やすらぎに満ちた礼拝堂の中に、一面だけ怖い絵がありました・・・
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写真1、2(↓):礼拝堂の会衆席の背後の壁画
1から14まで番号が付けられたこの異様な連作絵画は一体何だろう・・・
これは「十字架の道行(キリストの受難)」の14場面を描いたものだそうです・・・
ピラトに死を宣告され、自ら十字架を背負ってゴルゴタの丘を登り、十字架に釘付けにされ、そこで息をひきとり、十字架から降ろされ、埋葬されるまでを描いたものだそうです。
マティスはその道行の過酷さを表現するために、修正のきかない一発勝負で、敢えて荒々しく描いたとのこと。
この絵の中で特に怖かったのは6番(写真2)で、旗のようなものに顔が描かれていて、とても怖い目をしてこちらを睨んでいるのです・・・
そこで、6番とはどのような場面かを調べてみると、「イエス、ヴェロニカより布を受け取る」場面であるという。
ヴェロニカは十字架を背負ってゴルゴダの丘に向かうキリストを憐れみ、顔の汗を拭くための亜麻布を差し出した。
キリストは彼女の申し出を受けて顔の汗を拭き、布をヴェロニカに返した。
すると、奇跡が起こり、布にはキリストの顔が浮かび上がったのである。
この伝承から、ヴェロニカは聖ヴェロニカとなり、その布は聖顔布と呼ばれるようになったとのこと・・・
ということは、あの怖い目はキリストの目だったのか・・・
そこで、ふと、琵琶湖畔の渡岸寺の十一面観音のことを思い出した・・・
柔和な観音像の後に回ると、恐ろしく悪そうな一面、すなわち暴悪大笑面が彫られていて、ぞっとしたことがあったからです・・・(下にリンクあり)
また、2018年に東京で開催されたジョルジュ・ルオー展で、とても澄んで美しい目をした聖ヴェロニカ像を見たことも思い出しました・・・(下にリンクあり)
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写真3(↓):十字架の道行と反対側に位置する祭壇とステンドグラス「生命の木」
マティスはロザリオ礼拝堂について次のような言葉を残しているそうです・・・
「私が模索をしながら歩み続ける道程の終着点において、運命の方から私を選んでくれた仕事であり、この礼拝堂が私の模索を一箇所にまとめて留める機会を私に与えてくれた」
建築、ステンドグラス、壁画、家具、十字架まですべてマティスのデザインで、礼拝堂自体が総合芸術となっており、完成のために無償で協力したどころか、むしろ自作を売って資金をまかなったそうです。
すなわち、これがマティスのculmination(集大成)となったわけで、それは報酬とは別次元の仕事だったことがわかりました・・・