歴史的賃上げの効果

 

 

 

   今年は昨年に続き、大手では大幅な賃上げが実現した。
   その流れは中小企業にまで波及するのか。その効果は日本経済にどのような影響を及ぼすのだろうか?
   
●満額回答
   今年の春闘は、13日、大手企業の集中回答日を迎えた。
   
   昨年を上回る労働組合側からの賃上げ要求に対し、経営側からは満額回答が相次いだ。
   日本製鉄など一部メーカーでは「満額回答超え」も出た。
   
   労働組合の中央組織・連合は、初回集計で賃上げ率は定期昇給込みで5.28%と発表。昨年実績3%を上回る目標として連合が掲げた「5%以上」に届き、労使共闘による歴史的賃上げとなった。
   
   その背景には、①深刻な人手不足と、②好調な企業業績がある。
   
   大手企業の業績は過去最高水準が続いており、経営側がこの水準の賃上げに応じるのは当然の流れだろう。
   
   だが、海外から波及するインフレの影響で、物価上昇分を差し引いた1人当たりの実質賃金は、1月まで22ヶ月前年割れで、購買力は低下している。
   
   GDPの半分以上を占める個人消費は23年10~12月期まで、3期連続となり、物価高が影を落としている。
   消費者物価指数は2024年度も2%台前半の上昇が見込まれている。
   
   実質賃金をしっかりと増加に転じさせ、幅広い働き手の生活を改善する賃上げが必要だ。
   
●中小企業
   今後は賃上げの流れが、日本全体の従業員数の約7割を占めるといわれる中小企業に波及するかが注目だ。
   
   もともと経営体力が乏しい状態で、原材料費の高騰が加わり、厳しい経営を迫られる中小企業にとって、人材確保は必須の課題だ。
   
   賃上げの実現には人件費を含めた適正な価格転嫁が欠かせない。
   だが、調査(東京商工リサーチインターネット、2024年12月)によると、54%の企業が「コスト増加分を十分に価格転嫁できない」と回答。厳しい現実に直面している。
   
   発注側の大手企業が自社だけでなく、取引先の中小企業の環境を整えることが重要だ。
   
●非正規雇用
   労働者のうち、労組に加入するのは2割以下だ。春闘の恩恵を受けられるのはきわめて限られる。労組のない企業や、正社員中心の労組ということもある。
   
   働き手の約4割を占めるといわれる非正規雇用の賃上げはどうなっているのか?
   
   昨年、パートやアルバイトなどの非正規雇用者が個人で加入する労組(ユニオン)が「非正規春闘」を掲げて、各社一律10%の賃上げを求めたが、要求はかなわなかった。
   今年もほとんど組合が「10%以上」の賃上げを要求している。
   
   物価高の影響を一番受けるのは、賃金水準が低い非正規雇用の人たちだ。
   
   一方、春闘に先駆けて、賃上げを実施した会社もある。
   イオンはパートの時給を約7%引き上げる予定だ。ほかにも、旅館、アパレル、飲食店などで、経費の見直しやSNSの活用で売上げを伸ばし、賃上げにつなげた会社もある。
   
●日銀利下げで
   今回の満額回答の背景には、少子高齢化を迎え、深刻化する人手不足がある。人材確保に賃上げが欠かせなくなり、労使共闘となった。
   
   そんな状況で、日銀は、今春闘での高い賃上げ率を評価。物価上昇率2%の目標実現が見通せる状況になったとして、19日、11年間継続してきたマイナス金利解除を決定し、17年ぶりの利上げに踏み切った。
   
   これにより、賃上げと物価上昇が続く「好循環」が生まれるのか。
   賃上げの流れに水をさすことにならないか。
   
   いずれにしても、国民の暮らしが少しでも良くなる方向に向かうことを願いたい。