ドイツの頑固さ

 

 

   15日、ドイツは最後の原発3基の稼働を終え、60年以上続いた原発の歴史に終止符をうった。
   反対の声も上がるなか、ドイツ政府は初志貫徹した。
   
●脱原発への転換
   ドイツの脱原発を決定づけたのは、福島第一原発事故だ。
   
   2011年6月、当時のメルケル首相は、稼働していた国内17基の原発を2022年末までにすべて止める方針を決めた。
   
   これに従って、原子力発電所の数を徐々に減らしてきた。
   ロシアのウクライナ侵攻を受けたエネルギー供給の不安などから、稼働期間を今年4月15日まで延長していたが、最後の3基も、停止の日を迎えた。
   
●世論は反対?
   停止を歓迎するセレモニーを行う国民がいる一方で、原発推進派は抗議の集会を開いた。
「原子力が石炭など化石燃料に置き換えられ、二酸化炭素で大気を汚染してしまう」

   とくに、ウクライナ侵攻以降は、国民の意識にも変化が表れた。
   
   電力需給が逼迫して、電気代やガス代が高騰し、生活に直接影響してくるようになり、原発利用の延長を支持する割合が多くなった。
   昨年4月の調査
    延長に賛成 59%、  反対  30%
   
   また、政権内部でも、停止に反対する声が上がる。
   ショルツ首相は、連立を組む脱原発を悲願とする「緑の党」の意向を汲んだとされる。だが、首相の出身党内からは、絶対反対の声も根強い。
   
●問題山積
   さらに、原発停止後の後始末の問題がある。
   
   1960年の原発稼働以来、ドイツで廃炉を終えたのは、わずか3基のみ。
   今後、30基超の廃炉作業が必要だ。
   
   今回廃止した原発を含め、廃炉には少なくとも10~15年はかかる見通しだ。
   
   さらに、高レベル放射性廃棄物の最終処分場は、決まっていない。政府委員会の報告書では、廃炉や放射性廃棄物の処分などに、7兆円の費用がかかると試算されている。
   
   「脱原発」を進めるドイツにとって悩ましいのは、エネルギーの約10%を輸入に頼っていることだ。輸入先は発電量の約70%が原子力のフランスや、原子力発電を行うベルギーなど。
   
   国内の原発を止めても、「完全な脱原発」にはならないのが実情だ。
   
●再生可能エネルギー
   停止の原発で発電していた約6%分の電力は、再生可能エネルギーだけでなく、石炭火力なども検討予定だ。
   
   ドイツの電源は、現在、石炭が32%、天然ガスが14%、原子力6%、自然エネルギー46%。
   今後、再エネをさらに増やし、2030年までに国内電力消費の80%を賄う方針だ。
   
●強固な意志
   ウクライナ侵攻でエネルギー需給に不安があるのは、どの国も同じだ。
   とくに、ドイツはロシアから大量に天然ガスを購入していたから、その影響は大きい。
   
   だが、そんな状況で、反対意見も多いなか、原発停止を貫いたドイツ政府の頑固さに、敬服すら覚える。
   
   原発は、二酸化炭素を排出しない。だが、一度事故が起きれば、周辺地域だけでなく、国全体が、海が汚染される危険性がある。
   
   その処理と廃炉作業には、気が遠くなるような時間と膨大な費用がかかる。私たちは福島の事故で、その事を思い知った。
   
   電力逼迫を理由に、原発に依存する道を選択するのは簡単だ。だが、たとえ困難な道でも、そこに目標を掲げて頑張る。その芯の強さが、ドイツにはある。
   課題がたくさんあるから「やらない」でななく、やるべき事を乗り越えていく。
   その姿勢をドイツに見た。
   
   「原発回帰」を選択した日本。
   エネルギー事情はドイツと異なるが、進むべき道がこれでいいのか、政府も国民も、今一度、熟考して欲しいと、切に願う。