高齢者も働きたい
たいていの日本の企業では、60歳定年制だが、60歳ですっぱり仕事を止めるという人は少ないのではないか。
平均寿命(男性81.47歳、女性87.57歳)が延びて、元気な高齢者が多くなっている昨今、定年過ぎても働きたいという人が増えている。
●70歳でも……
高齢者にもっと活躍してもらいたいとう趣旨で、2021年4月、政府は希望すれば、「70歳まで働き続けることができるよう就業機会を確保することを、企業の努力義務とする」法律を施行した。
その結果、現場では少しずつ変化が表れてきている。
例えば東京都が主催する「高齢者の再就職支援セミナー」。
週4回開催されているが、最近は定年後も働き続けたいという人が多く、年間約7000人が参加している。
75歳の男性は
「多くの人と接することで、自分の老いを忘れるという面がある」
62歳女性、
「自分の余暇や趣味を生かしながら、仕事ができれば」
高齢になっても、働ける環境があるなら、働きたいと考えている人が多い。
●企業側は
厚生労働省が従業員21人以上の23万社余りを対象とした調査では、
「70歳まで働き続けられるよう対応している」と答えた会社が、27.9%あり、前年比2.3%増と、企業側も、高齢者の受け入れに前向きになっていることがわかる。
具体的な対策としては、継続雇用制度の導入が最も多く、78.1%だった。
また、定年制の廃止(14.0%)や定年の引き上げ(7.0%)など、さまざまな制度を導入している。
●生き甲斐
足立区のシャッター製造会社では、段階的に定年を引き上げ、2022年からは70歳とした。
この会社では、定年後も希望すれば正社員として再雇用し、年齢の上限を設けずに働くことが出来るという。
さらに、高齢者の採用も積極的に行い、現在33人の従業員のうち、60歳以上が半数余りを占めるという。
78歳の男性は
「生涯現役が夢だったから、有り難い」
この会社では、年齢を理由に処遇や給与水準を引き下げず、高齢者が働きやすい環境作りに努めている。
そのために、職場ではいろいろな工夫をしている。
立ち仕事も、椅子に座ったままで出来るようにしたり、転倒防止のためのスロープを設定したり、さらに工具は床に置かず、天井からぶら下げるようにしたりしている。
会社の社長は、高齢者に出来るだけ長く働いてもらいたいという。
●意外な効果
ある家電販売大手は、3年前に、雇用延長の上限を、原則80歳に引き上げ、希望があれば、さらに働ける環境整備をしている。
ここで働く81歳の女性。
重いもの運んだり、高い所に商品を補充したり、年齢を感じさせない働きぶりで、職場の信頼を得ている。
さらに、ゆっくりとわかりやすい接客が、同年代の客を中心に好評だという。
意外な効果として、若い従業員も、刺激を受けている。
楽しそうに仕事をしている姿を見て、自分も将来そうありたいと目標にし、時には人生相談に乗ってもらったりと、世代を超えた結びつきが生まれている。
一方、81歳の女性も、知らない事を若い人に教えてもらったり、自分の経験からのアドバイスをしたりと、相互関係が築かれている。
●多様化に応じた仕組みを
総務省が2022年9月18日に公表した「統計からみた我が国の高齢者 」によれば、高齢者人口は3627万人で、総人口に占める割合は29.1%と過去最高になった。
それに従い、高齢就業者も過去最多となり、2021年の高齢者の就業者は909万人だった。
65~69歳全体の就業率は初めて50%を超え、70歳以上も18.1%と2割に近づきつつある。
男女別で見ると、(65~69歳)男性は60.4%、女性は40.9%が就業している。
今や、男性では60歳代後半で働くのが「普通」といえる時代になった。
こうした状況から見ても、働きたいという人たちの希望に応じた多様な働き方が出来るように、柔軟な働き方や時間、また業務や役割など、1人1人に合う働き方を用意して、自分の力を生かしたい、あるいは人と繋がりたいという、経済的理由以外で働きたいと思う人たちのために環境整備を、今後より一層強化していることが必要と思います。