韓国の超少子化
 

 

 

   先月27日、日本の出生数が75.8万人と8年連続で過去最小となったことが発表された。
   韓国でも、日本を上回る超少子化が加速している。その現実と背景には何があるのか?
   
●出生率0.72
   韓国の2023年の合計出生率(1人の女性が生涯に産む見込みの子どもの数)は0.72。
   日本は1.62。一方、OECD諸国の平均は1.58。
   韓国では世界的にも異例の「超少子化」が続いている。
   
●晩婚化
   少子化の背景には様々な要因が指摘されている。長時間労働による子育てと仕事の両立の難しさや子育ての負担の女性への偏りなどは日本とも重なる。
   
   初婚年齢の平均は男女とも30歳を超えており、晩婚化が進んだことも一因だ。
   
●教育費
   韓国では日本以上といわれる学歴社会だ。負担の大きい教育費も少子化を加速させている。
   
   実際、在学者1人当たりの学校教育費(初等~高等教育まで含む)を比較すると、日本が51,844ドルに対し、韓国は58,634ドルと日本を上回る。
   
   ソウル出身の韓国の女性(39歳)は、教育費のあまりの高さに韓国脱出を決めた。
   脱出の決め手は「塾づけ生活からの解放」だ。
   現在は都内でインターナショナルスクールに通っているが、費用は約11万円で「韓国の習い事や塾の費用と大差ない」という。
   
   韓国はソウルの有名大学を出て、大企業に入ることが「成功」という価値観が根強く、狭き門を目指す親にもプレッシャーがかかる。「勝ち抜ける」子どもに育てないと「子育てをきちんとできない母親のレッテルを貼られるという。
   
   日本でも理想の子どもの数をもたない理由として「子育てにお金がかかりすぎる」との回答が52.6%にのぼった(国立社会保障・人口問題研究所)。
   
   教育費の負担の大きさは日韓共通だ。
   
●住宅事情
   日本より厳しい受験戦争がある韓国では、有名大学が集まる首都ソウルに全人口の半数が集中する。
   
   そのため、ソウルのマンションは1億円を超えるほど急騰。4年間で約2倍だ。
   その上、多額の教育費(月約5~10万円)がかかるため、「子どもを生まない」選択をする人の増加につながっている
   。
   実際、出生率を地域別でみると、ソウルが0.55、第二の都市・釜山は0.66などと、大都市部でとくに低かった。
   
●将来への不安
   韓国の少子化対策として、2006年以降、多額の予算を組み、約42兆円を投入してきている。
   
   だが、若い世代にとってその「出産圧力」は必ずしも歓迎されてはいない。
   
   将来への不安から、結婚しない若者が増えており、30歳代の未婚率は42.5%(日本は38.5%)、青年世代(20~34歳)でみると、8割にのぼる。
   
   また、将来、結婚した方が良いと思う人も近年減少しつつあり、30歳代は男女とも2008年に比較すると、約30%減っている。
   
   これは若い世代にとって、生きづらい社会になっていることの反映だろう。
   
●意識の変化
   子どもを1人でも生めば、「愛国者」といわれる韓国で、あえて非婚を選択する人も増えている。
   韓国社会への失望から、自分の意志で結婚しないことを選ぶ「非婚主義」という言葉も定着しつある。
   
   とくに女性で競争社会を勝ち抜き、キャリアを積んだ女性でこの傾向は強い。
   親戚づきあいが密接な韓国では、夫と同居するケースが少なくなく、「嫁」の立場で雑用を押しつけられることもある。
   
   女性の社会進出が当たり前になってきた韓国の女性にとって、結婚が自身の人生にプラスと思える環境が作られない限り、こうした傾向は続くだろう。
   
   「結婚して子どもを持つ必要がない」と考える割合は、2020年時点で53.5%と半数を超えている。
   
●日韓の課題
   子どもを生むかかどうかは個人の選択だが、どんな選択をしても、一人一人が将来に希望をもち、安心して暮らせる社会を作らなければ、出生率低下に歯止めはかからないだろう。
   
   少子化を考えることは、働く環境、ジェンダー平等、個々の多様な生き方の尊重など、社会のあり方を問い直す良い機会だ。
   日本も韓国も向き合う課題は共通している。それぞれの良い点を取り入れて、課題に向けて少しでも前に進めることが重要だ。