なぞの転校生 #08 | スチャラカでスーダラな日々

スチャラカでスーダラな日々

故・植木等氏の御冥福に因んでkeiのスーダラな日々を紹介します。故人の映画のようにスイスイと軽妙な人生を送りたいものです☆彡

なぞの転校生 #08

王家の護衛官として調整されたヒューマノイド(人間タイプの人工生命体)のモノリオこと山沢典夫は王女アスカ姫の無聊を慰めるために東西山高校への登校を推奨する。

D-8世界では長く続いた戦乱のために王女は学校というものを体験したことがなかったのだ。
高貴な家柄に属するアスカ姫にとって庶民の通う学校そのものが異世界であり、例によってモノリスのマギ(高度な人格操作)によってコントロールされた寺岡理事長(斉木しげる)の転校生・九条アスカの超法規的転入手続きは在校生一同に違和感をもたらす。

大谷「今日は、転校生を紹介します」

典夫「ぼくの従妹の九条アスカです。皆さん宜しくお願いします。」

大谷「それでは、アスカさん自己紹介を」

と担任の大谷先生(京野ことみ)に指示されたアスカは、生徒一人一人に自己紹介を促すのだった。

大谷「ええっと…九条さん、自己紹介はあなたがするのよ?」

典夫「アスカさん、自己紹介をお願いします。」

アスカ「九条アスカです。宜しくお願い致します。」

そうして姫は長々と頭を垂れた。そしてまた生徒一人一人に自己紹介を促す。

大谷「それは休み時間にやってね。ええと席は…」

天衣無縫な王女は、教室最前列に用意された副担任用の補助席に自主的に腰かける。

大谷「いやそこじゃなくて。山沢君、この席を後ろに持って行ってくれるかな?ハイ、お願いします。」

腕組モノリオにエスコートされたアスカはモノリオと腕を組んだまま着席し、女子生徒の反感を買った。

そして岩田広一にさりげなく触れ、親愛の情を示すアスカだった。

なぜなら平行世界に存在しがちなアイデンティカは異世界にありながら同一な存在としてD-12世界の岩田広一はD-8世界ではアスカの婚約者・ナギサだったのである。遺伝子レベルでナギサにそっくりの岩田広一は、突然変異でナギサにシンクロしている存在である。

そしてアスカは岩田広一の亡き妹・岩田あすか(立川杏湖)のアイデンティカだったのである。

岩田広一は幼くして死んだ妹が成長した姿の夢を見るのだが、アスカは夢で見る妹にそっくりだった。

D-8世界 アスカの許嫁の王族ナギサ~アスカ姫
D-12世界 岩田広一~広一の妹あすか


一瞬で二人の間に生じた何かに勘づく香川みどり。異物に対する反感を募らす2年3組の生徒たち。アスカは我関せずで、授業中も自由な発言を展開する。

渡辺「このウェーブマシンの一端から波を送ると、波は他の端から反射して、戻ってくるんだね。このように1つの媒質中を進んできた波は媒質の端や、他の媒質との境界で反射する。」

アスカ「あの者は、何を説明しておる?」

典夫「波動についての初歩的な説明です。」

アスカ「説明などなくても、ここに式が書いてあるではないか。」

典夫「ここの者たちは、式を見ただけでは理解できないのです。」

アスカ「不便な者たちだ。」

源「この葛城の神こそ、さがしうしおきたれとむつかりて、物覗きの心も、冷めぬめりき。」

アスカ「そなたは源氏物語を読んだ事はあるのか?」

みどり「いいえ。」

アスカ「全文を読まずしてこんなわずかな一節だけを学習して、何か意味があるのか?」

みどり「今は源氏物語がどういうものかを習ってるの。」

アスカ「まずは読めばいい。そして興味があったら、自分の好きなようにあれこれ調べて、もっと楽しみたかったらまた読めばいいのだ。」

春日「そんな時間ないよ。私たち、受験のために勉強してるんだもん。受験が関係なかったら源氏物語なんて勉強しないし。」

源「こら! そこ静かに!」

昼休み中、昼食を取りながら典夫とアスカに対する悪口を聞いた二人は中庭を歩いていた。

アスカ「豚のようによく食べる。この世界はそんなに食料が余っているのか?」

典夫「世界的には、飢餓に苦しむ国も多くあります。」

アスカ「世界を学ぶべき場所がこれではな…。想像していたものとはだいぶ違った。見よ。この建物のありようを。まるで家畜を飼育する施設のようではないか。なんとも息苦しい。」

