市民ランナーが新星に躍り出た。

27日の東京マラソンで、

埼玉県立春日部高校の定時制で事務職を務める

川内優輝(23)=埼玉陸協=が

2時間8分37秒で日本人トップの3位。

世界選手権(8月開幕、大邱=韓国)代表に決まった。

公務員が果たした大仕事は、

実業団主導の男子マラソン界に大きな衝撃を与えた。

(産経新聞)

 ゴールテープを切った直後、

川内は立ち上がる力も残っていなかった。

「勝ったのはうれしかったんですが…。

すぐに医務室行きでした」と苦笑い。

42・195キロで精根尽き果て、約1時間の休養が必要だった。

 39キロ過ぎで日本人トップだった

尾田賢典(30)=トヨタ自動車=をとらえて豪快に抜き去った。

「レースでは負けたくないんです。

死んでもいいという思いで走りますから」。その執念はすさまじい。

 自らを「落ちこぼれ」と評す。

埼玉の春日部東高時代は故障がちで全国大会の経験はない。

進学した学習院大でも陸上部での箱根駅伝出場はなく、

個人として関東学生陸上競技連盟選抜(学連選抜)チームのメンバーに選ばれ、

2度走るにとどまった。公務員試験が始まった時期に、

実業団からの誘いを受けたが、きっぱりと断ってもいる。

 この日は

全国都道府県対抗駅伝で埼玉県代表に選出された際に

支給されたユニホームを着て走った。シューズも遠征費も自前。

勤務は午後零時45分から同9時15分。

毎日の練習は午前中に1回で、月間走行距離も600キロ程度と少なく、

3部練習も行う実業団とは対照的だ。

 強烈な自負はある。

「実業団には負けたくない。お金をもらわず、(私は)払って陸上をしている」。

高校3年の時に亡くなった父の葦生(あしお)さんは、

深夜に帰宅しても入念にマッサージをしてくれた。

そうした多くの支えに感謝を込めて走っている。

 日本陸連の坂口泰・男子マラソン部長は賛辞を惜しまなかった。

「実業団の選手はショックでしょう」。

社会人になって5千メートルからフルマラソンまでの自己記録を更新した新鋭は

「(自分でも)どこまで伸びるか楽しみです」。

この夏、市民ランナーの星が世界の舞台に挑む。