変わる仕事観

 

 

 

   4月から新しく仕事を始めた社会人はかつてない賃上げの恩恵を受けたようだ。
   だが、その若者たちの仕事観は大きく変わっている。
   
●バブル崩壊
   1990年代のバブル崩壊は終身雇用が当たり前だった日本の企業風土を一変させた。
   若者たちにとって厳しい就職氷河期の到来。
   終身雇用を続けてきた企業にもリストラの波が押し寄せ、厳しい経営環境のなか、そのしわ寄せは若い世代に及んだ。
   
   その事が具体的に表れたのが、給与の年功序列だ。
   若者層の給与水準は他の年齢層と比較して、バブル崩壊前より下がっている。
   
   バブル崩壊以前の1989年から2009年の20年の年齢別賃金をみると、20年前は年齢が上がるほど給与が右肩上がりを示し、年功序列賃金は維持された。
   ところが、2007~2008年には、40歳過ぎから賃金カーブが緩やかになり、その後の給与はほとんど上がっていない。
   
   20年間でみても、新人の給与を「1」とした場合、中高年齢は50%前後と大きな変化がないのに対し、20~34歳は1989年に60%、2089年には44%に下がっている。
   
   このあたりから、年功序列が崩壊していることがわかる。
   
●ブラック企業
   激しい経営状況を乗り切るために、企業は人件費を削って利益を確保するようになった。
   非正規雇用は働き手の4割。フリーランスも増えた。
   
   その結果、生まれたのがブラック企業だ。
   残業代も出ず、長時間労働を強いられる。過酷な勤務が原因で自殺者まで出て、大きな社会問題となった。
   
   この状況を是正するため、2016年政府は「働き方改革」を提唱。
   時間外労働の減少、パワハラ防止など、労働環境は改善された。
   
●予想外の事態
   ところが、今や終身雇用を前提と考えない若者が増えている。
   「終身雇用を期待していますか」のアンケート(34歳以下のサイトユーザー対象)に、
   「期待していない」 83%
   「期待している」  17%
   
   さら大卒社員(大手企業)で3年以内に離職した人は、2009年は入社の5人に1人だったのに対し、働き方改革以降の2022年入社では3人に1人だ(厚生労働省)。
   
   また、転職サイトの登録者数は20年前に比べて30倍に拡大した。
   
●成長実感
   職場環境が改善されたのに、反比例するように離職や転職を希望する若者が増えたのはなぜか?
   
   背景にはキャリア不安がある。
   これまでは大きな会社や有名な会社に入れば、安定した人生が送れた。今はスキルや経験を身につけて職業人生を乗り越え、「成長実感」を得たいと考えるようになった。
   
   一方、想像していたものよりも物足りない。不満はないけど不安がある。こうしたものが積もり積もって転職した方がいいんじゃないかと考えるようになった。
   
   街の若者たちは
「自分がもっと成長したい」
「今後のキャリアとか心配な面も出てくるので、転職で経験を積んでいきたい」
   など、転職も人生の選択肢の一つと考えているようだ。
   
   もちろん、転職にも大きなメリットがある。
   ①新しいことに挑戦できる、②独立や起業が出来る、③プライベートを重視できるなど、若者にとって新しい可能性を広げるチャンスだ。
   
   そういう時代状況に合わせて会社も変わっていかなくてはならない。
   
●時代は変わる
   「企業は人なり」
   この言葉に象徴されるように、日本は企業が人を育ててきた。この強みが日本企業をかつての力強さに押し上げた時代があった。
   だが、今、企業が若者を育てる力が弱まっている。
   
   次世代を担う若者たちをどうやって誰が育てていくのか。
   個別企業だけでなく社会全体で追求していくべき課題だ。