買われるニッポン

 

 

   かつて、バブル景気の時代に、三菱地所がニューヨークのロックフェラーセンターを購入し、話題になった。
   それから30年経過した今、日本の観光地を始めとする不動産物件が、外国人に買われている。
   
●ニセコ
   外国人が積極的に購入している代表的な場所が北海道のニセコだ。
   
   スキーブームに湧いた1990年代から比べると、スキー人口の減少に伴い、ニセコを訪れるスキー客も減っており、2021年は200万人と、ピークの1割くらいまで落ち込んでいる。
   スキー場も4割が閉鎖された。
   
   だが、ブームが去ったあとも、国内外の観光客が増え続け、2018年度は164万人と、人気の観光地となっている。
   
   その点に、目をつけた外国人投資家が、1万坪の雑木林を43億円で購入したり、次々と物件を購入。街のホテルは香港やマカオの資本で建てられているものが多く、90%以上が外資によるものだという。
   
   これに対し、街の人は、概ね歓迎している。
「海外の資本が入ってきて、街の景気が良くなっている」
「外資の力で、いろいろな建物が増え、人口も増えて、活気づいている」

   そのため、ニセコの路線価は上昇し、今や、札幌市中心街を上回る価格になっている。
   
   このように、ニセコでは、海外の資本が入ることによって、街が新しくなったり、雇用が増えたり、新たな産業が生まれるなど、街全体を潤す結果になっている。
   
   こうした海外資本による不動産投資は、ニセコだけではない。東京の豪華マンションやその他の地域でも、外国人による購入が増え、2022年(7~9月)は689億円と、前年比4.6倍にまで伸びている。
   
●不安の声も
   だが、一方で、住民から不安の声が上がっている地域もある。
   
   それは、熊本だ。
   2019年、熊本駅から車で10分くらいの遊水池を外国人が購入した。
   中国の水源専門の不動産投資会社らしいが、遊水池を何に使うのか、何が目的なのか、住民からは不安の声が上がっている。
   
   というのも、熊本市は全国で唯一、水道水の100%を地下水で賄っている市(人口50万人以上の都市で)だけに、水を海外資本に握られるのは、懸念材料だ。
   
   熊本に限らず、水資源が豊富な日本の他の土地にも問い合わせが来ているという。
   
●水資源
   こうした動きに対して、専門家は、日本の水資源に対する危機意識の低さに警鐘を鳴らしている。
   林野庁のまとめでも、豊富な水を蓄える日本の森林が買われており、これまで外国人が買った森林がある市町村は約70あるという。
   
   水資源をめぐる紛争の火種はずっとあったし、これからも熾烈になる。
   虎視眈々と周りから狙われているかもしれないという意識を、日本人は持つべき、との指摘もわかる。
   
   深刻な水不足は、世界的な問題だ。世界の3人に1人は安全な水を利用できていない。
   さらに、気候変動の影響や人口増加、経済成長などを考えると、「水資源不足は、21世紀における地球規模の課題」との指摘がある。
   
●0.01%
   人口が増加しても、地球上には限られた水資源しかない。
   
   地球上に存在する水のうち、約98%が海水で、淡水は約2%だ。さらに、淡水の大部分は南極や北極の氷山などであり、人間などの陸上生物がいますぐに利用できる水は全体の0.01%にも満たないという。
   
   日本は島国で海に囲まれているため、水資源が豊富にあるように思う。だが、地球温暖化によって積雪量が少なくなるなどの気候変動があれば、顕著に影響が出る。
   
   私たち日本人は、古来より、たくさんの河川と森林に恵まれて生活してきた。だが、その恵みの源泉である水を守るという意識は、薄いように思う。
   
   日本は島国なので、今すぐに水資源が他国に乗っ取られる心配はないと思うが、水資源をきちんと管理し、守る意識を、私たち日本人は、今一度再確認した方がいいだろう。
   
   インダス川をめぐるインドとパキスタン、ナイル川をめぐるエジプト、スーダン、エチオアなど、世界では川の利権をめぐる紛争が絶えずある。これらの事実が、水資源の重要性をよく表している。
   
   外国人による不動産投資を手放しで歓迎するだけでは済まない問題もあるという事を、再認識させられた。