抗菌薬に対する誤解

 

 

 

   細菌や感染症の治療には抗菌薬(抗生物質)は不可欠だ。
   だが、かぜなどのウイルスには効かない。
   どうも抗菌薬に対する思い込みが大きいようだ。
   
●ウイルスには効かない
   通常のかぜ(感冒)はライノウイルスなどのウイルスで発症する。
   新型コロナ感染症、インフルエンザ、代表的な「夏かぜ」のヘルパンギーナやプール熱(咽頭結膜炎)もウイルスが原因だ。
   
   抗菌薬はウイルスには効かない。
   逆に使用すれば、その分副作用のリスクを負うことになる。また、薬が効きにくい耐性菌が生まれる恐れもある。
   
●思い違い
   にもかかわらず、抗菌薬を求める患者や抗菌薬を処方されたと思っている患者が多いことが明らかとなった。
   
   「国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファランスセンター」が、2月、3月に調査した結果。
   調査対象は、発熱やのどの痛み、せき、鼻水などのかぜ症状で受診して、処方箋が確認できた成人400人。
   このうち、19%の人に抗菌薬が処方されていた。
   
   だが、実際に抗菌薬が処方されていないのに、「処方されたと思う」と答えた人は32%。つまり、3人に1人は思い違いをしていたことになる。
   
●知識の差
   一方、受診した人の39%が抗菌薬の処方を希望していて、希望しない人(24%)を上回っていた。
   
   希望する人としない人では、抗菌薬について、知識の差が見られたという。
   
   抗菌薬を飲むと、「かぜが早く治る」「熱を下げる」「のどの痛みに効く」「鼻水が止まる」など。
   これらの説明はすべて正しくないが、希望した人はこれらは「正しい」と答えた割合が、希望しなかった人に比べて2~3倍高かったという。
   
   結局、かぜの場合、抗菌薬を飲もうが飲むまいが、通常のかぜなら大抵3日くらいで症状のピークを過ぎる。
   この時、医師から処方された抗菌薬ではない別の薬を抗菌薬だと思い込んで飲んでいれば、患者は「抗菌薬が効いた」と受け止めてもおかしくない。
   
   そして、かぜになると、また抗菌薬を求めるという誤解の連鎖につながっている。
   
●医師の対応
   日本化学療法学会と日本感染症学会の合同委員会は、全国の診療所を対象に、感冒と診断した患者や家族が抗菌薬を希望したときの医師の対応を調査(昨年実施)。
   
   回答した医師380人のうち、7%は「希望通りに処方する」。さらに、51%は「説明しても納得しなければ処方する」と答え、合わせると約6割が最終的に希望に応じていた。
   
   二つの調査にあたった藤友結実子医師は、
「かぜで抗菌薬を希望する人の中には『自分には効く』『前に使ったときは効いた』と思っている人もいる。そうした人に抗菌薬は不要だと納得してもらうには説明に時間がかかるし、対応が難しい」

●正しい知識で
   抗菌薬は多用すると、耐性菌が出来て、いざという時に効かなくなる恐れがある。
   
   それは、患者本人にとってデメリットになるだけでない。菌自体が生き残りのために、どんどん多様化し、強靱化していくため、それに対応した新たな強力な抗菌薬の開発に迫られ、同時にそれは患者の体にも相当な負担になる可能性がある。
   
   かぜにかかった時、それがウイルス性か細菌性か、きちんと診断を受け、適正な処方をもらうように正しい知識を身につける必要がある。
   
   前述の藤友医師によると、細菌性による症状は
「鼻なら鼻だけ、のどならのどだけと、局所的だ」「これらの症状が同時にあればウイルス性が原因と考えて問題ない」という

   こうした点を頭に入れて、かぜ症状が出た時に、誤りのない対応をしていきたい。