日本の海の異変

 

 

 

   近年、日本の近海で取れる魚が減り、種類も変わってきている。
   その現状が最近の調査と研究で明らかになってきた。
   
●ブランド漁
   日本の漁港にはそれぞれの地域で、全国的に知られるような特産品がある。
   それらのいずれもが10年前に比較して、急激に漁獲高が落ちている。
   
   新巻き鮭で有名な岩手県のサケ。多い時は1日1万本以上だったが、今は2~3千本。取れない日は4匹ということもあり、経費も出ないと漁師は嘆く。
   実際、漁獲量は2014年の15,331トンから2023年は96トンと99%の減少だ。
   今後、漁師を続けていけるか危機感を持っているという。
   
   同様に、人気ブランド魚「関さば」も、2013年137トンから2022年は22トンと83%の減少だ。
   
   下関のトラフグ、北海道のスルメイカやサンマ、静岡県の春の味覚シラスなど、10年前に比較して、いずれも7~8割の減少となっている。
   
●黒潮大蛇行
   その要因は地球温暖化がきっかけで起こる黒潮大蛇行だ。
   
   黒潮の暖かい流れに乗って、多くの魚は北上していた。だが、紀伊半島では黒潮大蛇行により暖かい流れから大きく離れてしまったため、伊勢エビが取れなくなった。
   
   一方、冷たい水(親潮)を好むサンマは大蛇行する黒潮の流れにブロックされて下りてこられなくなった。
   
   こうした大蛇行による不漁は2017年頃から見られている。
   
   水温が下がらない状況が続くと、海藻が育たず、アワビなどの貝類や魚も減ってしまう。
   
●海水温の上昇
   世界の海の水温は100年あたりで約0.61度上昇しているが、日本近海は約1.28度。世界の約2倍上がっている。
   そのため、南方の魚が取れるなどの異変が起きている。
   
   魚の生態系を研究する京都大学・益田玲爾教授は、京都府舞鶴市で潜水調査により、その実態を明らかにした。真冬にしか見られないクロダイや亜熱帯にいるような生物が多く見られるようになったという。
   
   また、東京湾でも異変が見られる。
   5年くらい前から南方系のサンゴの群生が増えて拡大。南の魚が越冬する季節外遊魚が増えている。
   
   サンゴは1年に平均14キロ北上している。一方で、海藻は減っているという。
   
●環境DNA
   環境DNAは魚の痕跡を探る新しい調査方法だ。
   
   水深15メートルの海水を集め、魚のフンやウロコを抽出し、その生物のDNAを調べことで、その魚の種類や由来がわかる。
   その結果、南三陸で、九州や沖縄などで見られるDNAが検出されたり、鹿児島のクロダイや高知のマダイなどのDNAが神奈川の相模湾で検出されるようになっている。
   
   環境DNAの良い点は、実際に潜水しなくても、水の中のDNAで種類がわかるので、地元のダイバーからの情報を突き合わせて、より精緻な魚分布が把握できることだ。
   
●海洋酸性化
   一方、海が本来の弱アルカリ性から酸性へと近づく現象もみられる。
   これはCO2排出増加に伴い、海が吸収するCO2が増え、急激に海が酸性化しているためだ。
   
   例えば、サンゴ。骨格は炭酸カルシウムだが、酸性化すると、炭酸カルシウムが作られず、成長しづらくなる。
   
   多くの魚のエサになるプランクトンも同様で、酸性化により低密度で病気にかかりやすくなる。
   
   プランクトンの減少は海の食物連鎖に大きく影響する。現実にプランクトンを食べるサンマやニシンの漁獲が減っている。とくに北の冷たい水に棲んでいる生物ほど酸性化の影響を受ける。
   
●私たちは
   2015年のパリ協定で、世界共通の温室効果ガス排出量削減に関する目標が示され、産業革命以前と比較して気温上昇を1.5度に抑えることが提唱された。
   
   日本人が1年間に排出するCO2は8.48トンだ。
   今後、この排出量を抑えるために、私たち自身が、衣食住を含めて生活を見直し、対応できる事は、柔軟かつ適切にやっていかなければならないと、強く感じた。