姫とモノリオ典夫「きっと、よいところもあるのでしょう。」

アスカ「よいところ?」

典夫「わかりませんが、ただ、皆楽しそうです。」

アスカ「いかなる環境であっても、子供達は楽しそうにしておるものだ。子供達は、戦場でも遊び場を見つけるものだ。」

典夫「はい。」

アスカ「うん。負け犬の遠吠えだな。」

典夫「はい?」

アスカ「我らの世界は滅んだのだ。我らが愚かであったがゆえに。なんとかうまくやっているこの世界の者たちを、我らが批判すること自体、愚の骨頂ではないのか。」

二人が教室に戻った瞬間、悪口が収まった。広一は二人にアドバイスをする。

広一「みんなで君たちのことシカトしてるんだよ。」

アスカ「シカト? なんだそれは?」

広一「無視してるんだ。まずいよ。このままだと君ら、このクラスで孤立しちゃう。誰も喋ってくれなくなるよ。」

アスカ「このクラスで孤立する…。それがどうした?人間はそもそも孤立した存在ではないか。それでいいのだ。ここに来る前にある程度の勉強もしたが、そなたらは同じコロニーの中で家族という単位で孤立して生きている。他人同士は会話をしないのがそなたらの社会であろう。そなたらもこのクラスで授業中に会話などしないだろう? それでいいのではないか?」

みどり「学校は友達をつくる場所だから。」

アスカ「友達とつくる場所。学校が?ここは勉強する場所ではないのか?」

みどり「それだけじゃないわ。」

アスカ「友達をつくる場所か。それは面白い。ならばなぜそなたたちは、私を無視したりして冷遇するのだ? 私はそなたらと友達になる必要はないが、そなたらの言っている事は矛盾だらけで意味不明だ。まぁよい、教師が来た。さぁ、教師よ。授業を始めよ。」


次の時間は音楽の授業で音楽室で歌っていたその時、典夫がモノリスに着信があったことを告げる。

典夫「今、D-8世界から生存信号がありました。」

アスカ「えっ?」

典夫「わずかな期待を込めて、王妃のDNAを修復データを探していたのです。今から迎えにいかないと。姫をお一人でここに置いてはいけない。一緒にお帰りいただけますか?」


頷くアスカ。授業を抜け出す二人に大谷先生は驚く。

大谷「ちょちょっと、あなたたちどこへ行くの」

典夫「祖母が危篤になり緊急手術が行われることになったのです」

大谷「・・・」

とまどうD-12世界の教師と生徒を残し、異邦人たちは去って行った。


香川みどりは混乱していた。せっかく花を届けて近づこうとしたモノリオの素っ気ない態度。

異様な関係を思わせるアスカの登場。心の平安を求めてみどりは、放課後のSF研究会部室を訪ねる。

みどり「ねえ、彼らは大丈夫かしら」

広一「大丈夫もなにも、あいつら変過ぎるだろう」

みどり「変」

広一「そうだよ。転校生の最初の言葉を覚えているか?この世界のことを勉強したいって言ったんだぜ」

みどり「それは転校してきたから」

広一「世界ってなんだよ?あいつら宇宙人かもしれない」

みどり「・・・」


広一「キャトルミューティレーションって知ってる?」

みどり「知らない。」

広一「1970年代に、アメリカで家畜が殺されて、血液や体の一部がなくなってるって事件が何度も起きたんだ。一部では宇宙人のしわざではないかって言われてる。時々思うんだよ。ニュースとか見てて。あまりにも殺人事件が多すぎる。もしかしたら俺たちの知らないところで、変なヤツがいろいろ来てるんじゃないかな?わかってんだよ。変なこと言ってんだろ? 俺。」

みどり「わかってるよ。私だって変なこと言った。山沢君は記憶喪失だって。」

広一「あまりにも変すぎるだろう、あいつら。」

みどり「でも、悪い人たちじゃないような気がするけど。帰ろっか。今みたいな話が聞きたかったの。UFOとか、そういうの。」

広一「何で? いくらでも話せるけど。ロズウェルって町知ってる?」

みどり「それは前に聞いた。」

広一「もう一つ変なこと言っていい?」

みどり「何?」

広一「前に夢の話したじゃん? 俺の妹の夢。」

みどり「ああ…。」

広一「そっくりなんだよ。あの子…九条アスカ。夢に出て来る妹に。」

みどり「え?」

顔を見合わせる幼馴染の二人だった。


D-8世界の侵略拠点となっている江原老人(ミッキー・カーチス)の部屋がある集合住宅の屋上にモノリオは待機している。やがて異次元回廊が開き、DRSプログラムの搬送者が到着する。

