「舟」2012.3.11
天使は日付を踏みつけた。
裸足で、泥足で。
強く、荒々しく。
日付は問うた。
「なぜこのようなことをするのか」
「なぜ?お前のためだ」
天使は精悍なる態度で答え、そして続けた。
「私の足跡をつけよう。
お前を踏みつけることで。」
日付は恐怖し、声を荒げ、訴えた。
「私はあなたに踏みつけられるなど断じて拒む。
私は立ち、歩き、足跡を付ける。
前へ、前へと進む足跡だ。
そして私は自らの口で語り続ける。
私について。
そして訴えるのだ。
私を愛してくれと。」
天使は答える。
「なにを語るというのだ。
お前について?
お前は何者なのだ。
お前は何を知っているというのだ。
お前は何を見たというのだ。」
「私は―」
日付は言葉を失った。
「お前が何を、どれだけ語ろうと、お前の声は私には届かない。
お前は、あらゆる理解を、理性を超えているのだから。
もはや言葉などという陳腐な手段は通用しない。
だから私は、お前を踏みつける。
今日だけではない。
これからも、お前を踏み続ける。
そしていずれか、お前は私の汚れた足跡で真っ黒になるだろう。
お前は、もはやその原形を完全に失うだろう。
だがその時、
お前に刻印された、いかなる操作からも逃れた、本当の記憶の存在が、
汚い足跡にまみれた、真っ黒な塊が、
灰のように、存在の痕跡のみを語ることだろう。
確かに存在したと。」
fait date(時代を画する)ほどの重大性を持つ出来事が起きた時、
fait date(日付が生まれる)。
出来事の存在を告げるために。
霧立ち込める湖。
一隻の舟がやって来る。
渡してくれるのか?
自らの体を犠牲にして
以前と以後とに切り裂かれた私たちの生を。