離島の基地化

 

 

 

 中国との対立が深刻化する状況で、台湾有事を想定した軍事基地の建設が進む鹿児島県馬毛島。
 日米一体化が進む現実に住民は納得しているのだろうか? 
 
●馬毛島の軍事基地化
 総工費約1兆円を投じた巨大な自衛隊基地建設が進み、滑走路の造成工事が着々と進む。
 ここではアメリカ軍も空母艦載用の陸上離発着訓練を行う予定だ。
 
 馬毛島はトビウオやシマアジが豊富で宝の島とも呼ばれており、魚がいっぱい取れていた。
 
 1970年代、日米両政府は島を離着陸訓練の候補地に選定。
 2019年、国は地権者から160億円で買収し、島の99%を管理化に置いた。
 軍事基地化は周辺の島々にまで影響を及ぼした。
 
●激変する生活
 馬毛島の対岸の種子島の様相は一変。漁師の多くは漁をやめ、基地建設関係者を馬毛島に運ぶため、海上タクシーに変わった。
 
 輸送を担当する漁協の関係者は、経費を差し引き10日で約60万円の収入になった。
 魚がいない日に漁にいっても赤字なので、船を持つ人の80%は工事の仕事で安定している。
 
 2023年、政府は種子島漁協に対し22億円の補償と引き換えに、漁協の一部放棄を要求。漁協側は政府案をのんだ。
 
●住民の思い
 基地受け入れを推進してきた島民は国からの交付金を活用して種子島を活性化したいという期待があった。
 
 だが、種子島に再編交付金が交付されて2年たつが、恩恵をうけたのは特定の島民に偏り、地元集落の活性化にはほど遠い。
 
 島民の不満は地元行政のトップである西之島八坂俊輔市長に向けられている。
 当初、馬毛島基地計画に反対を訴えていたが、市長就任後はその立場を変え、賛否の明言を避けるようになった。
 
 市長は、対立している相手とも、普段は農作業や漁業で仲良くやっているので、この問題で混乱させたくないと話す。
 
武器輸出解禁
 3月、日本政府は英・伊と共同開発中の次期戦闘機の第三国輸出解禁を国会議論を尽くさないまま決定した。
 
 憲法で定められた平和主義で武器輸出を激しく制限してきた日本が殺傷能力がきわめて高い兵器の輸出を決め、憲法の理念は失われた。
 
 1967年、佐藤政権時に武器輸出三原則を決定し、共産圏や紛争当事国への輸出を慎むと決定した。
 
 だが、2014年の第二次安倍政権でこの原則の例外作りや基準緩和を行い、原則を変えて「防衛装備移転三原則」で条件つき輸出を解禁した。
 
 相次ぐ安全保障の大転換に対し、専門家は
「その根拠の説明が果たされていない」と指摘する。
 
 米国も日本も「一つの中国」論をとっているはずなので、仮に台湾有事になっても、それは中国の国内問題なはずだ。日本はもちろん米国でさえ武力介入の根拠は全くないはずだ。
 
●憲法の理念
 国会論議を尽くさずに与党協議と閣議決定だけで決めるあり方は憲法の精神に反する。
 国民全体の利害に係わる国政上の重要な問題は国会の慎重な審議を経て、決定しなくてはならない。
 
 最終的に多数決で決めるので、同じことではないかと考える人もいるかもしないが、国会議員は国民の選挙で選ばれている。国民が納得いくかどうか、その説明が問われているので蔑ろにしてはいけない。
 
 今年4月10日、日米首脳会談で、中国を念頭に自衛隊と米軍の一体化、指揮統制の連携強化も明らかになった。
 
 国際秩序のどこをどう守れば他国との共同での武力行使が可能になるのか、憲法から見てそうした結論が出てくる余地はない。
 
●議論を尽くす
 日本の安全保障について、閣議決定だけでなく、国会での議論と国民への充分な説明が必要だ。
 平和主義の逸脱という状況をどう考えるのか。
 
 軍拡がさらなる軍拡に繋がるという歴史がある。そういう歴史に逆行してしまうのか、そんな分岐点になっているのではないか。
 
 基地建設受け入れと交付金はアメとムチで、これまで沖縄で見てきた構図と同じだ。小さなコミュニティが軍事基地という大きな負担を抱えることで軋みが生じている。
 
 日本全体で基地負担や強化が進んでいるが、その事は充分に理解されているのか。
 なぜ、基地が必要なのか、そのリスクは何なのか深く議論し、住民も国民も納得する必要がある。