園田ツトム典夫「大丈夫か?」

ツトム「ゾーンを閉じろ。追手がくる。閉じるだけじゃダメだ。追尾される。フェイズを反転して、DE-DW13.5度方向のウェーブを減衰させろ!」
   「政府は、極秘で、遺伝子操作で天才的な頭脳を持った子供を量産していてね。オーファネージ18と呼ばれた、秘密組織だ。僕は、その最後の生き残りのメンバーだ。ありがとう。これ、DRSのファイル。」

典夫「ありがとう。」

ツトム「すべてオートでやってくれる。簡単だ。君の体めがけて来るから、同期させてやってくれ。君が端末になって、オペをする。」

典夫「わかった。」

ツトム「すまない。どうにも、歩くのが億劫なんだ。僕はここで待たせてもらう事はできないかい?」

典夫「わかった。何かあったら聞きにくるよ。」

ツトム「へぇ~。これがD-12世界か。空が綺麗だな。星も見えるのかい?」

搬送者は負傷しているようだった。モノリオは搬送者を屋上に残し拠点に戻った。

バイオアプリ、ヒューマノイド、マギ、そしてオーファネージ18D-8世界の文明はやや能力至上主義への傾きを感じさせる。マギに支配された現地医師の伊達坂(並樹史朗)が立ちあって王妃の手術が開始された。

オペ典夫「起動します。同期します。」

伊達坂「凄い! これがオペなのか。」

モノリオは多数のモノリスを使用して、DRSプログラムによる王妃の遺伝子再建手術を開始する。

アスカは疲労した身体を休めていた。

スズシロ「アスカ様お疲れですか」

アスカ「今日学校で私はこの世界のものたちを蔑んだ」

スズシロ「・・・」

アスカ「結局、負け惜しみだな」

スズシロ「・・・」

アスカ「この世界のものたちは低い能力しか持たぬのになんとか世界を維持している。それに比べて私たちは私たちの世界を滅亡させたのだから」

スズシロ「アスカ様、王妃様の手術は長引きそうです。お休みになられては」

アスカ「いや、私は隣の部屋の岩田広一に会ってくる」

スズシロ「・・・」

アスカ「この世界のナギサ様にな」

岩田家には広一の父・亨(高野浩幸)が帰宅していた。

付けっぱなしのテレビからは「なつかしのヒーロー特集」というバラエティーショーが流れている。

「超人バロム・1は友情のバロムクロスで変身するんですよ」

ドアのチャイムが鳴り、来訪者を妻の君子(濱田マリ)が招き入れる。

君子「広一お隣のお譲さんが訪ねてみえたわよ」

夫婦は息子に訪れた異性の訪問者に好奇心をかきたてられる。

広一は、両親にアスカを紹介した後で自分の部屋にアスカを招き入れた。

アスカ「これがあすかちゃん。」

広一「死んだのは、7歳の時だ。交通事故で。」

アスカアスカ「私に似てた?」

広一「えっ?」

広一「いや、どうだろう。似てたかな?」

アスカ「なんか似てる気がするなぁ。」

広一「でも、なんか不思議なんだけど。最近、妹の夢を見るんだ。夢の中の妹は、時々は当時のままの姿なんだけど。時々は、成長した姿で出てくるんだ。それが不思議なことに、君にそっくりなんだ。」

