

2015年8月31日の今日もスカラ座は平常運転だ。店内には珈琲とタバコの香りが漂い、隅々まで行き届いた接客が気持ちよい。
まるで今日が最終日とは思えないが、「すみません、今日はもうブルーマウンテンの豆が品切れなんです」という店員の声と、惜しそうに店内の写真を撮る男性客の姿が、ほのかに終わりの気配を感じさせる。
現在も、灰皿などにはスカラ座の店名とともに「名曲喫茶」と刻まれている。「名曲喫茶」とは、珈琲やタバコを楽しむだけでなく、クラシック音楽を流している店を指す。
昭和初期から中期にかけて流行した喫茶業態で、レコードが高価でなかなか手に入らなかった時代に、気軽に音楽を嗜む場所として人気を博した喫茶店だ。スカラ座のほかにも渋谷の「名曲喫茶ライオン」や、阿佐ヶ谷の「名曲喫茶ヴィオロン」など、都内でもまだその姿を散見できる。




平素格別のお引立を賜り厚く御礼申し上げます
さてこの度当店は八月三十一日をもって閉店させて頂くこととなりました
昭和二十九年四月の開店以来六十一年
皆様のご愛顧に厚く御礼申し上げここに閉店のごあいさつを申し上げます
二〇一五年六月 新宿スカラ座店主
「またひとつ新宿の灯が消えるなあ」と、白髪まじりの男性客が、笑いながら昔話に花を咲かせている。サードウェーブの波が訪れた東京で、深煎りで骨太な、日本の喫茶文化を継承する名店が、新宿から姿を消す。本日の営業は23:00までだ。新宿駅にお立ち寄りの際はぜひ、スカラ座で最後の一杯を。
新宿駅西口地下の小田急エースへ移転した新宿スカラ座は、2代目オーナーの体調悪化もあり2015年8月31日をもって閉店した。
