昨年の12月から4ヶ月に渡って書かせて頂いた、石巻かほくさんのコラム「つつじ野」
今回は第八回目
「演奏旅行」
船旅と演奏が出来るなんて、私にとって素晴らしい機会でした。
20歳頃、ある音楽雑誌で「船上の演奏家」の記事を目にしました。
その時は「へえ、こんな仕事もあるのか」と流し読みをしていたのですが、その少し後に父の音楽仲間から「フェリーで演奏できる人を探しています」と連絡があったのです。
父も音楽の仕事をしていましたので、その相談でした。
当時は自宅の留守電にメッセージが残されていて、その役目がまさか私に回ってくるとは想像もせず。
何より私は子供の頃から乗り物酔いが酷く、いつも家族旅行ではみんなに迷惑をかけ、具合が悪くなった想い出ばかりでした。
考えた末、エレクトーンとピアノがフェリーにあって、食事も部屋もある、2泊3泊の船旅ができる!
今思えば不安よりも特別な場所に行けるという期待の方が優っていたのだと思います。
途中休み期間はあったものの、月に1回乗船する位のペースで約18年フェリーでの演奏をさせて頂きました。
穏やかな海もあれば、荒波に酔いながらという日もあり、何度も辞めようかと思った事もありましたが、優しい海や岩壁の風景が忘れられず、また乗りたいと言う気持ちで続けられました。
仙台と苫小牧を結ぶフェリーは、まさに吉田拓郎さんの「落陽」です。
定期航路とはいえラウンジやレストラン、映画館や大浴場など、豪華客船の様に充実した設備で、沢山のお客様と出逢い再会する事ができました。
演奏の仕事とは言ってもずっと演奏している訳ではないので、船内生活や共演者と北海道をドライブしたり、楽しませてもらいました。
印象的だったのはお客様から「タイタニックのテーマが聴きたい」とリクエストを頂いた時の事です。
2020年1月25日(土)
石巻かほく「つつじ野」掲載より