アスカ「へ~予知夢かな?」

広一「あんまり驚かないね。」

アスカ「私たち、運命の出会いだったりして。」

広一「さぁ、どうだろう? わかんないけど…。」

アスカ「私には、許嫁がいたの。ナギサっていうの。」

広一「許嫁?」

アスカ「でも、死んじゃった。」

広一「病気?」

アスカ「戦争。」

広一「戦争?」

アスカ「ゴリアドの紛争。知らないよね。」

広一「カナダの前にいたの?」

アスカ「カナダは嘘。ゴリアドにいたの。」

広一「ゴリアドってどこ?」

アスカ「どこだろう? JPの、ちょうどここらへん?」

広一「JP?」

アスカ「旧日本よ。」

広一「え? 旧?」

アスカ「冗談よ。SF好きなんでしょ? SF風に喋ってみました。」


「どうだ?」とオペの経過をモノリオに問うアゼガミ。

典夫「順調です。しかし・・・」

アゼガミ「なんだ」

典夫「王妃はどうして、このような酷い状態に?」

アゼガミ「プロメテウスの火をご覧になった。」

典夫「このようになるほどの距離で?その時、アゼガミ様とスズシロ様はどちらに?」

スズシロ「言うまでもない。ずっとおそばにいたさ。」

典夫「やはり。ではお二人も…。」

アゼガミ「我々のことはいい。王妃を何とか頼む。」

典夫「姫は…姫はその時どこに?」

スズシロ「姫もまた…。」

アゼガミ「だからこそ、このオペは何としてでも成功させなければならない。」

典夫「そんな大事なことをなぜ今まで黙っていたのですか!」

スズシロ「言う必要はない。あなたはただのヒューマノイドなのだから。」

典夫「ずっと申し上げておりました。モノリスのストックはもうほとんどないと。それにこのオペレーション。想像以上にモノリスの消耗が早い。補給部隊からの補充がなければ、姫のためのモノリスはもうこの地にはありません。」

アゼガミ「なんだと!?」

典夫「このオペは、姫のためにこそ行うべきものだったのではないのですか?今ここでやめれば、4つ分のモノリスを、姫のオペに使えます。ここでやめますか? ここまでで、王妃のDNAの80%以上は修復が完了しています。」

アゼガミ「そうだな。ではここでやめよう。」

典夫「DRSを停止します。」


モノリス「途中停止します。オペレーション端末のIDと、パスワードを入力してください。登録者のIDと、パスワードを入力してください。」

典夫「これは…彼か?すみません。屋上に、これをプログラムして運んでくれた園田ツトムという人物がいます。彼のパスワードとIDが必要です。」

モノリオから頼まれたスズシロは、屋上で待機している園田ツトムのところへ行く。

スズシロ「園田ツトムか?お前のIDとパスワードが必要だ。おい。園田くん・・・ 」

限界状態のままD-8世界から脱出した園田ツトムは死んでしまった。スズシロが優しく園田ツトムの瞳を閉ざした。スズシロは泣きながらオペ室に戻った。

スズシロ典夫「いかがされたのです」

スズシロ「衣類も探しましたが、見つかりませんでした。」

アゼガミ「彼自身のモノリスは?」

スズシロ「そのモノリスにアクセスする、IDとパスワードがわかりません。選択肢は、継続のみ。」

典夫「仕方ない。まずは王妃の治療を完成させましょう。」

アゼガミ「姫の命を救えないとは、なんという失態。」

典夫「オペを再開します。」

残り4つになったモノリスを前に王妃へのオペは再開された。有能なモノリオに比べて、人間である王家に忠実な侍従たちは無能だった。その頃、広一の家では・・・



アスカ「今夜この部屋に泊めていただけますか」

広一「ええっ」

アスカ「父方の祖母の手術に典夫がついているので、今晩はおじいさんと二人きりなの。とても心細くて怖い」

広一「ちょっと待って、親に聞いてみる」

事情を聞いた両親は、即答で承諾するのだった。

享「お前も一緒に寝るのか」

君子「あなた何言ってるんです」

享「冗談だよ」

広一「なに言っているんだ、変態親父」

のどかな両親に対して広一は不安を隠せなかった。部屋に戻るとアスカは目を閉じている。

広一はベッドを整える。

広一「泊っていいって」

その広一の手にアスカの手が重ねられる。

アスカ「もう少し一緒にいて。」

広一「え? あぁ…。」

アスカ「ホントによく似てる。ナギサに。」

広一「そうなんだ。」

アスカ「ナギサって呼んでいい?」

広一「あぁ…いいけど。」

アスカ「ナギサ…。」

D-12世界の夜は更けていく。みどりがモノリオが人間ではないことを知らないように、広一もアスカが余命いくばくもないことをまだ知らなかった。アスカ姫は核兵器の放射線によって遺伝子レベルで損傷し、内側から蝕まれている。

【用語解説】
オーファネージ18・・・D-8政府は、極秘裏に天才的な頭脳を持った子供を遺伝子操作で量産していた。その子供たちが暮らす施設、及び組織の名称。

DE-DW・・・次元移動をする際に方角を表す用語。Dimension East - Dimension Westの略。

JP・・・D-8世界での日本の呼称。アスカが広一に「JPは旧日本である」と説明した。

ゴリアド・・・D-8世界の王家があった場所で起こった戦争。この戦争でアスカの許嫁であるナギサが亡くなった。

第八話終わり