街路樹の価値
中古車販売大手ビッグモータの店舗前の街路樹が枯れたり、切られたりしていたことが相次いで発覚。
今まであまり関心がもたれなかった街路樹。近年は減少傾向にあるが、専門家は「転換期にきている」と話す。どういう事なのか。
●多様な価値
街路樹のメリットは景観の向上はもちろん、樹木の葉が太陽の日射しを遮り、ヒートアイランド現象に歯止めをかける役割を果たしている。
また、二酸化炭素や汚染物質を吸収する作用があるため、都市の大気汚染防止に役立つ。火事の延焼を防ぐなど、防災効果もある。
さらに、鳥たちの棲み家となっているので、生物多様性の確保や人と生物との触れ合いの場にもなっている。
環境省でもその役割に注目し、国立公園以外の空間を長期的に保全エリアとして残していく取り組みを進めている。その事例の一つが街路樹を含む都市緑化だ。
さらに最近では、街路樹の健康面での効果も確認されている。
住宅地の緑被率が高いと、うつ病の発症率が低下する傾向があり、住人の幸福度を高めることがある(2020年、東京大のチーム発表)。
●弊害も
一方で、街路樹に悩まされるケースも少なくない。
秋になると大量の落ち葉が出るが、それがムクドリなどの野鳥のねぐらになることがある。騒音やふん害の原因にもなる。
また、台風などによる倒木や枝の落下という危険もある。
そのため、街路樹はこの20年で約50万本も減少している。
国土交通省の調査では、2002年がピーク。その後、道路は延びているのに、街路樹は減少(679万本⇒629万本)。
報告書(わが国の街路樹)では、道路上の制限以上に成長してしまう、あるいは交通への影響から、伐採や撤去が進んだことが原因ではないかとみている。
我が家の近くの遊歩道でも、ここに越してきてから、随分たくさんの木が伐採された。日当たり、落ち葉、老木など、いろいろ理由はあると思うが、夏の暑さで、遮るものがないのは辛いと、つくづく思う。
●転換期
街路樹を研究している京都府立大の福井亘教授は
「地球温暖化対策として、道路緑化の推進は重要」としながらも、
「街路樹を増やしていくという意識が高度成長以降ずっとあったが、いま、転換期にきている」と指摘。
●樹木の価値
それでは、今後どのようにしていけば良いのだろうか?
米国では樹木の価値を推定できる「アイツリー・エコ」というシステムが開発された。
大気の浄化作用や雨水の量など、どのくらいのメリットがあるかを、資産価値として推定できる。
●医療費抑制?
大阪府吹田市内の街路樹8796本を対象に、大阪産業大の川口将武準教授が2021年に公表した研究結果。
樹木が吸収するCO2量は1377トン、金額で2847万円。
光合成によって1年間で固定する炭素は90トン、金額で186万円。
PM2.5やオゾンなどの汚染物質を年間961トン除去。
こうした汚染物質はぜんそくや頭痛を起こし、人々の健康に悪影響を及ぼす。
街路樹による医療費削減は、1年間で1158万円になることがわかった。
さらに、雨水流出の役割を果たしている街路樹がなくなると、復元は7億7千万円を超えるという。
驚くべき金額だ。
具体的数値で示すことで、街路樹の現状の価値が把握できる。
●量から質へ
前述の川口さんは、街路樹は量を増やす時代から、質を求める時代にしていくべきだと言う。
維持管理費がかかっても、街路樹には大きな資産価値がある。
だが、地域により、住民の生活状況により、どこにどのくらいの規模で緑化するかは、事情が異なるだろう。地域の特性(寒冷地と温暖地)もある。
実際、木の種類によっても、価値が異なる。
排ガスに強い木として選ばれたイチョウは、今でも多いが、最近は、ハナミズキが人気だという。理由は「花がきれいで大きくならず、葉の量が少ないから」だそうだ。
今後、街路樹の価値について、功罪含めつつ見極めながら、地域ごとの具体的な伐採・植栽計画をたてていく必要があるだろう。