食の未来

 

 

 

 食料危機に長く苦しんできた人類には、生存のために「食べる」という遺伝子が組み込まれている。
 だが、今、80億人の食を満たす追求が地球環境に負荷を与え、生物多様性を失う事態を招いている。
 
●食の単一化
 この100年で、人間はトウモロコシに依存するようになった。
 
 トウモロコシから「超加工」された異性化液糖がジュースなどの甘味料に、同じ由来の加工デンプンが、劣化しにくく保水力を維持する効果から麺などに使われている。また、低温でも甘みを感じやすい性質は食欲をそそる。
 
 ハンガーガー、チキンナゲットなどコンビニで手にする物の大半が、トウモロコシ由来の加工食品から出来ている。
 
 また、家畜の餌もトウモロコシや大豆などが与えられ、超加工食品以外からも人々の身体にトウモロコシが投入されている。
 
 こうして、人間は80億の食を支えるために、食の単一化によって食料を生み出す技術を発展させてきた。
 
●農地が4割に
 だが、膨大なトウモロコシや大豆を生産するために、農地の拡大が進んだ。
 
 例えば、ブラジルでは年間1億5000万トンの大豆が生産され、世界の消費量の4割を占める。
 
 膨張する食料事情を補うため、1970年代、耕作不敵地とされてきたブラジル中央にある草原セラードが切り開かれ、この50年で半分が耕作地になった。
 
 こうした農地開発は、アマゾンだけでなく世界各地で進み、1700年からの約300年でその面積は約8倍にまで拡大した。
 
 多様な生物のなかの1種でしかない人間の食のために地球全体の4割が農地として使われている。
 
●環境破壊
 セラードはアマゾンの熱帯雨林が生み出す雨を取り込む貴重な水源地。3千種以上の動物が生息する生物多様性の宝庫だ。
 
 だが、開発のスピードが早く、環境破壊が進む。
 この20年でセラードの川の水量は14%も減少。セラードが失われると、膨大な生物種が失われ、土地の保水力も維持出来なくなり、砂漠化が進む。
 
 対策は、土地の保護(耕作地を森林に戻す、自然保護区の拡大)をして、自然を守っていくことで、一定の水準の生物多様性が維持できる。
 
●変わる農業
 かつては中小規模の農業経営が身近に存在し、肥料も近くで調達でき、身の回りで「食」が調達できていた。つまり、住む土地で生産・消費が行われ、物質が循環していた。
 
 だが、アメリカが機械化に成功して化学肥料を使って、生産力を向上させていくと、それをヨーロッパに輸出できるようになった。栄養豊富な食品が安価で大量に手に入る時代になった。
 
 こうして新しい技術が出来て、便利になればなるほど、食べている自分との距離が離れ、食べ物への感覚が失われる。「食の分業化」が進む。
 
●欲との戦い
 人間が持っている食に対する本能と企業の利益追求によって、環境破壊が進み、生物多様性が失われる。
 
 人間の食べる欲求を満たしながら、地球環境を出来るだけ保全していく、バランスの取れた方法を模索していく必要がある。
 過去の人類の叡知から学んで、より持続可能な技術を開発していくことが、人類に残された可能性だ。