありがとうございました!

 

【20210126小ネタメモ】

 

夢の中の櫻井さんより

ずっとずっと強引なくちびる、

ってところがなんとなく、

翔くんぽいかなって♡

 

「結局は両想いってことでしょ?

リョウちゃんの彼氏と。

あ、彼氏じゃねえのか」

 

「なんだ?元カレ?いやちげーな」

 

このへんの言い回しも、

ニノっぽいかなーとか思いながら

書いてました。

 

Rebornでも最後まで

ありがとうございます、

感謝です(^^)/